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魔女の館  作者: 夢島 空
1/7

誰もが羨む結婚 前編


もしもあなたが何かに思い悩むなら、ぜひ足をお運びください。

ここは知る人ぞ知る“魔女の館”。

華やかな街を少し外れ、昔ながらの店が並ぶ商店街。その道をまっすぐ進んだ右側にそびえる古いビル。その中の二階にあります。

見つからなければ残念ながら今回ご縁がなかったようで、見つかったならばあなたは魔女に導かれたと言う事です。

階段を上った正面に、奇妙な目玉が頭上に見えたら、その銀色の扉を開いてください。3人の魔女があなたをお待ちしております。

先祖代々伝わる魔女一家。

長女のメリーは少々荒々しい性格ですが、水晶できっとあなたが求めている答えを教えてくれるでしょう。

次女のキャサリンは不思議な空気をまといタロットを操りながら、あなたの悩みの解決法を教えてくれるでしょう。

そして三女のトミーはとても親しみやすい性格ですが、黒魔術の名手ということを忘れないでください。

さぁて、あなたはどの魔女に助けられるのでしょうか。

ご予約は要りません。時間は早朝でも真夜中でも構いません。

場所は知ってる人に聞いてください。もし迷われてもお電話を繋がりませんのでご了承ください。

そして一つだけ条件があります。いらっしゃるときは一人で来られるようにしてください。

それでは今宵も迷える子羊が一人いらっしゃったようです。




生贄ナンバー1


名前 : 木本 あき

性別 : 女性

年齢 : 27歳

悩み : 恋愛・結婚




魔女


キャサリン





私は木本あき。ちょうど3ヶ月前に2年も付き合った彼氏に浮気され、出会いもなく毎日ただ平凡に過ごしているOL。

年齢も結婚適齢期で、周りの友達はどんどん結婚して行くし、仕事も女子大を卒業してから同じ銀行にい続けて早5年。お局様になっていく一方で、そんな私を見かねた友人からの口コミで“魔女の館”を教えてもらったけど、場所も曖昧で本当に当たるのか半信半疑だ。

しかし不思議と聞いていた場所にはスムーズに到着し、目玉のついた重い扉をあけた。



「これは、これは可愛らしいお嬢さん。ようこそ魔女の館へ。

 さぁこちらにいらっしゃい。」


中は真っ黒のカーテンで覆われていて、照明が点々とオブジェのように飾られているが決して明るくない。部屋の左右にはアクセサリーやパワーストーン、奇妙な人形、魔女グッツがところ狭しと並べてある。そしてまっすぐ前に金と銀の刺繍で縫われたカーテンを少し広げて、一人の魔女が奥の部屋へと案内した。

金色のウェーブは暗い中でも分かるほど、きれいに輝いていて、どうも日本人じゃないようだ。しかし名前の通り、魔女のような黒い長袖のワンピースを着ている。

そして刺繍のカーテンの奥には黒いテーブルクロスの敷かれた四角いテーブルと、古い椅子。机の上には古びたタロットと白いろうそくが3つ置かれていた。


「さぁこちらに座って。」


私は言われるままに机に向かって座ると、魔女は机を挟んで合い向かいになるように座った。

「それではお嬢さん。私の名前はキャサリンです。聞きたいことを思い浮かべながら、

 タロットを10回きってください。」


「え?まだ質問内容も言ってませんけど・・・」



私の問いかけに少し微笑みながらキャサリンは答えた。


「言わなくても結構ですよ。

 タロットが全てを教えてくれます。」


なんてウサン臭いのだろう、そう思いながら別れた彼氏を思い浮かべて10回タロットを切り渡した。

そしてそのタロットをゆっくりと私の前に一枚一枚めくりながら並べ始めると、なんとも驚いたことにタロットには何も書かれておらず、真っ白なタロットが2枚キャサリンに向かって左側から置かれていった。


“何これ?タロットに何も書かれてないじゃない。”


するとキャサリンが3枚目をめくろうとしたときだった、何も書かれていないタロットにうっすらと絵が浮き上がってきた。

一枚目は銀色の杯から水が落ちるような絵。そして2枚目は天使が背中を向けている絵だった。


「今あなたは大事な人を失ったのね。でもその人はずっとあなたに嘘をつき続けていたみたい   だから、失って正解よ。」


「え!?元彼のことですか?」


私は目を真ん丸くしてキャサリンを見ると、またゆっくりと3枚目を置いた。

するとそこにはゆっくりと花瓶に大きな花がいっぽんささった絵だった。


「あなたは欲深い人のようね。くくく・・・」


「欲深い?」


キャサリンの奇妙な笑いに若干苛立ちを感じながら聞いた。


「あなた、今の状況に満足していないの。

こうなりたい、あの人がこうなればいい、そうやって欲ばかりあって自分で何かを変えようとはしないって出てるわ。」


そして続けて4枚目、5枚目、6枚目を並べると、馬に乗った騎手、壁から顔を覗かす女性、そして折られた槍が浮き上がってきた。


「あら、あなたの周りに一人あなたを守ってくれる男性がいるわ。

 きっとあなたはもう出会っているようね。」


私はドキっとしながらキャサリンを見つめた。キャサリンのグリーンの瞳は私の中まで見透かしているようで背筋がゾクっとなるのを感じた。


「はい。実は一人、後輩なんですけど好きだと言ってくれる人がいます。でも・・・」


「他の女の子がその後輩くんに想いを寄せているのね。」


「そ、そうなんです!!」


キャサリンは私が何も言う前に全くその通りの事を言い出した。

そうなのだ。実際彼氏を別れた後、相談していた後輩の一人が最近告白してきたのだ。しかし私の一番可愛がっている子が、そいつに想いを寄せている事を後から知ってしまい断ったばかりの話だった。


「なるほど。その女の子には気をつけてね。

 表と裏が激しいみたいよ。」

「で、でも彼女は私をものすごく慕ってるんです!」


するとキャサリンは動きを止めて視線を下に落とすと、しーんと黙ったままグリーンの瞳を左右に揺らしてこう言った。


「残念だけど、彼女他に特別な男性がいるわ。

 ただあなたに彼を取られたくないだけなのよ。」


「え!?そ・・・そんな・・・。」


そして続いて7枚、8枚、9枚をめくると、そこには海を眺める女性、山を見つめる男性、そしてよく映画にあるような手紙の入った透明のビンの絵が浮き上がってきた。


「ちょっと運命の男性に出会うまでには、長い道のりになってしまうかもね。」


「いつ出会えるんですか!?」


私はキャサリンにすがる様に問いただした。


「だってあなたはまだ、彼に出会うまでにやる事がたくさんあるの。

 でもあなたの将来の旦那様も、乗り越えなければならないものがたくさんあって、あなたに

 会うまでには時間がかかるわね。」


「えぇ!?いつですか!?どこに彼はいるんですか!?」


食いつくような私に鋭い目を向けると、にやっと奇妙な美しい笑みを浮かべてキャサリンは聞いた。


「彼とは5年後の春、どこかのスクールの教室で出会います。

 彼は優しくて教養もあって、素敵な方よ。ただ面白みにはかけるかもしれないけれど

 いい旦那様になるわ。」


5年って、何て長いの。しかも面白くない人なんて嫌。

そう心で呟くと、まるで聞こえていたかのようにキャサリンはもう一度私に目を向けてにやりと笑った。


「くくく、あなたはこのままお局様になって、慕われていた後輩達に去られて、ストレスの挙句ぶくぶく太っていくわ。

そして重い腰を上げて通ったスクールでやっと出会った彼は、あなたにとっては王子様に見えると思うけど。くくく・・・」


「わ、私、そうなるんですか!?」


「えぇ、しかも年相応に見えない程老け込んでしまうわ。

 しかも元彼氏にすがるような事はしない方がいいわよ。彼はあなたと付き合って1年後から

 もう一人彼女がいるから。

 上手に同時進行してたみたいね。

 しかもその彼女はあなたも知ってる人よ。私にはあなたと一緒にいる姿が見えるもの。」


「え!?嘘でしょ・・・。」


言葉にならないままキャサリンを見つめると、最後にめくったタロットを指さしこう言った。


「でも大丈夫。全てあなたの幸せの為に返れるから。くくく・・・」


私は頭に血が上ったようにキャサリンに向かって訴えた。


「ちょ、ちょっと待ってください!

勝手なことばかり言ってますけど、元彼は確かに浮気はしたけど2年間もずっと二股できるような男じゃありません!

しかも私の知り合いと浮気をするなんて、そんな事絶対にしません!!

それで私が5年後に出会うとか、太って醜くなるとか言いますけど、こう見えて結構もてるんですから!

こんな嫌な想いだけさせられるなんて心外です!」


そう私が怒鳴ると、またグリーンの瞳を左右に動かし始めた。そして奇妙な笑みを浮かべて言った。


「くくく、信じなくてもいいのよ。まきさん。

 そのまま銀行のデスクに座り続けていても、いつか面白くない男性が現れて念願の結婚ができますから。

友達のHさんには大分騙されているようだから、もう縁を切った方がいいわ。

Hさんの部屋に行けば分かると思うけど、卒業アルバムの最後のページを見れば全てが明らかになるわ。くくく。」


私は言葉を失った。

なぜならキャサリンには名前も職業も何も伝えていないのに、キャサリンの口からは自然と私の名前と職業が出てきた。そしてH、頭に一人の友達の顔が浮かんだ。


「それでは、まきさん。私に教えて愛しい人。

 あなたのお望みは何?」


唖然と微笑むキャサリンを見つめた。そこには紛れもなく“魔女”がいた。


「私・・・幸せになりたいです。

 本当は寂しいんです。

 告白してくれた後輩だって結構好きでした。だけど大事な後輩がその男の子を好きだって知ったから。

結婚がしたいです。皆に自慢できるような人と結婚したいです。」


「なぜ他の人の評価を求めるの?」


「だって、人に馬鹿にされる人より人に羨ましがられる人と結婚したいじゃないですか!」


するとキャサリンはまたにやっと笑って言った。


「それがあなたのお望みね。」


私の頭は大渦の嵐で、まるで魔術にかかってしまったかのように言葉を失った。そんな事はお構いなしでキャサリンはまたタロットを3枚めくって見せると、そこには順番に金色の鍵がかかった扉、バッテンに交差した槍、そして最後のタロットにはダイヤの指輪が浮き上がった。


「今月の終わり、そうね月末の土曜日の夜ね。

 可愛がっている後輩とあなたの家の近くにあるバーに行きなさい。

 すると一人の男性があなたに声をかけてくるわ。

 後輩の子は悔しがって本性を見せるわよ。くくく。

  その人があなたの“望みの人”だから、もしあなたがその人に決めたなら指輪をもらったときにOKしなさい。

もしあなたがその人に決めなければ、あなたの道は変わります。」


「それってその人に決めなきゃ、悪くなるって事ですか!?」


「大丈夫よ、いとしい人。あなたがよい方向に向けば道はよい方向へと向き、あなたがこのまま何も変わらなければ、私の言った未来になるから。くくく。」


するとキャサリンは見せたことのない美しい笑顔を私に向けるとタロットを机に置いた。


「もし迷ったならば、またいらっしゃい。」


そして席を立ち上がった。


「え!ちょ、お代はいくらですか!?」


「お代は後で頂きます。」


「後で?」


「えぇ、あなたの“お望み”が叶ったときに、頂戴致しますよ。」



すると奇妙な笑みをまた残しながら刺繍のカーテンの裏へとキャサリンは消えて言った。私は唖然とさったキャサリンの後を見つめながら、キャサリンの言っていた事を頭で繰り返した。そして刺繍のカーテンをくぐるとあった、そこはもう目の前が階段になっていたのだ。

確かにパワーストーンなどが並べてある机が両側にあったはずなのに、目の前には上がってきた階段があり、後ろを振り向くと奇妙な大きな瞳が頭上にある扉があった。

いつ外に出たのだろう。

不思議な奇妙な感覚のまま大きな瞳に見送られ、“魔女の館”を去っていった。


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