冒険者編3
冒険者編 3
「帰ったぞ、ジジイ」
ドアを開け呼びかけるが返事は無い。
まあどうせ離れの研究小屋だろう。
とりあえず、分け前の肉を冷蔵の魔道具に入れる。
ちなみにこの魔道具はとても便利なのだが魔石を馬鹿食いするという特徴を持っているので、半分欠陥品ともいえる。
とりあえず冒険用の羽織を脱ぎ壁に掛ける。
今は血みどろだが、清浄効果が付与された魔道具なので、じきに綺麗になるだろう。
慣れた調子で廊下を歩き、裏庭に出る。
そこから渡り廊下を歩き、小屋に辿りついた。
小屋といっても結構大きい。
それこそ一般庶民の家以上だ。
躊躇せずにドアを開ける。
「おーーい、ジジイ。いるかー?」
声を変えると奥から。
「誰がジジイじゃ!」
と、いつも通りの返事が返ってくる。
いい加減慣れて欲しいものだ。
返事があったドアの前まで歩く。
錬金の研究室だ。
「今入っても大丈夫かの?」
念のため声をかける。
「大丈夫じゃ」
返事が返ってきたので荷物を一旦下ろし、ドアを開けて中に入る。
レイナスはテーブルについて一息入れている所だった。
この香りはコーヒーか。
部屋の中には様々な薬品や器具などが、所狭しと置かれている。
「ただいまなのじゃ」
「今日はえらい早かったのう」
「なかなかの大物を仕留めたからの、持ち帰るのに手一杯じゃったわ。
それに今日のメンバーは斥候のディースしかおらんかったからの。
あやつも腕は悪くないんじゃが、流石にあれ以上奥は実力不足じゃろ」
ちなみにレイナスは白髪に皺の入った顔をした文字通りの年寄りだ。
いつもヨレヨレの白衣を着ている。
しかし、目はギラついており、研究への意欲が衰えていないことが分かる。
「ふむ、なるほどの。
で、今日は何を持って帰ってきたのかの?」
「今日の獲物はブルメスじゃ!
なかなかレアな魔物じゃろ?
研究に使えそうな素材と魔石は頂いてきたぞ。
あと、いつも通り道中で薬草などは採取してある」
ワレの台詞を聞いてレイナスがむせ返る。
「ブ、ブルメスじゃと!
複数パーティーか騎士団扱いの凶悪な魔物じゃ無いか。
そんなもの二人で仕留めたのか?」
「そうじゃが?
まぁ確かになかなかの突進ではあったのう」
「相変わらず無茶をしおる。
何かあったらヴィルムヘルド様に申し訳が立たぬでは無いか・・・」
レイナスはヴィラの正体を知る数少ない一人でもある。
身分を偽って活動するための、ある薬の開発者だったことに加え、名うての錬金術士であったこと。
お父様の信のおける古い知り合いだったことなどの理由から予め紹介してもらっていた。
そして、錬金術の才ありと認められ、今は住み込みで教えを請うているというわけだ。
ちなみに、錬金術以上に言葉の師匠でもある。
今の喋り方はレイナスの影響なのだ。
「心配するでない。あれくらいの魔物を一人で倒せずに、どうやってドラルコンを倒すというのじゃ?」
そう、今の当面の目標はドラルコンの討伐である。
正確に言うと別にドラルコンでなくてもよいのだが、ドラルコンが魔法を使うのは分かっているので、最優先の標的なのだ。
「ドラルコンのう・・・
一年前の襲撃以来とんと話を聞かんが、こだわるのう。
騎士団も調査隊を何度か派遣したが結局居場所はつかめずと聞いておるぞ」
まあ、レイナスの言うことももっともだ。
「騎士団は忙しいし、調査に割ける人数も限られておるからの、仕方ないのじゃ。
だからワレは冒険者になったのじゃからのう」
「とはいえ、あまり芳しくはなさそうじゃな?」
「ううむ、そうなのじゃ。
一応領主からも調査依頼が出ているとは言え、どこに居るかも分からない上、さらに強力な魔物であるドラルコンと戦わなければならない可能性も考えると、割に合わないと考えるハンターが殆どみたいでの。
なかなか本気で取り組んでくれるパーティーが見つからんのが現状じゃ」
「まあそりゃそうじゃろうな。
いくら魔物退治が専門のハンターとはいえ、生活がある。
しかも死の危険も高いとあってはのう」
「それは分かっておるのじゃが、それでも大物を倒して名を上げたいというものがもっといてもいいと思うのじゃ!」
「ふむ。確かにそういうハンターもおるにはおるが、名を上げたい腕自慢は大抵王都や商都などの大きい街におるからのう。
たしかにここアレスフォートの魔物は強力じゃ。
しかし辺境なのに加え、騎士団が強力なのであまり大型の依頼が冒険者に回ってこないのじゃ。
割に合わんというのが正直な所じゃろう」
「やはりそうか・・・」
「それに、もしドラルコンが見つかったとしてどうするのじゃ?
確かにお主は強いが、空を飛ばれたら流石に手も足も出んじゃろ?」
痛い所を突いてくる。
「うむう・・・
正直今のところ、飛ばれる前に近づいて倒す位しか考えつかないのじゃ。
ドラルコンを落とすことが出来る魔術師か、せめて腕のいい弓使いが欲しい所じゃのう・・・」
「ほっほ、それは難しい注文じゃの。
まあ気長に探すことじゃ。
そんなことよりホレ」
「なんじゃ?」
「なんじゃじゃなかろう馬鹿者め。
さっさとブルメスの素材を出すのじゃ!
無駄にじらしおってからに」
レイナスがせかしてくる。
「あー忘れておったわ」
といって部屋を出て素材を持ち込む。
「ほれこいつらじゃ、使えそうなとこと魔石を採ってきてやったぞ」
それらの収穫物を見ると、レイナスは目を輝かせた。
「ほおおお、これは見事な素材じゃ。
状態もいい。
流石じゃ。
お前さん、狩りはうまいのう」
褒められて悪い気はしない。
「さあ、これで何を作ろうかの。
お前さんもさっさと着替えて手伝うのじゃ!」
「ええー、ワレは冒険から帰ってきたばっかりなんじゃが・・・」
一応文句だけ言ってみると、
「お前さんが半日やそこらの冒険で疲れるものか。
さあお楽しみの時間じゃぞ」
まあその通りではある。
それに正直錬金術や魔道具作りは好きだ。
魔法を使えなくても出来る作業が沢山あるからだ。
主流派ではないものの、錬金や魔道具作りも魔法研究の一環である。
楽しくないわけが無い。
もちろん魔法が必要な作業は出来ないが・・・
「では着替えてくるのじゃ」
そういって一旦部屋にもどり、着替えてから作業を手伝う。
これが冒険者になってからの大体の一日の流れだ。
それから三日後。
チャンスはやって来た。