九話「僕が一日勘違いしている間に」
「……すごい」
僕が知らない間にそんなことが……。
「これでなんの憂いもなくなった。破滅フラグ〜とやらは破壊されたのだ! それも木っ端微塵に!」
陛下が嬉しそうに話す。ご自身の息子を断罪して、陛下もお辛いはずなのに。
「あの陛下、ギャレン様のことは……」
僕とレーヴィット公爵家を助けるために、陛下はギャレン様を失った。どう償いをすれば……。
「ああ心配いらんよ、ギャレンはもともと王太子の地位にはふさわしくなかった。一つ下にハンスという優秀な弟がいるのに、口ばかりで能無しで見掛け倒しのギャレンを王太子に任命したのが不思議でならなかった。ギャレンに国を任せたら崩壊するのは目に見えているのに……これがゲームの強制力〜〜というやつなのかのう。ホッホッホッ」
陛下が苦笑いを浮かべた。
「気に病むことはない、わしはむしろこうなって良かったと思っているよ。ギャレンが失脚してくれたので、ハンスを王太子に任命できる。ハンスはギャレンと違い誠実で賢く優しく民にも人気があるからのう」
陛下は明るい笑顔でそうおっしゃられた。僕に気を使わせないためにわざと明るくしているんだろうな。
「顔の良さしか取り柄のないバカ息子と、精霊の加護持ちのアルビーでは……どちらを選ぶか天秤にかけるまでもない」
陛下がボソリと呟かれた。声が小さくて僕にはよく聞こえなかった。
「えっ?」
「いやなんでもない、こちらの話だ」
精霊の加護とか聞こえた気がするけど、僕の気のせいだよね。
「それとそなたにめでたい報告がある」
陛下が朗らかに笑う。めでたい報告ってなんだろう?
「えっと? それはどんな……」
「隣国の皇太子フレディ・ヴィーラント殿が断罪イベントのあと、リーナ嬢に求婚したのだよ」
「はいっ??」
「皇太子のフレディ様は文武に優れた長身の美丈夫。リーナもすみに置けんな」
断罪イベントでざまぁに成功したら求婚されるのは小説や漫画のセオリー。だけど現実でも起こるとは思わなかった。
リーナに気休めで「断罪イベントが終わったら、素敵な人に求婚されるかもね」と言ったけど、確信はなかった。でも本当にリーナが素敵な人に求婚されてよかった。
「リーナにはハンスと結婚してもらいたかったのだが、ハンスは余の若い頃に似て奥手でのう。リーナを眺めている間に横から隣国の皇太子にさらわれてしまったよ」
えっ? ハンス王子もリーナのことが好きだったの? わぁぁ! リーナ、モテモテだね!
「まぁハンスはまだリーナのことを諦めていないようだが。リーナとフレディ皇太子の関係は今のところただのお友達、ハンスにも入り込める余地があるはずじゃ」
陛下が楽しそうに話し、顔を綻ばせる。