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魔国歴426年 2
訓練所の内周にそってゆったりとしたペースで走る。
走ったことなんて今まで無かったので、新鮮だ。
走るフォームとかはさっぱり分からなかったけど、レイアが丁寧に教えてくれた。
今はレイアの後をついて行く形で走っている。
今日は私の面倒をレイアが見てくれることになった。
自分の訓練もあるのに申し訳ないが、女の人に見て貰えるのはありがたい。
五周ほど回った所でランニングは終わりのようだ。
少し息が上がっている。
「ヴィラ様、本当に普段運動してないのですか?
なかなかの距離を走ったと思うのですが・・・」
「レイアがゆっくり合わせてくれておかげで平気ですわ」
レイアは不思議そうな顔をしている。
「おい、嬢ちゃん」
そこにヴォルサスがやって来た。
「走ってるとこ見てたがなかなか様になってたじゃないですかい。
そうだ、折角なんで剣も振ってきますかい?」
「だ、団長!?
流石にヴィラ様にそれは・・・」
「剣、振ってもいいんですの?
是非やってみたいですわ」
「お、いいねえその好奇心。レイア、俺は用があって出かけるからよろしく教えて差し上げるんだぞ!」
レイアは観念したように、
「領主様に怒られても私は知りませんよ・・・」
レイアが少年用の木刀を持ってきてくれた。
「ではヴィラ様、私の真似をしてこれを振ってみて下さい。
木剣とはいえ、見た目より重いのでお気をつけ下さいね」
「よろしくお願いしますわ」
「では行きますよ、ハッ!」
レイアは上段に振りかぶった剣を切り下ろし、真ん中でピタリと止める。
ヴォルサスが認めるだけあって、とても洗練されているように感じる。
「レイア、素敵ですわ!」
「有り難うございます、これでも鍛えてますので。
ではレイア様もどうぞ、慣れないうちは危ないのでゆっくりで構いません」
「分かりましたわ」
レイアの真似をして木剣を構える。
上段に振りかぶり、
「ハアッ!」
思ったよりも勢いが付いてしまったが、なんとか止めることが出来た。
「やりましたわ! どうですかレイア?」
レイアはなんだか驚いた顔をしている。
「レイア?」
レイアはハッとすると、
「驚きました、なかなか思うように振れない物なのですが・・・
重くは無かったですか?」
「いえ、それほどでは・・・
やはり皆様と違って木なので軽いのでしょう」
「そういう問題では無いはずなのですが・・・
少し待っていて頂けますか」
そういうとレイアは鉄の剣を持って戻ってきた。
「試しにこれを振ってみてもらえますか?
刃を潰した練習剣なので危険はありません」
レイアが鉄の剣を差し出す。
銀色に光るそれは、刃を潰してあるとはいえ確かに凶器というのが分かるので、少し体が震える。
恐る恐る受け取ると、一つ深呼吸をする。
すうーー、はぁーーーー
自然と震えが治まった。
「よし」
集中して先ほどと同じようにゆっくり剣を振りかぶる。
「ハアッ!」
振り下ろしピタリと止めた。
「で、出来ましたわ!
い、いかがですか、レイア!?」
「・・・・・」
レイアが固まっている。
失敗してしまったのかな?
「ヴィラ様、大変失礼なのですが少し体を触らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
レイアが突然よく分からないことを言い出した。
「べ、別に構いませんが、一体どうしたのですか?」
難しい顔をしながら、
「失礼します」
と、腕や背中なんかを触ってきた。
ペタペタと無言で触られる。
「レ、レイア?」
レイアはハッとすると、
「も、申し訳ございません!」
慌てて飛び退いた。
「い、いえ、構わないのですが、一体どうしたとういうのです?」
「そ、その・・・お体を触らせて頂いたのですが、特に筋肉なんて全然無くて、とてもこの剣が振れるはずは無いはずなのですが・・・」
納得いかない顔をするレイア。
「でも、実際振れましてよ?」
「んーーー
ひょっとしたらヴィラ様には剣の才能がおありなのかも知れませんね・・・」
言われて驚く。
「け、剣の・・・才能・・・?」
そう言われると嬉しくないわけでは無いのだけど、正直言うと微妙だ。
だって、私が欲しいのは魔法の才能なんだから!
それからしばらくの間、レイアの真似をして色んな動きを練習した。
上から下へ、下から上へ、左右に斜めにそして突き。
最初はやっぱりバタバタと不格好な動きだったけど、徐々にイメージ通りに体が動くようになる。
出来るようになってくるとどんどん楽しくなって来た。
レイアと二人で一心不乱に剣を振る。
「おーーい嬢ちゃーーん」
向こうからヴォルサスが走ってきた。
「レイア、いつまでやってやがんだ!
まさかずっとやってたわけじゃないだろうな?」
ハッとして見渡すと、空から夕焼けに染まっていた。
「も、申し訳ありません団長!
ヴィラ様の飲み込みが余りにいいものでつい・・・」
「ついじゃねえ、馬鹿野郎!
お嬢、大丈夫ですかい?」
珍しく神妙な顔で聞いてくるヴォルサス。
???
正直何を心配されてるのか分からない。
「どうしたのヴォルサス。
私はただレイアの真似をして剣を振ってるだけでしてよ?
こんなに時間が経っていたのには驚きですが、楽しかった証拠ですわ」
ヴォルサスはしばらくポカーンとして、
「でも、疲れたでしょう。
どこか痛む所はないですかい?」
「痛みはないですし、とくに疲れてもいなくてよ」
「そんなはずはないんだが・・・」
ひとしきり考え込むと、
「よし、お嬢。
今日の所はここまでにしておきますが、よかったらまた好きなときに来てくだせい。
ヴィルムヘルド様には俺から話を通しておきますんで」
よく分からないけど、私の日課に剣のお稽古が追加されちゃったみたい。