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やがて魔女へ至る  作者: あいおお
第一章「幼年期編」
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5

  魔国歴426年 4


 決着からしばし呆然としていたアースは、団長の声でハっとして一礼した。

 ちなみにこの国では負けた方が一礼するのが作法だ。

 すこしふらついた足取りでアースは下がっていった。

 ほかの団員に肩を叩かれたりしている。


「お嬢」

ヴォルサスが寄ってきた。

「流石に驚きましたぜ。

 お見事でしたが、いったいどうやったんですかい?  

 俺にはアースが剣を振る時にはお嬢が既に動いてたように見えたんですが・・・

 思い切りが良すぎて勘で飛び込んだんじゃないことは分かるんですがね・・・」

 うーん、何を不思議がっているのだろう?

「えーと、攻撃をする前に魔力が動いたのでそれで分かっただけなのですが・・・」

 そう言うと、ヴォルサスはより一層分からないと言った顔で、

「でも、アースは特に魔法を使ってなかったですぜい?」

「え? 魔法を使わなくても魔力は持ってますわよね。

 魔力は意識に呼応して動くので、攻撃が丸わかりでしたわよ?」

「マジですかい? そんな話聞いたことないんですがねえ・・・

 レイア、試しに嬢ちゃんとやってみてくれ」

「ハッ!」

 レイアが進み出てくる。

「えーと、流石にレイアとじゃ技量差がありすぎてどうにもならない気がするのですが・・・」

 私が逡巡していると、

「まあものは試しってやつですぜい、負けたって構わないんだから気にせず当たってみてくだせい!」

「ぐ、仕方ありませんわね。レイア、お手柔らかにね」

「あとレイア、武器は小回りの利く小剣でやってくれ」

「了解です」

どうやらヴォルサススはさっきみたいな破れかぶれにも見える飛び込みがしにくい武器をご所望のようだ。


 先ほどと同じように少し距離を空けて互いに構える。

アースには悪いがプレッシャーが段違いだ。

 付け入る隙が見当たらない。

「では、始め!」

 

 合図と同時にレイアが掛けてくる。

 レイアが得意とする戦いは速度を生かした先制だ。

 まずは刺突。

来るのは分かっているので先ほどと同じように前に踏み込む。

 瞬間、魔力の流れが変化する。

 武器の軽さを生かして横薙ぎに変えてくる。

 咄嗟にナイフでガード。

 ガキンと金属音が響く。

 そのまま体を沈めて足を狙うが、レイアはバックステップで距離を取った。

「本当に攻撃が分かるみたいですね、ヴィラ様」

「ええ、でも私の動きじゃレイアには届きませんわね」

「流石にそう簡単にやられるくらいなら小隊長は務まりませんよ。

 では、こういう攻撃ならどうですか!」

 今度は先ほどのような全力の突きでは無い、ステップを織り交ぜながら目まぐるしく攻撃の軌道を変える変幻自在の剣だ。

 しかも、こちらのリーチの外側をしっかりキープするというおまけ付きだ。

 ハッキリ言って嫌らしい、しかし堅実な立ち回り。

 時に躱し、時に受け止めているが常に劣勢を強いられている。

 正直、レイアがこの攻撃方法を続けている限り私には踏み込む技が無い。

 が、攻めあぐねているのはレイアも同じらしく、ひたすら私が防御し続ける展開が続く。

 一歩間違えれば当然一撃を貰う展開だが、逆に集中力が増してきた。

 この状況をどうにかしようと考えを巡らせるのが楽しい。


ずっと集中しているせいかかなりの時間が経ったように感じる。

 実際どれくらいかは分からないけど。

 おそらくこのまま行けば、どちらかの体力か集中力が途切れて勝負が決まるだろう。

 だが、お互いそれじゃあつまらない。

 レイアもリズムやパターンを変えながら勝機を掴もうと攻めてくる。

 

 一つだけ考えが浮かぶ。

 が、失敗したら間違いなく大きな隙をさらし負けるだろう。

 でも、折角の模擬戦、試してみないのは勿体ない。

 それにこれは、私の立てている一つの仮説にも通じる。

 狙うはレイアの力の乗った振り下ろし。  

努めて冷静に機会をうかがう。

 レイアの鋭い切り返しに一瞬私の体が流れる。


 来た!


 レイアは隙を見逃さない。

 私の体は崩れている。

 勝負を確実に決める袈裟切り。

 私は無理な姿勢から強引に体を引き戻し、片手で力任せに(・・・・)レイアの剣を正面から全力で迎え撃った!

 そして・・・


 ガキッと金属同士がぶつかる。レイアの剣は大きく弾かれ、そのまま手をすっぽ抜けて二階の壁にぶち当たった。


訓練所は何度目かの静寂に包まれる。

 

「そ、そこまで。勝者お嬢!」


 レイアは一瞬がくっと膝を突いたが、すぐに立ち上がり礼をした。

「負けました、ヴィラ様。びっくりしましたよ」

「レイアこそ全く隙がなくて流石でしたわ。

 それに本番では強化魔法を使うのでしょ? 

 私は魔法が使えないのでこうはいかないでしょうね」

「おいおいお嬢、どうなってるんですかい?」

 ヴォルサスがのっしのっしやってくる。

「確かにお嬢の言うとおり本当に攻撃が分かるってのはわかりやした。

 そうじゃねぇとあれだけの攻撃をしのぎ切れる説明がつかねぇ。

 しかし最後のアレはいったいなんですかい。

 俺には無理矢理剣を払っただけに見えたんですが・・・」

 ヴォルサスがクビを傾げている。

「ええ、全くその通りでしてよ」

「いくらレイアが女で力自体は弱い方とはいえ、一人前の騎士。

 鍛え初めて数日のお嬢が力で勝る道理が無いはずなんですが・・・」

「えーーと。

 私にも一応仮説はあります。が、本当の所は分かりませんわ。

 この件は一度お父様に話を聞いてみる必要がありますので、今は保留にしておいて下さいまし」

「ハハ、そう言われちゃもう何も言えないですぜい。

 わかりやした、また何か分かったら教えて下さいですぜい」


 私は思いついた仮説をお父様に話したくてうずうずしていた。

 だってこれが私の魔法の第一歩になるかもしれないのだから!

 

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