欲深き男 前編
生贄ナンバー1
名前 : 工藤 誠 (くどう まこと)
性別 : 男性
年齢 : 21歳
悩み : 就職・恋愛
魔女
メリー
自分からこんな占いに足を運ぼうと思ったわけじゃない。ただ幼馴染の女、洋子が将来の就職と今付き合ってる彼女、小夜のことで悩んでるのを知って噂の魔女を紹介してくれただけなんだ。
しかも行ってもたどり着くか分からないって言われてる場所なんか男の俺には興味はないけど、不思議とたどり着いてしまい奇妙な大きな目玉のついたドアの前に来てしまった。
ドアを開けると何とも女の好きそうなアクセサリーの数々が俺を迎えた。
ものめずらしそうに店の中を見ていると一人の真っ赤な髪をした背の高い女が俺に話しかけた。
「これはこれは。お待ちしてましたよ。くくく。
さぁ奥の部屋にどうぞ。」
腰まである長い赤髪にいわれるまま着いていくと、中には俺の肩幅の2倍ほどある机と椅子2つが合向かいにおいてあった。
そして机の上には古びた手のひらくらいの水晶が一つ置いてある。
「私はメリー。よろしくね。
じゃあ占いをはじめましょう。」
「え?俺まだ何も・・・」
「くくく、大丈夫よ。さぁ手を水晶にかざして。」
メリーは何も俺に聞かないまま、目の前に透明な水晶を出した。そして俺はいわれるまま水晶に両手をかざし、じっと水晶の中を見つめた。そこには俺の顔とメリーの顔が逆さに映ってるだけで何か変化が起きるわけではなかった。しかしメリーは少し黙った後、また奇妙な笑い声を上げた。
「くく、トラブルを起こす人があなたの近くにいるわね。
あら、もうあなたも被害にあってるわ。」
「え?被害って・・・」
メリーは俺の質問に答えないまま、続けた。
「第一希望の会社は入社できても、あたなはすぐに辞めてしまうわ。
ううん。辞めさせられるように仕向けられるの。
どうもトラブルメイカーさんがあなたを好きすぎちゃうのね。
離れたくなくて同じ会社を受けるけど、彼女は落ちちゃうのよ。」
トラブルメイカー?
一瞬で洋子の顔が浮かんだが、同時に小夜の顔も浮かんだ。好きすぎるって事は彼女だよな。
「ううん、最初に浮かんだほうよ。」
俺ははっとメリーの方を見た。何もいっていないのに、まるで俺の心を読み取られたようにメリーは大きな黒い瞳を上目遣いで俺を見た。俺の額に冷や汗を感じたが、気にせずメリーは続けた。
「彼女さんは、卒業式の前には彼女から振ってくるわよ。」
「え!?なんでですか!?俺たち喧嘩もあまりしないし結構上手くいってんすけど。」
小夜とはクラスが一緒になって2学期の初めくらいから、夏祭りにグループで一緒にいったのをきっかけに急接近した。元から彼女のことはタイプだったが、小夜が元彼と別れたのを知って、俺から猛アタックをかけたんだ。
それから俺たちは自然と一緒にいるようになって、正直今はまだ小夜にぞっこんの俺だった。
「あなたはトラブルメイカーさんに好かれてるから仕方ないのよ。
彼女は別れさせたくて、あの手この手で彼女さんに嫌がらせするわよ。」
「そんな・・・。洋子はそんな事しないっすよ。」
そう言うとメリーはにやりと奇妙な笑いを再び浮かべ水晶にかざしている俺の両手を上から押さえるように握り俺をじっと見た。
まだ20代だろうか、大人の魅力を備えたメリーの整った顔にじっと見つめられると多少頬が赤く染まるのが分かった。そしてメリーはきりっとした顔で俺に言った。
「男でしょ。ちゃんと真実を見抜ける人になりなさい。
なんで前の彼女と別れたか思い出せば分かるわよ。」
俺ははっと我に返った。
前の彼女と別れたのは付き合ってたった3ヶ月後のことだった。前の彼女も俗に言う美人系で学校の男達のひそかに憧れてる女で、簡単にいうと俺はかなりの面食いってことだ。
またもや彼女に猛アタックをしてやっと彼女になったものの、毎日のようにいろいろな男から彼女の携帯に電話が来て、毎日のように喧嘩になった。
しかも決まって彼女は『こんな人たち知らない』とかかってくる電話に対して言い訳していたが、もしかしたらそれは本当だったのだろうか。
「そうよ。」
また俺はメリーの返答に驚かされるようにメリーを見た。
「他にもあるでしょ。
驚かなくていいのよ。水晶に全て映ってしまうんだから。くくく。」
水晶に目をやっても俺の両手しか映っているが見えない。
額から汗が流れる。
そんな俺にはお構いなしでメリーは続けた。
「女の嫉妬はコワイわね。
洋子さんは大分今までの彼女とタイプが違うわね。くく。
就職先も彼女が先回りして同じ場所を受けようとしてるから、あまり話さないほうがいいわ
話さないと違う手で探るけど、気をつけてね。
彼女とのことはまず彼女の周りに今不思議な事が起きてないか話してみなさい。
このままだと卒業式前には振られてしまうから。」
俺はつばを飲み込んだ。メリーは早口で何かを読み取っているように続けた。
「就職は地元を離れなさい。
あなたのやりたいことが他県で見つかるから。そしてそれは決して洋子さんにはいわないで
。彼女は必死で探すから、両親にも言っちゃだめよ。
彼女にも言わない方がいいわ。
そして彼女の家に行った時に彼女のPCのメールを一緒に見てみて。洋子さんの本性が分かってく
るから。
そしたら自分で決めなさい。」
ごくりをつばを飲み込みメリーに目をやると、メリーは俺を目をじっと見返してまた言った。
「それであなたのお望みは?」
「望み?」
「そう、あなたはどうしたくてここに来たの?」
俺は唖然とメリーを見た。確かに洋子にいわれるままここに来たけど、俺は一体どうしたいのだろうか。就職先を定めたいのと、小夜との未来を考えてはいたが実際分からなくなってきてしまった。
視線を水晶にまた落とすとメリーはそんな俺に向かっていった。
「欲張りな人ね。
富も名誉もお金も女も、なんて。あなたには真実を見る力が必要ね。」
そういうとメリーは立ち上がり奥の部屋に入って、何かを探し始めた。少し経ってからメリーは手鏡を一つ持ってきて俺の前に出した。
「この手鏡を差し上げます。この鏡があなたに本当のことを伝えるわ。
魔女の鏡よ。くくく。
あなたがちゃんと男として自立したら鏡は返して頂くわね。
でももしあなたが富も名誉もお金も女も全て手に入るような男になったら
御代を頂戴いたします。」
「御代って・・・?」
この鏡があれば富も名誉もお金も女も全て手に入る。その言葉に反応して俺は聞いた。するとメリーはにやりとまた奇妙な笑みを浮かべながら答えた。
「お望みが叶った時に頂戴致しますよ。くくく。」
そういうとメリーは再び立ち上がり奥の部屋へと帰っていった。
俺は唖然としたまま入り口に戻ろうと後ろを振り向くと、そこには先ほど綺麗に並べてあったアクセサリーの数々はなく、今度は奇妙はドクロや蜘蛛のオブジェが所狭しと並べてあった。まるで俺は呪いにでもかけられたように感じながら、外へと出た。
片手にはメリーかもらったステンレスの手鏡を持って、また大きな奇妙は目玉のついた出口へと出て行った。