八話「卒業パーティー当日……やっぱり僕が!」
あっと言う間に三年が過ぎ――。
三月三日、ついに卒業パーティーの日が来てしまった。
もしゲームの強制力が予想以上に強くて、断罪イベントでのざまぁに失敗したら……そう考えるとハラハラして昨日の夜は眠れなかった。
僕はどうなっても構わない。でも家族やレーヴィット公爵家に迷惑はかけられない。
もし運命が変わらないのなら……リーナが断罪イベントで酷い目に合わされるくらいなら僕が……! 公爵家の皆にはお取り潰しになる前に逃げてもらおう。
そう決意したところに、陛下がいらした。
早朝から陛下が離宮に来られるなんて、珍しいな。陛下は心なしかうきうきした様子だった。
「陛下ここまでお膳立てして頂いて申し訳ありません。ですがやはり断罪イベントには僕が出ます。リーナと家族には逃げるように伝えてください」
僕は意を決して陛下に覚悟を伝える。
「断罪イベント? 昨日終わったぞ? 今日は三日ではなく四日だ」
僕の話を聞いた陛下が、キョトンとした顔で首を傾げる。
「えっ? 終わった? でもカレンダー通りだと今日は三日のはず……?」
今度は僕がポカンとしてしまった。
「間違えてこの部屋に飾るカレンダーにだけ二月二十九日を書いてしまったのだよ。今年はうるう年ではないのにうっかりしてしまった、ハハハ」
そういうことか、昨年もうるう年だったのに、今年も二月二十九日があるから不思議に思ってたんだ。僕の知らないうちに暦の法則が変わったのかと思ってた。
この部屋のカレンダーにだけ二月二十九日を書いてしまうなんて、王様もうっかりさんだなぁ。
「卒業パーティーはどうなりました?」
リーナは無事だろうか? 男爵令嬢に水をかけられたり、王太子殿下に暴言を浴びせられたり、王太子殿下の取り巻き突き飛ばされたりしなかったかな? ハラハラしながら陛下の言葉を待つ。
「うん、バッチグー! 万事オッケー!」
「えっ……と」
バッチグー? とは??
「アルビーが申すとおり、クロリス・ザイドル嬢と愚息のギャレンとザイドル嬢に骨抜きにされたブロック・ホーベル、ビダン・ミューラー、ユード・モーリッツが卒業パーティーで騒ぎを起こした。『クロリス・ザイドル嬢がアルビー・レーヴィットに強姦され、子供ができた』とな」
やっぱり断罪イベントは起こったんだ。僕がいないのにザイドル嬢が強姦されて子供が出来たってどういうこと?
「決論から言うとザイドル嬢の狂言であった。クロリス・ザイドル嬢に見張りをつけておいた。見張りに付けていた者たちが、ザイドル嬢が犯した罪をすべて見ていたよ」
陛下がフフッと笑い、口の端を上げる。
「ザイドル嬢を犯したのは、ブロック・ホーベル、ビダン・ミューラー、ユード・モーリッツの三人だった。もっとも強姦ではなく和姦であったようだが。ザイドル嬢の腹の子の父親もこの三人の中の誰かだろう」
和姦……合意の上って意味だよね?
「卒業パーティーという神聖な場を汚し、レーヴィット公爵家とアルビー・レーヴィットに扮したリーナ嬢を証拠もなく断罪しようとしたギャレンの罪は重い。ギャレンの王位継承を剥奪、王族の身分も剥奪し牢獄に……いや屋敷で謹慎処分にした」
ギャレン王子、身分を剥奪されちゃったんだぁ。
「クロリス・ザイドル嬢は他にも階段から突き落とされただの、教科書を破られただの、学園に通う令嬢たちに難癖を付けて、王太子のギャレンに報告されたくなかったら金を出せと言って、おどしていたらしい」
ザイドル嬢そんなことまでしてたの?
「ザイドル嬢の犯した罪の証拠は全て抑えた。ザイドル嬢に加担していた者たちの悪事の証拠もな。ザイドル嬢は投獄、ザイドル男爵家は断絶。ザイドル嬢に加担したブロック・ホーベル、ビダン・ミューラー、ユード・モーリッツの三人は身分剥奪の上国外追放処分とした」