第7話 失言
「え、待ってよ。決まった曜日と時間なのに、今日のこれは大丈夫なの?」
憑依されている女子高生の体を案じての、決められたルールがあると聞けば、今日のこの時間はイレギュラーだ。私がそれに対して質問すれば、ルミばぁが少し困ったように微笑んだ。
「そうねぇ…だからね、あんまり長い時間はこの子の負担になっちゃうからね、気をつけてるのよ。だから次が最後の質問ね」
最後の質問と言われれば、何を聞こうかと悩んだ。かといって、悩むことに時間もかけられない。時間がかかれば、これで終わりになりかねないと思えば焦りが先に立ってしまい、思わず出した質問に一瞬時が止まった。
「ルミばぁの目的はさ、結局最終的にどうしようと思って、じいちゃんと時間を過ごしてるの? …連れて行くの?」
ルミばぁは、間を置いてから首を振った。
気づけば、ルミばぁは居なくなっていた。見た目はずっと女子高生のままなのに、明らかに纏う空気が変わった気がした。
「…どうしてですか?」
女子高生を見つめていると、少しハスキーな声で問いかけられる。でも何に対して聞かれているのか解らず首を傾げると、女子高生は興奮したように声を荒らげた。
「ルミおばあちゃんが、どれだけ長い間待っていたか知らないでしょう? ただ純粋に人を好きになって、約束して…別れて、それでも待っていたのに、あなたのおじいさんは別の人と結婚したんです。おばあちゃんとの約束も忘れて…それでもおばあちゃんは、何も言わずに一緒に過ごした日々を思い出にして、一人で生きると決めたんです。病気で倒れた時も、亡くなる日も…なのにっ…おばあちゃんは話したいだけなんです。最後の思い出が欲しいだけ…」
女子高生は途中から気が昂って、堪らず涙を流しながら訴えた。私は彼女の言葉に、ただ立ち尽くすしかなかった。
ルミばぁに、連れて行くつもりがないことなんて、少し考えれば分かることだ。ただ毎週、決まった時間に会って話すだけの2人を見てきた。見た目の年齢こそ違えど、逢瀬を楽しむだけだった2人に嫉妬するほど、彼らはただの恋人同士にしか見えなかった。でもだからこそ、その先のゴールがどこなのかが解らなかった。ルミばぁだって、このまま永遠に女子高生としてじいちゃんとの逢瀬を重ねていくわけではないだろう。いつかまた、2人は別れを交わさなくてはならない。今度は、約束のきかない本当の別れだ。その別れの日がいつで、ルミばぁがどうするのかを聞いておきたかった。けれど結果的に私の言葉足らずで、2人を傷つけてしまった。
「…ルミばぁ、ごめん。じいちゃんを連れて行くつもりがないことくらい、解ってる。そんなことを言いたかったわけじゃなくて…ただいつかは別れが来るって思ったから、ルミばぁが最終的にどうしたいのかを聞きたかっただけ。守られなかった約束の代償として、じいちゃんを1発殴りたいなら協力するし、最後に公衆の面前でこっぴどくフッてやりたいって思ってるなら、全面的に支持するよ! でも…ルミばぁはそんなこと望んでないんだよね。私は、全然したら良いのに…って思うけどさ。ただ知りたかっただけ! それと…あんたにも悪かったよ。誤解を招く言い方で傷つけた、ごめん」
私がどこかに居るルミばぁと、女子高生に改めて自分の率直な気持ちを伝えて謝れば、女子高生は私をじっと見つめてから、口を開いた。
「…雫です。私も興奮して、蕨さんの想いを推測だけで反論して、ごめんなさい」