次なる道のために
『エキシビションマッチが間もなく開始されます! あの絶対王者であり女帝のアリス=スカーレットが舞い戻ってまいりました! そんな女帝アリスの相手は海外の刺客であるレヴィアタンです! 海外のマジックアーツ選手はどういった戦いを見せるのでしょうか!』
「久々の戦場の空気はやっぱりいいな」
「絶対王者―――いえ、女帝アリス。今回は私の呼びかけに応じて頂き感謝します」
「マジックアーツの交流戦。それも世界が相手となれば興行として盛り上がる。受けない理由が無い」
「なるほど。私が想像した以上のお方のようです。それだけに惜しいです」
「惜しい?」
「すぐに分かりますよ」
『では、試合開始!!』
ゴングと同時に試合が始まる。エキシビションマッチではあるが、アリスは最初からフェニックスを発動して全力で迎え撃つ。だが、レヴィアタンは魔法を発動することなくアリスと対峙する。
「なぜ魔法を発動しない?」
「作戦です。・・・思った以上の魔力と魔法の練度。出し惜しみしていては負けそうですね」
「何を企んでいるか知らないが、観客は本気の戦いを望んでいる。悪いが本気で行かせてもらう!」
「そうでなくては困ります。反魔法 アンチマジック」
「こ、これは・・・」
「今回の仕事内容は王者の陥落を世界に見せつけること。引き際よく去ったのでは邪魔になる人間がいるということです」
「アンチマジックは禁呪だ。試合は中止だな」
「フィールドではなく個人に向けてのアンチマジックを検知する術はありません。現在もフェニックスが消えたのは私が魔法を使わないので対等に戦おうと王者がしていると観客は思っているでしょう」
「周りがどう思おうが私が審判に言い試合を止めさせる」
「そんなことをさせるとお思いで?」
レヴィアタンの指から放たれた魔法をアリスは紙一重で回避する。その魔法は壁に穴を開けるほどの威力であり、直撃すればただではすまない。
「な!?」
「言いましたよね? 私の仕事は王者の陥落を見せつけること。試合の勝ち負けではなく、再起不能まで徹底的にいたぶることこそが目的なのです」
「なんて奴だ」
「ご安心してください。私、苦しむ女性を見るのが最高に興奮するんですよ」
「何が安心できるか!」
次々と放たれる正体不明の魔法。圧倒的速度による魔法をアリスは回避する。アリスほどの経験値をもってしてやっとこさ回避出来るレベルの魔法にアリスは冷や汗を流す。
「これが世界レベル・・・。魔法無しの状態で戦っていては負けるな」
「よく避けれますね。では、もう少し速度を上げてみましょうか」
「くっ・・・!」
激しさを増した攻撃でアリスの体はどんどん傷付いていく。その状況を見ていた観客達は異変に気付き始める。何かがおかしいと。
「そろそろ幕引きにしましょうか。周りの人間も気付き始めたようですし」
「何を・・・言って・・・」
「ふふふ。さぁ、苦しみと痛みで顔を歪ませて下さい」
四肢に繰り出される攻撃で穴が開き、その場に立っていられなくアリス。膝から崩れ落ちそうになったところをレヴィアタンが髪の毛を掴んで倒れないようにする。
「意識はもうほとんど無いのに目が死んでいませんね。ですが、これで終わりです」
繰り出される拳がアリスの体を歪ませる。意識を失いかけている相手に対しての追い打ちに周りの観客が悲鳴を上げる。そして、審判が止めに入ろうとするが、レヴィアタンの魔法によって阻まれてしまう。
「邪魔はしないで下さい。王者であり女帝のアリスの最期なんですから」
「アリスさん!!」
「おや? 貴方は・・・知らない人ですね。アリスの知り合いでしょうか。残念ながら助けられませんよ。試合会場へは特定の場所からしか入れません。観客席は特殊なバリアで守られており、魔法などの侵入などを許しません。
そこで指をくわえてアリスが死ぬところを見ていてください」
ニコッと笑うレヴィアタンに観客達は寒気を感じた。そして、再び攻撃が再開される。あまりにも凄惨な光景に目を覆う人まで出てくる。
「いい加減に―――」
「ん?」
「いい加減にして下さい。アリスさんは戦えません。もう攻撃をやめて下さい」
「それは・・・出来ません。私の仕事ですし。なにより楽しいので」
「アリスさん、私が今助けます」
「無理ですよ。そのバリアは超特級魔法クラスで無いと破ることが出来ません。そんな魔法を使えるのは世界でも5人だけ。そこら辺の馬の骨だか知らない人には破れません」
「私は諦めません。アリスさんを助けるのに邪魔になるというのなら全てを突き破るだけ!」
翼の決意と覚悟は新たなる力をもたらす。雷を身にまとい、試合会場と観客席を隔てているバリアに対して攻撃を仕掛ける。凄まじい破壊力の攻撃で会場中に轟音が鳴り響き、全体が揺れる。
「恐ろしい力ですね。ですが、身体能力強化だけの魔法では意味が―――そんな!」
「ただ一度の攻撃で無理なら二度の攻撃を! 二度でダメならひたすらに拳を叩き込むだけ! 音を超え、光を超え、全てを超えて叩き込む!」
超高速の連打。雷による身体強化によって繰り出される尋常じゃない破壊力の拳。それをひたすら一点に叩き込み続ける。そして、ついにきっかけが生まれる。
「有り得ない。このバリアがただの物理攻撃で破られるなんて」
「うおおおぉぉぉーーー!!」
「仕方ないですね。バリアが破られる前に終わらせます」
レヴィアタンの魔法がアリスの額を貫くように照準を合わせる。そして、魔法が放たれ、アリスは命を落としたかと思われた。だが、間一髪のところで何とか翼が間に合った。
「アリスさん、お待たせしました」
「バリアは全損していないはず・・・どうして私が攻撃をするのに間に合ったの?」
「敵にそんなこと教えるはずが無いじゃないですか。それに私は怒ってます」
「あらあら。少女の怒りほど可愛い物は無いわ―――がっ!」
「喋らないで下さい。私、あなたのこと嫌いです」
「な、なんて一撃。私が反応できなかった。反魔法 アンチマジック」
「それは喰らいませんよ」
電気の球体を会場中に滞留させていたため、それを伝い高速で移動し続ける。アンチマジックに当たらなければ意味が無い。流石のレヴィアタンも狼狽える。
「このままでは不味いわね。撤収かしら」
「逃がすと思いますか?」
「物理攻撃しか無い貴方からなら余裕で逃げ切れるわ」
「そうですか・・・。では、これならどうですか?」
空中に滞留している球体が一斉に光を放つ。そして、レヴィアタンに照準を合わせると、その球体からレーザーが放たれる。
「貫きなさい インドラ」
「恐ろしい魔法。それを操るのが少女というのも恐ろしい事実ね」
「この攻撃からは逃れられません」
「常人ならそうでしょうね。けど、私は七つの大罪の一つであるレヴィアタン。この状況でも逃げることが出来るわ。―――あなたの名前は?」
「立花 翼」
「立花・・・翼・・・。なるほど。通りで異常な存在な訳ね。いいわ。あなたに免じて女帝にはもう手を出さないって誓ってあげる。仲間にも今後の手出しは無用と言い聞かせておくわね。
それじゃあね、未来の英雄さん」
「待ちなさい!」
インドラの攻撃は虚空を貫き不発に終わる。さっきまでそこにいたレヴィアタンはもう既におらず、そこにいた全員が困惑する。
「すぐに救急隊を!」
アリスの傷は思った以上に深く。生きているのが不思議なほどであった。翼は七つの大罪と呼ばれる存在を深く心に刻んだ。アリスにここまでした相手を許すわけにはいかない。