1 始まり
僕は街のド真ん中で盗人相手に対峙していた。僕と盗人を囲うように野次馬が集まっていた。この町カルデラでは喧嘩なんてしょっちゅうで、娯楽にすらなりつつあった。単純に見に来た奴、はやし立てる奴、中には賭け始める奴もいた。
「俺は右の奴にかける!!」
「じゃあ俺左な。負けたら飯おごりで。」
そんな野次馬が騒ぎ立てる中、遡ること20分ほど前、商店街でスリを目撃した僕は盗人を追いかけた。これでも、僕は割と魔法は使えるほうで、くだらない正義感に少し後悔しつつも魔法の詠唱を始める。
「ライトニング」
僕が唱えたのは光の中等魔法であるライトニングだ。この世界の魔法は、火水木光闇の五つの属性で構成されている。一つの属性を持つ魔法は単体魔法、複数の属性を持つ魔法は複合魔法という。ちなみにライトニングは電撃をかなりの速度で飛ばす単体魔法である。
「ダークネス」
呼応するように盗人も詠唱する。少しの間ぶつかり合い、二つの魔法が相殺する。
「かっこいい英雄気取りかぁ?俺はそういう奴が苦手でね。インビジブル!!」
悪党らしいセリフと共に盗人が消える。インビジブルは姿を消す闇魔法だ。逃がしてなるものかと、すぐに詠唱する。
「エクスペンドライト」
広範囲に攻撃できる魔法を詠唱したその瞬間、フラっとめまいがした。
僕はまだ二回しか詠唱してないのに魔力不足とは、と思いながら周りを見渡すとインビジブルを使ったはずの盗人が姿を現したまま、痺れている。
「見つけたっ!!!」
そんな声が聞こえたと思った瞬間フードを被った女性に腕をつかまれ、とてつもない力で引っ張られる。そのまま引っ張られるわけにもいかず引きはがそうとしたが、びくともしない。
しばらく走り、路地裏の暗い階段に着き、女性が何かを唱えると外観が変わる。先程からは想像 できないほど広い場所が階段の上から見える。そのまま階段を降り。そして女性はフードを脱いだ。
女性は銀髪碧眼のとてつもない美人だった。
「君っ!!私の弟子にならない??いや、なってもらわないと困るわ!!」
「えぇ?」
脳がまだ処理しきれないが、少しずつ冷静になってくる。
「ちょ、ちょっと待ってください。ここどこですか?あなた誰ですか?」
もはや疑問しかない。
「あ、そうね。ごめんなさい、まずここは私の研究所です。そして、わたしはリーナです」
「あ、あの、なぜ僕があなたの弟子に?」
「そうね...まず、ここにくるまで、ましてや今も魔法が使えないでしょ?現に抵抗できなかったわけだし。」
「まあ...はい。」
確かに腕に力が入らない、というより魔法が使えない感覚があった。
「これは私の魔法です。」
「えっ??いや、魔法を阻害する魔法は存在しなはず...」
「いや、違います。存在しなかったのではなく。見つからなかった、というか観測されなかった、というほうが正しいでしょう。」
観測されない?
「私にはその適正があることに気づき、研究してきました。そして、これを継承しないとも思っていました。ですが、適正者が全くおらず、探していました。」
なんとなく、話がつかめてきた。
「僕が適正者なんですか?」
「その通り。野次馬が集まっていて、なんとなく見ていた時、あなたの魔法から微量の無属性を感じました。」
「無属性?」
「魔法を阻害する魔法は、五大属性に含まれないことがわかり、6つ目として、私が名付けました。」
ことごとく、僕の中の常識を覆すことだった。正直なところ、まだ信じ切れていない。
「正直、、信じ切れていません...」
「わかりました。ここで披露しましょう。魔法を解きますね。」
ふっと体が軽くなるのを感じた。
「奥に実験室があります。」
ここから逃げるのは簡単だったが、僕の好奇心は既に傾いていた。