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魔国歴426年 3
あれから数日、侯爵令嬢としてのレッスンをこなし、魔法書を読みあさり、さらに物理騎士団で武術の訓練するというなかなかにハードな日々を送っている。
もちろん、魔力の鍛錬をしながらだ。
正直な所、魔法が使えず呪い子などと呼ばれている私を貰おうとする物好きなんて、アレスフォート家に取り入ろうとする輩以外に考えられないし、どうせ家は弟が継ぐのだからその時間を魔法の勉強に充てたいというのが本音だ。
まあ、親の顔を立てるのも貴族の宿命だからそこは我慢するけどね。
少しでも時間を節約するために、どのレッスンも本気で取り組んでいるからか、教師達には優秀だとおだてられている。
まあそんなことより、今日も訓練の時間だ。
実は最近一つの仮説を思いついて、武術の訓練が結構楽しみだったりする。
ちなみに、領主の娘にいつまでも少年兵の格好はさせられないという声があって、急遽私用に服を仕立ててもらった。
体にすらりとフィットしたパンツルックで、なかなか格好いい。
ま、この私が来たら何でも似合うに決まってるけどね!
そんなこんなで今日も訓練をしている。
あれから、剣だけで無く色々な武器を試してみた。
どの武器も動きに違いがあって面白い。
でも一番しっくりくるのは剣かナイフかなー
流石に槍なんかは私の体格には大きすぎて、今のところ余りうまくは扱えていない。
どんな武器もしっかり扱えるレイアはやはり凄い。
実はレイアは小隊長を務めているらしいんだけど、こんなに私にばっかり付き合っていていいんだろうか?
まぁ、団長のヴォルサスの命令だから仕方ないんだけどね。
なので、必然的にレイアの小隊に混じって練習することが大半になった。
「お嬢」
いつもの調子でヴォルサスが話しかけてくる。
「大分武器の扱いにも慣れてきたみたいだし、今日はちょっと模擬戦を試してみますかい」
突然の提案に隊の皆がざわつく。
「だ、団長!? 確かにヴィラ様は筋がいいですが、流石にそれは無茶苦茶では!?
それにヴィラ様が怪我でもしたらどうするんですか!」
当然レイアが抗議する。
「大丈夫大丈夫、寸止めだよ寸止め」
「それはそうですが、万一ということが・・・」
「なんだあレイア。お前の隊は寸止めも出来ない下手くそばかりなのかい?」
「そ、そんな分けないでしょう! 我が隊を馬鹿にしないで下さい」
「なら問題ねえな。
お嬢、どうですかい?」
ヴォルサスに言われて一思案する。
はっきりいって、人と武器を持って戦うなんて怖いに決まってる。
でも、どうしても確認したいことがあったので、折角の機会を無駄にするなんて出来ない!
「私も折角武術を教えて頂いているのですから勿論挑戦したいですわ。
ですが、流石に寸止めするほどの技術はありませんわよ?」
それを聞いてヴォルサスは大声で笑った。
「ハハッハ。
そりゃあ心配しなくても大丈夫ですぜい。
流石に初めて数日のお嬢にやられるようなのはうちにはいねぇですよ。
安心してくだせい。折角なんでお嬢に人と武器を合わせる楽しみを知って欲しいんですよ」
「それでしたら、よろしくお願いしてもいいかしら、レイラ?」
レイラは困りながらも
「ヴィラ様がそこまで仰るのでしたら、異存はありません。
アース、お前がお相手差し上げろ」
「ハッ」
レイアの隊から若い男が進み出る。
若いと言っても私の倍くらいの歳だろうけど。
「アースは若いですが、実力は折り紙付きです。間違ってもヴィラ様に怪我をさせることは無いでしょうし、ご安心して戦って下さい」
「はい、胸をお借りしますわ」
「ヴィラ様、武器はどうなさいますか?」
「そうですね・・・
ではナイフで行きます、今のところ一番しっくり来ているので」
「かしこまりました」
ナイフといっても戦闘用のナイフだ、私が持つと大分大きく見える。
勿論刃引きはされている。
アースはオーソドックスな長剣使いのようだ。
私たちが準備を始めると、他の騎士団の人たちも集まってきた。
みんな興味津々だ。
正直恥ずかしいので勘弁して欲しい。
少し距離を空けてアースと向き合う。
「お嬢は初めてなので好きに動いて下せい。
アースはああ見えてやり手ですので、思いっきりやって大丈夫ですぜい」
「わかりましたわ、よろしくお願いしましてよ」
流石に緊張で少し震えているのが分かる。
一度深く呼吸をすると震えが治まってきた。
静かにナイフを逆手に構え、腰を落とす。
「では、始め!」
合図と同時にじりじり距離を詰める。
私のような素人が真っ直ぐ突っ込んで勝てるような素人ではない。
また、アースも相手が女子供だからといって気を抜くようなことはしない。
普段から魔物を相手にしているだけに、どんなに弱い相手でも少しの油断が命取りになることを知っているのだ。
私の方が圧倒的にリーチが短い。
だから勝機があるとすれば内に飛び込むしか無い。
距離を詰めつつタイミングを見計らう。
瞬間
ー視えたー
アースが剣を袈裟に振るう。
その瞬間私は半身で懐に潜り込み首筋に刃を添えていた。
静まりかえる場内。
「お、お嬢の勝ちだ」
ヴォルサスが真っ先に我に返り声を上げた。