第1話 衝撃の光景
「あー、暇。マジでなんか面白いことないかなぁ。大体見渡せばカップルばっかって何の嫌がらせだよ?」
行き交う街はカップルだらけ。独り身には、生きづらい世の中になったもんだと溜息をついた時、目の端に異様な光景が広がっていた。一瞬、見間違いかと思って、目を擦って見たが、間違いなく現実だった。
いや、歳の差カップルは珍しくない。でもあれはどう見たって孫。でもどう見たってイチャイチャにしか見えない…。
目の前では老齢の男性が、見るからに女子高生と思わしき女の子と、そこら辺のカップルと同じように腕を組んでイチャついていた。しかもあろうことか、老齢の男性には見覚えがあった…。
「いやいやいやっ‼︎ 待て待て待てっっ⁉︎ こんなとこに居るわけないし、何かの見間違いだ! そうに違いない‼︎」
あまりのパニックに、心の中の呟きが声になる。近くを通る人に怪しげな視線を向けられているが、そんなことは気にならないくらい動揺していた。
一度目を閉じて、深呼吸してから開く。さっきはちゃんと確認出来なかった老齢の男性の顔が、今度ははっきりと目に飛び込んできた。紛れもなく、そこに居たのはうちのじいちゃんだった。女子高生と腕を組んで、イチャイチャしている…。
「じじいっ‼︎ てめぇ何してんだよ⁉︎」
ショックと気の緩みから、口が悪くなる。しかしそんなことは気にしていられない。
いや、待てよ。相手は女子高生だ。イチャイチャして見えるが、私がそういう目で見たせいで、実は知り合いの孫だったとかそういうオチがあるかもしれない。幸い私の荒げた声は、ここから少し離れた2人には聞こえていないようだったので、今まさに駆け寄って責め立てようとしたのを踏み止まる。しかし私の居る場所から、2人が何を話しているのか聞き取れないので、私はこっそりと距離を縮めて聞き耳を立てた。
「ジョーくん♪」
「ルミちゃん♪」
聞こえてきたのは、互いをあだ名で呼び合う声だった。どう見たって知り合いの孫じゃない。その時じいちゃんが、財布からお金を出して、女子高生に手渡した‼︎
「じっ⁉︎ (じい、そんな金どっから…っていうか、孫に一銭たりとも小遣いくれたことないのに、何考えてんだよ‼︎)」
思わず叫びそうになって、慌てて手で口を塞いだ。しかし興奮が抑えられず、言葉は小声となって溢れた。
女子高生と金銭が…それも諭吉が3人分も発生する関係なんて…嫌な予感しかしない。
いや、そんなはずはない。普段家から出ないし、機械音痴のじいちゃんが、出会い系なんて利用するはずはない。もう一度2人に視線を戻せば、女子高生は首を振ってお金を受け取らない。それでもじいちゃんは、女子高生を説得したのか、何とか諭吉を1人手渡した。「約束」だの「話し合った結果」だのと言っていた。
「まさか…じいちゃんの隠し子?」