第8話 悶絶
「…いや、元はと言えば私の伝達不足だから」
女子高生に謝罪され、私は萎縮した。彼女からしてみれば、初めから私は邪魔な存在でしかなかったろう。ただ最後の思い出が欲しかっただけだといった彼女。事情を知らなかったとはいえ、私は後をつけたり監視したりした。その上連れて行く気だったのか…と問えば、怒りも湧いてくる。
「えっと…雫さん? よく解らないんだけど、体は…その、大丈夫?」
決められた曜日でもなければ時間もそれなりに要した。ルミばぁが体調を考慮して2人で決めたというルールを、私は自分の知りたいというワガママによって覆した。さっき彼女が見せた涙は、感情が昂ったせいだと思っていたが、よく見れば顔色が良くないようにも見えるし、息切れを起こしている。
「…大丈夫です。少し休めば…平気」
平気そうには見えない彼女の腕を私は取った。
「え…あの、ちょっと…」
私は女子高生の腕を取って、自分は縁側に腰掛けて、女子高生の体を私の膝上に寝かせた。いわゆる膝枕というやつだ。女子高生は何が起きたか解らないといった様子で、狼狽えていた。けれど動く気力すら残ってないようで、声では戸惑っているが、私のされるがままになっていた。
「顔色悪いから。まぁそれも、私のせいだと思うし、少なくとも自分のせいって解っていながらこのまま捨て置くとか、無理な性分だからさ。諦めて大人しく寝てなよ。それで少しでも元気になったら、また雫さんの文句でも何でも聞くからさ。とにかく今は休みなよ」
初めこそ抵抗しつつあったが、よっぽど辛かったのか、私の意志が固いと理解したのか…女子高生は、私に体を預けたまま目を閉じた。
それからちょっとずつ足が痺れてきた頃、私に背中を向けたままの女子高生が口を開いた。
「…どうして何も言わずに、私たちのこと、信じてくれたんですか? 後をつけるくらい怪しんでたのに…ルミおばあちゃんが私に憑依してることとか、それ自体について何にも聞かないのは、どうしてですか?」
不安からか背中を向けているせいか、女子高生の声はくぐもっていて、その呟きはかろうじて聞こえる程度だった。
私は聞かれたことに、何と答えようか迷った。
「あー…それは、正直言ってあんまり深く考えてなかった」
「え? 何にもですか!?」
正直に話せば意外だったのか、背を向け寝ていた女子高生が思い切り上体を起こして、私の方へ勢いよく振り向いた。私は女子高生の勢いに驚いて仰け反ったが、足の痺れに耐えきれず、そのまま前へ崩れ落ちた。
「え? 蕨さん!? 大丈夫ですか!!」
女子高生が心配して声をかけてくれたが、そのあまりに真剣味を帯びた声に、まさか足が痺れて動けなくなっただけだとは言えず、ただ痛みに悶絶していた。
「おばあちゃんどうしよう…蕨さんが…あ、救急車っ!!」
「救急車!? いやいやいやっ…いたた…救急車いらない。あの…足痺れた…だけ…だから」
顔面蒼白で救急車と口から出れば、慌てて口を開いて、女子高生を止めた。恥ずかしがっている場合じゃなかったので、足が痺れて動けないだけだというのも途切れ途切れではあるが伝えた。すると張り詰めた緊張の糸が切れたのか、女子高生が今度はその場に崩れ落ちた。
「げっ…ちょ、大丈夫? ごめん…そんなに慌てるなんて思わなくて。足が痺れたとも言いにくくてさ…悪かったよ」
「いえ、元を正せば膝枕のせいですから…」