Episode.8 退職社畜のアリスちゃん可愛すぎる説
この作品ではどんな、やられ役でもある程度頑張ります。頑張ります!
追記:一部書き方を変更しました。
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「ジジイ、なにもんだ…?」
チンピラ男は俺への口調をもっと酷くして警戒を強める。
俺はその間にもすり足で後退する。後ろにはアリスちゃんを庇っている。
間合いスキル、これは思ったより使える。俺の間合いは、大太刀を持っているから少し長めに取らなければいけない。近すぎると刃元で斬ることになるし、刃を引けなくなって殺しきれなかったときに反撃を食らう可能性もあるからな。
「ジジイって言うならせめてオッサンにしてもらおうかな?クソガキ」
「野郎ッッッ!」
チンピラ君のエモノは両腕に籠手と一体化した収納式の幅広い両刃のダガー系武器。名称的に言えば、ジャマダハルだったはず。俺の記憶が正しければ斬るより、“突く”に特化した刃物だったはず。ともなれば、注意しなければならない。どの刃物でも突きの攻撃は最速の発生と致命力を持つ。
「殺ってやんよ…」
「あ?」
「殺してやるよ!皆殺す。殺して殺して殺して殺して殺す。お前も殺す。ガキも殺す!」
はぁ。こりゃダメだ。やりたくは無かったが処分するしかないな。
グロ設定、もとい倫理設定を意識だけでオフにする。
腐っても目の前の屑はプロに見込まれるだけの実力を持つらしい。・・自称だけど。ならそれ相応の覚悟でいこう。
相手は刃を向け、両手を後ろに引く特徴的な構え。
一方俺は上体を沈み込ませて右足を後ろに引く。眼を薄めに開く。右手を大太刀の柄に手を添え構える。
距離は五メートルと少し。周囲はNPCとプレイヤーで構成された円形リング。
呼吸を溜める。吸う。吸う。吸う。
眼前距離で空気が動く気配がした。手ではなく腕、体、全体で大太刀を引き抜く。
ずるりと抜ける感触。次の感触は……堅い感触。
「速ェ。だけどオレには届かねえ」
両手の刃を交差させて右腕狙いの撃を受け止めている。だがなぁ、いつ終わりだと言った?
「ォ…」
「はっ?」
刃の上を滑らせるように引き抜き、流れに逆らわず縦向きに一連撃。
「甘ぇ」
受け流される。もう一撃。二連撃。
重力に逆らうな。流れに凪がれに逆らわず和がれて薙ぐ。
「ァ…」
三連撃、四連撃。五連撃。六連撃。
上から下から、右から左から、縦から斜めから。斬り上げ、斬り下ろし、袈裟斬り、唐竹割。手を変え、品を変え。
「まっ、まさかテメェ!?倫理せって―――ギィィィヤァァァ!?」
「やっと当たったな」
NPCに暴力を振るうくらいだ。調子に乗って倫理設定は切ってると思っていた。
チャラ男は肩の裂傷を抱いて泣き叫ぶ。痛いのが嫌なら最初から設定しとけよ。
不思議だな。血が虹色のポリゴンになって消える。
ま、これもここで終わりだ。
餓狼の大太刀を鞘に納める。
「糞餓鬼。次は無いぞ」
「はぇ?」
抜刀で首を討つ。虹色のポリゴンが弧線を描く。空中で奇声を発して、その中で頭の上で名前が浮き出てる。『PL:ドルベル』と出ていた。
大太刀を納刀。
「ふー。疲れた」
「お兄さん!」
可愛らしいハスキーボイスに気づくと、腰に抱き着かれる感覚。
首だけ傾けるとアリスちゃんが涙目で上目遣いで見上げている。なんだ、この泣かせてしまった申し訳ない気持ちと可愛いと思ってしまう気持ち。お兄さん困るなぁー。
「大丈夫でしたか?!バツさん!」
「これはこれは、リンダさんまで。いやはや、ご心配をお掛けしました」
「あっ、いえ、こちらこそありがとうございます。あとこちらを」
リンダさんからHP系のポーションを五本貰う。
「これは?代金…」
「遠慮します。それはアリスを助けてくれたお礼です」
「ですが…」
「いいです」
ニコッとされる。凄い威圧感でのスマイル。
普通の男だったらニコッ、ポッって感じになるんだろうな。今は怖いです。ハイ。
「じゃ、俺はこれから予定があるんで失礼します」
「そうでしたね。では、バツ様ご利用ありがとうございました。またのご利用おまちしております」
元々、俺はポーションを買いに来ただけだからな。
貰ったポーションをインベントリに仕舞う。
行こうとすると声が掛かる。
「行っちゃうの?」
か細い声。アリスちゃんだ。
質素の袴の裾を掴んでまた泣きそうになっている。
「ごめんね。俺も行くとこがあるから。ほらまた来るから」
「ほんとぉ?」
「うん。ホントホント」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃないってば」
「絶対に?」
「絶対」
アリスちゃんは裾を放してリンダさんの後ろに回る。
「またのご来店、心よりお待ちしております」
「では、これで失礼します」
今度こそ行く―――
「お兄さん!」
「ん?」
「ご贔屓に!」
アリスちゃんは振り返った瞬間、ウィンクしてそう言う。
「カハッ」
「おにいさーん!?」
か、可愛すぎる…。
「おい、あの人たち何してんだ?」
「知らね。あいつらだけギャグコメの世界にでもいるじゃね」
「それな」
「でもどっちかというとラブコメ」
「いや、SFでラブコメってあるか?」
「確かに。大草原で笑えるね。ハハッ」
外野がうるさいがアリスちゃんが可愛いことには変わりない。
「じゃ行ってくるね」
アリスちゃんの頭を撫でながら別れる。
さてさて、本来の目的の場所へ行くとするか。
俺は振り向いて街の外へと続く外門へと歩みを進めた。
追記。人混みが割れる、って表現初めて痛感したわ。モーゼの気分がよく分かった。
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