十話「ありがとうございます」
「陛下、本当にありがとうございました。陛下のご尽力がなければこの度のこと、ここまで上手く運ばなかったでしょう」
僕はその場で膝をつき頭を下げた。
「頭を上げよ」
見上げると、愉快そうにほほ笑む陛下の目が合った。
「アルビー・レーヴィット、事件は幕を閉じた。そなたは乙女ゲームの破滅フラグに打ち勝ち安寧な生活を手に入れたのだ」
「いえ僕は何もしておりません」
僕は本当に何もしていない。男装して学園に通ったのはリーナだし、卒業パーティーの断罪イベントで頑張ってくれたのはリーナや陛下だ。
ゲームの強制力に打ち勝ったのは僕じゃない。
「ゲームの強制力に打ち勝ったのは陛下とリーナです」
「そなたは謙虚だな、余とリーナを動かしたのはアルビーそなただ」
「陛下……」
陛下は楽しげに笑い、ウィンクをした。
「この三年、そなたとお茶を酌み交わし、他愛のないおしゃべりをするのは本当に楽しかった」
「ありがとうございます。僕も陛下とお茶をご一緒出来て楽しかったです」
この三年、陛下とのティータイムは僕の心の支えだった。陛下からリーナの活躍を聞けるのを楽しみにしていた。
今日は侯爵家令嬢に告白されたとか、子爵家の子息を剣術で打ち負かしたとか。
「レーヴィット公爵家に、家族の元に戻りなさい。皆首を長くしてそなたの帰りを待っておるぞ」
お父様とお母様とリーナに会うのは三年ぶりだ。家族が元気に過ごしていたのは陛下から聞いて知っていた。
でも実際に会うのと話を聞くのは、大きな違いがある。
皆に早く会いたい。会ってギュッとハグしたい。家族の温もりを感じたい。
「僕も早く家族に会いたいです」
「家に帰るときエミリア王女を連れて行っても構わんぞ。婚前同居として」
「はい??」
なんでここでエミリア王女の名前が出てくるんだろう?
婚前同居ってなに??
エミリア王女は僕の三つ下だから、十五歳になったのかな?
前に会ったときは十二歳のあどけない少女だったけど……背が伸びて綺麗になって、大人っぽくなったんだろうな。
うんダメだ。僕のようなコミュ障のオタクではとても話しかけられない。
「ハハハ、まぁその話はまた別の機会にしよう」
頭にハテナマークを浮かべ小首を傾げている僕を見て、陛下が豪快に笑った。
陛下に何度もお礼を言い、迎えに来てくれた家族のもとに帰った。