冒険者編1
ここから第二章「冒険者編」の始まりです。
第二章 冒険者編
魔国歴427年
森の中を駆ける音がする。
魔力の気配がこちらに向かってくる。
この密度は間違いなく魔獣だ。
少し開けた所で深呼吸して獲物を待つ。
「エメリー、そっちへ行ったぞ!
任せた!」
「任されたのじゃ!」
自信満々に答えると茂みから大きなイノシシ型の魔物、ブルメスが飛び出してきた。
二本の突き出した牙が凶悪だ。
こちらを見とがめると、目を爛々と光らせ突進してくる。
私は正面から動かない。
人間の数倍はあろうかというブルメスはまさに走る凶器だ。
その突進を、
ドンッ!
辺りに響く低い音。
ブルメスの牙を正確に掴み、その突進を正面から受け止めたのだ!
分厚い壁にぶち当たったような衝撃を受けたブルメスは前につんのめり後ろ足が跳ね上がる。
私はそのままブルメスを一気に持ち上げ、後ろに投げ落とした!
一瞬ブルメスの意識が飛ぶ。
その隙を逃さずに足帯の鞘からナイフを抜きだし、一息で首筋に突き立てる。
ブルメスは激痛と死の危険を察し最期のあがきで大暴れするが、私は意に介さずズブズブと腕ごとナイフを体の奥にねじ込んでいく。
私の腕が中程までブルメスの首に埋まった所で、ようやくブルメスは絶命した。
相変わらず凄い生命力だ。
惚れ惚れする。
ブルメスが死んだのは、肉から魔力が抜けていき柔らかくなって来ていることで分かる。
やはり体の強靱さは魔力に影響されるという私の推測が正しいことを再認識しニンマリとする。
魔獣が絶命したのを確認して、茂みの中から斥候けん追い立て役の少年が顔を出した。
少年といっても、私からしたら大分年上だけれど。
「相変わらずすげーなエメリーは。
こんなでかい魔物の突進を正面から受け止めるなんて正気の沙汰じゃ無いぜ」
「まぁコツみたいなもんじゃの」
「コツで済む話かよ・・・」
「ま、良いでは無いかディース。
こんな大物が仕留められたんだから結構な報酬になるであろ?」
「ああ、そりゃあもちろんだ」
「では、いつも通りワレは報酬はいらんので魔石と必要な素材、あと肉を少しくれ」
話ながら目星をつけ、肉を抉って魔石を取り出した。
魔石は黒く光るこぶし大の石だった。
「おお、なかなかいい魔石じゃ」
そしてメインの牙ほか数カ所を分解、ついでに血抜き用の切り込み等を入れていく。
「しっかし、こっちは追い立てるだけで、戦うのはエメリーなのに割に合ってねえんじゃねぇか?
皮とか骨や肉の残りの素材も自由にしていいんだろ?」
「構わぬのじゃ。金は素材さえ持ち帰ればレイナスのジジイがくれるしの。
それに戦うのわワレじゃが、斥候や追い立てだって立派な役割、今はお主とパーティーを組んでおるのじゃから気にする出ない」
「ま、お前がそれでいいならそういうことにしとくぜ、エメリー」
「うむ」
「じゃあ大物も仕留めたし帰るか。
ってもコイツはデカすぎるな。
分解して金になる所だけ持ち帰るしか無いか?
こういうとき魔術師の仲間でも居れば便利なんだけどな~」
「ん? もちろん全部運ぶぞ?」
私が当然のように言うと。
「へ!? どうやって・・・?」
「こうするのじゃ!」
ブルメスを持ち上げ下に入り込んで背負い上げる。
ディースはあんぐりと口を開けている。
「ほれ、行くのじゃ」
「なんつー怪力・・・
絶対コツとかじゃねぇな・・・」
「何か言ったかの?」
「いや、別に」
まぁしっかり聞こえていたんだが、気にすること無く歩き出す。
「歩いてる内に血が抜けて軽くなるじゃろ」
「そうそう、それだけど、こんだけ血をまき散らしながら帰ったら他の魔物が襲ってきて危なくねぇか?」
「ま、普通はな。
だが、こいつはブルメスじゃぞ。
こんな大物を倒せる相手に喧嘩を売るほど魔物の知能は低くないから大丈夫じゃ。
それに普通の獣は魔物には近寄らないからの。
まぁ心配するな。
ここからだと森の中で血は抜けきるから街まで血の道が出来るなんてことはないのじゃ」
ディースは頭をガシガシ掻くと、
「ああ、もう分かったよ。
ここは新進気鋭のハンター、エメリー様に任せますよ~」
「うむ」
そういって魔物を担ぎ街へ歩く。
目指すはアレスフォート領都ティーゲルグルトの街だ。
ヴィラミニエ=アレスフォート7歳。
今は紆余曲折あってエメリーと名乗り冒険者、それも主に魔物狩りをしている。
これも全ては魔法の為だ!