十四話「イズン神とバルドル神の絵」
数年前、王妃様が長く病気を患ったとき。
お兄様はイズン神と神々が若さを保つために食べ続けたと言われるイズンのりんごの絵を描き、王妃様にお見舞いの品として贈った。
絵を贈ってすぐ王妃様の病状は回復に向かい、しばらくして完治しました。
病から回復した王妃様は、以前よりも若々しく、髪はつやつや、肌はぷるぷる。
あれから何年も経ちますが、王妃様は今もあの頃と変わらない若さと美しさを保っておられます。いえ、以前よりも若くなったくらい。
陛下のお誕生日には、知恵の神ミーミル神の絵を贈りました。
もともと賢かった陛下はさらに聡明になられ、外交に行くたびに我が国に有利な条件で契約を結んできます。
第一王子の誕生日にも光の神バルドル様を描いた絵を贈りました。バルドル様は賢く見目麗しく公明正大で完璧な貴公子と名高い神。
バルドル様の絵を飾れば、頭のネジが少し緩んだバカ……ゴホンゴホン失礼。ちょっと足りないギャレン王子も賢くおなりになるでしょう。
それなのに……! あのうつけ者で愚か者で戯け者で脳みそお花畑のバカ王子!
ギャレン様は「男の絵なんかいらない」と言って、バルドル様の絵を第二王子のハンス様に上げてしまったのです!
お兄様の好意を無碍にするなんて……!ギャレン王子許すまじ!
ギャレン王子に贈り物を拒否されたときのお兄様のかなしげなお顔を思い出すと、今でも胸が締め付けられます!
陛下を超える聖君になるようにと、バルドル神の絵を描いたアルビーお兄様のお気持ちを土足で踏みにじるなんて……絶対に許さない!
私を含めレーヴィット公爵家の第一王子ギャレン様への好感度は急降下、もともと高くなかった好感度が地の底まで落ちた。
陛下はギャレン王子の無能さを嘆いておられました。
ギャレン様は「どうせなら美女の絵をよこせ」とお父様に言ったらしいのですが、お父様は王子の言葉を無視しました。
陛下はお兄様の絵の価値に気づいておられるのか、お父様に「すまなかった」と謝罪し「今後ギャレンには何も贈らなくていい」とおっしゃいました。
このことはお兄様のお耳には入れてません。お兄様の絵の素晴らしさが分からないギャレン王子はアホです。うつけ者のことで清らかなお兄様のお心を煩わせてはいけません。
ギャレン様よりバルドル神の絵を譲られたハンス様は、バルドル神の絵を自室で一番いい場所に飾られたとか。湿気や日差しにも配慮され、自ら絵の手入れをされているそうです。お兄様の絵をそこまで大切にしていただけると、私も嬉しくなります。
バルドル神の絵の効果なのか、ハンス様ご自身が努力されたのか、ハンス様は賢くハンサムで民から慕われる立派な王子に成長されました。
遊ぶのが大好きなギャレン様は横暴で思慮の浅い、脳みそお花畑のポンコツ王子になりました。
お兄様の描いた絵を貰っておけば、もう少しまともな人間になれたかもしれないのに……本当にどうしようもないお方です。