Episode.44 退職社畜のブラック精神
バツが、ガチギレします。
ブラック企業の実態を告白します。
試練?知ったものですか!
【ログイン中】
『ここは、私が付き人をしていた時の記憶世界です。過去の記憶から生きて還って来てください。それをもって試練を合格とします』
「アイアイサー」
目が覚めました。
森。一面森。さてはて、何があるのやら。
やはり、というか。記憶世界というだけ、物体は全て薄いモヤが掛かったかのようになっている。意識すると、ハッキリと見えはするが、面倒。
レアなクエストに来たんだから、クリアしたいよな。けれど、何をすれば良いかわからない。生きて還ってとは、言われてものの…。
「モンスターとか、居る?」
ぐるりと回って、全方位を確認するが、NPCどころかモンスターすらもいない。どんなイベントなのだろうか。生きてなんて言葉が使われているのだ。戦闘系の生存系のクエストなんだろうが、その気配すらない。
どゆこと。付き人さん。
まさか、パチモンのクエストを受けさせて、「ずっとこの中で彷徨ってろ!」とかなのか!?在り得なくもないぞ。付き人は、死んだのに生き返ったし。怨霊とか地縛霊とかなのかも。
「無いな」
自分で考えて、自分で否定するやつ~。
まあまあ、考えてみれば、アリかナシかは分かる。
LFO、ゲームでっせ。クリア出来ないクエストイベントを創るか?
と、なれば、答えは一つ。無いのだ。
運営は、ゲームとして、やっている以上、クリアできるクエストを配信するしか無い。
「クリア出来るはず…なんだけどなあ…」
とりま、歩いてみる。何かしら見つかるかもしれない。目の前にはご丁寧に、森が開けて、道になっている。道なりに進む。
考察を再開する。
…もしくは、また謎解き系のクエストだとか。ボロ小屋とかそうだったし、記憶世界もそうなのかも。確定じゃないけど、頭の隅に入れておこう。
歩き始めて、数分。モヤが視界内に迫ってくるものは、中々エグイ光景。歩き始めた時よりも、モヤが多くなっているのは気のせいじゃない。
不安を覚えて、引き返してみると、モヤは薄れていく。
まさか!
頭に、嫌な考えが浮かんで、道を走って戻る。
意識が覚醒したところまで戻ると、モヤはほとんど無くなっていた。
スタート地点の時と大差ないモヤの量。
まったく!やられた!糞運営がッ!
俺が今居るエリアは、クエストが発生して一定条件を満たした場合の特エリアとでも考えよう。そして、今一度エリアの設定を思い出そう。
記憶世界とカミヤは言った。誰の記憶か?それはカミヤ。
推測だが、モヤはカミヤの記憶に無い、または薄い箇所なのではないだろうか。
そうなると、俺が向かって行った方向は、カミヤの記憶に無い。
記憶世界ならば、カミヤの覚えている場所こそが正解になる。
俺が意気揚々と行った道は間違い。つまり、ダミー。
でも、人って目の前に道在ったら行くよね。ゲームだったら特に。
運営の作った囮にまんまと引っかかった訳だ。
―――うざっ
心の中で運営に唾を吐いておく。
スタート地点の逆の、道なき道を往くと、モヤは先程と逆に晴れていく。
信じたくはないが、そういうことらしい。
妹の上司に当たる、「室長」なる人物にあったら愚痴を散々聞かせてやろう。そやつは性悪に違いないからさ。な?いいだろ?
怒りを押し殺して、押し込めて、モヤが薄くなる方向を探し探し。
森の中を進行すること、体感で数十分。
「長くね?いや、長くね?道無いけど、それにしても長くね?」
森ーがーまーだーあーるー。何も無いです。あるのは木です。
その他無し。変わったことと言えば、モヤが霧に変わったこと。
意識しても、消えないけど全体的に見えやすくなった。
お?ぬ?あれはっ!…何だ?
「お墓…違う…けど…共同墓地か…?」
森が開かれ、飛び込んできた光景は、墓にも似た場所。
段々となった、なだらかな地形に積まれた石。石には、字が彫り込まれている。所々に字が躍る卒塔婆が差されて、そんな物がどこまでも続いている。
石と卒塔婆には、擦れているが、然りと名前が彫られているのがわかった。
字を指でなぞると、彫りの角が崩れ落ちる。足元から積もる音が聞こえる。
首を動かすと、波打った地平線に延々に、墓石と卒塔婆が刺されていた。
霧は完全に晴れているのに、空気は淀んでいる。不思議だ。
『ようこそ。其は、我らが同胞が眠っていた地です。この地にて、剣聖様は堕ちた同胞に二度目の死を与えました』
カミヤの声。単調な口調―――なのに、俺には震えている様に聞こえた。
『アナタは同じことして貰います。堕落し、呪詛を撒き散らすだけの存在となった同胞を弑してください』
「了解」
『退廃しようとも、我らが同胞は手強く、気高く、強豪なれば』
「ハンッ!ほざいてろ」
『侮るなかれ、【味方殺し】の英雄為れば』
最後に言い残し、気配は希薄化。
併せて、墓石下から骨の身が這い出よる。
肉の一切が削ぎ落された、綺麗な骨身。穴あきの、鎧兜と、刃毀れ打刀。
空いた眼光には、紫紺の炎球が佇み、常に俺を貫いている。
含まれた感情は、憎悪とかの悪感情。就職時、同僚によく見られた眼。
多分、常人なら、恐れる場面。怖いのだろうが。
「はっ…」
疾うの昔に、見慣れてる。
笑えるわ。堕落した落武者よりも、デスマーチに憑りつかれたリーマンの方が、恐いなんてな!草生やしとこ。ブラックワークで、俺の若々しい魂は摩耗されてんだよ。
当時、肩こり、腰痛、目の疲れ、筋肉痛は当たり前。過労で、真っ直ぐ歩けなくなり、眩暈と吐き気が常日頃俺を襲い、蕁麻疹が体に現れ、休日は愚か有給も無い。長時間過重労働をこなして手に入れた、賃金は安月給。残業も毎日やったのに、残業代も出ない。辞めた同僚も少なくなく、入れ替わりが激しく、友好関係?笑わせるな。職場に限っては、毎時ギスギスしていた。栄養失調で、屍の様になった己の体を見て、何も感じなくなった。熱い言葉を並べ立て、甘い言葉を侍らした上司達は、根性論・精神論を振りかざして、心胆を圧迫。就職勧誘には、優しさすら感じる生温い言葉。濁った眼で、フィルム越しに薄れた視界―――――――――
「Giiiiiyaaaaa!!」
「―――…」
下層意識に沈殿した俺を仮想現実へ引き戻したのは、落武者の叫び声。
ほぼ、無意識に抜刀して、頚骨を断った。
元人だとかいうNPCに何度目かの死を与えた俺は、「骨で声帯無いのにどうやって声だしてんだろ」、とかしか思わなかった。百近く…二百を超える、落武者群はイベントで見た武者軍よりも恐ろしいと思う。
「…」
だけど、
だけど、なんで、
だけど、なんで、そんなに、
「怯えているんだい?」
堕落した、憎悪撒き散らす無生命のデータは、何故か、俺を畏れていた。
「昔を思い出して、俺は今、機嫌がすこぶる悪い」
「堕落だが、何だか知らん」
「手加減無しで行くぞ」
久々に本気でキレた瞬間であった。




