Episode.40 退職社畜の剣聖トラップ
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温かみのある、木材で造られた地下へと進む。
照明が無いので、レイランの灯篭を借りている…のだが、その灯篭が問題を抱えていた。
手元を見ると、眼光と口内から青火の光を発する、頭蓋と目が合う。
一秒…二秒…三秒…お、おっす…。
目を閉じるかのように、片目の火を一瞬消す、頭蓋骨。くるりと前方を向いて、前を照らす。青の火なのに、光色は真っ当な白色。余計に不気味さを増している。
「レイランや」
「ははは、はい!?なんでしょうか…?」
「言わずとも分かるよな?」
最近、第一印象とかけ離れて来たレイランは、震えながら俺を見る。
声は震えていて、動揺しているのが丸わかり。
正確には、俺の手元から視線を逸らそうとしている、か。
「街で買ったやつで、これを選んだなら、俺はお前のセンスを幻滅するぞ」
「幻滅したじゃなくて、するぞっていうのは新しいですね…」
「あ゛?」
「すみませんでしたぁ!!」
顎でくいっとして、話せと促す。
「なんというか…その…先輩が持ってる灯篭は…とあるモンスタードロップでして…」
「でして~?」
「墓場のエリアで、『刀霊の案内人』という非戦闘MOBのアンデット系モンスターが突然後ろに現れたんですよ」
「そして?」
躊躇う素振りを見せるレイラン。
「驚いて、殺っちゃいました☆」
「開き直ってんじゃねえーよ!?」
「ひうっ…!?」
「☆!じゃ…ねえよ!指、もぎ取んぞゴルァ!」
「ごめんなさいっ…!」
こんな奴だったとは。
イベントの時のカッコイイ、レイランに戻らないかなー。
驚いて、襲ってこない、モンスターをサクッとヤっちゃった。てか?
襲ってこない、非戦闘MOBはNPCとさほど変わらない。要するに、レイランは知能を持ったモンスターの見た目のNPCを驚き様に、昇天させたわけ。
頭蓋は吊るされているのに関わらず、「やれやれ」と首を振った。
絶対に怨念だよ。呪いとか、呪怨とか、ソッチ系のやつだよ。これは。
「ゲームの中なのに、呪われるとか…流石だわー…」
「ちょ、離れないでください!一歩引かないでください!灯篭を向けないでください!」
半狂乱で、にじり寄って来るレイランから距離を取る。
手元から、呆れる雰囲気が溢れる。俺たち人間は、NPCの思考回路持ったモンスターに呆れられたんか?
色々、ショック。
「もういいや。早く行こう」
「そうっすね…」
両者ともに、憔悴して地下奥へと。
どっちが悪いのだろうか?百人にアンケート取ったら、八十ぐらいはレイランが悪いに入れると思う。
そんな感じで、しょうもないことを考え、足を急かす。
律儀に(?)目を向けて来る頭蓋と目を合わせたくないわけではない。
カタカタ歯を打ち鳴らす頭蓋から目を逸らすためではない。
一人でに勝手に揺れる頭蓋を目視したくないわけではない。
「怖…」
「おいこら、てめぇ。今、なんつった?代われよ。俺の代わりに灯篭持てよ」
「遠慮します(キリッ)」
「仮面の下、絶対にドヤ顔してんだろ。つべこべ言わず、代われよ。もとはと言えば、お前のせい。お前のアイテムやろが。持てよ」
「嫌です!!」
「何否定してんだよ!?お前のだろっ!?」
「怖いんです…!」
「俺もだわ」
―――ブンブンブンブンブン!
手元で、頭蓋が荒ぶってらっしゃる。
お怒りですか?そうですよね。今、持ち主に代わりますから。
え?違う?前を見ろって?何で俺、脳内会話出来てんだろう?
前方下を見ると、ドアハンドル付きの扉が。この扉は引き戸式。どうやら、正解だったよう。
「当たりですね!もしかして、剣聖の使ってた剣とか有るかもしれないですよ!行きましょぉおおおおおぐえっ!?ぐはぅっ!」
突っ走ったレイランの鎧を引っ張って転倒させる。表向きに倒れたレイランの鳩尾へ、肘打ちを決め込む。
―――Critical!
「潰れたカエルの様…いや、まさしく潰れたカエルの声。素晴らしい。百点満点だ」
「オーッホゴホッゴホッ!カハッ?!(通訳:何するんですか!死ぬかと思いましたよ?!)」
「何て?What?」
聞こえないし。何言ってっか分からんし。
「ふー…はー…ふー…」
「ラマーズ法でもしてんの?」
「違いますッ!何をするんですかって言ったんです!!」
「何って言われても。止めただけだけど」
「止めただけ!?止めただけで、HPが一割も削れたんですけど!?」
「そりゃ、クリティカルだったからなー。我ながら良い肘打ちだった」
「それはもう、効きましたよ!骨の髄まで!」
「まま。落ち着けって。考えても見ろよ。あれだけのトラップを張った剣聖が最後大人しく通すと思うか?」
「む~…確かに…」
だよね。えげつないトラップを張りまくって、ここだけ何もしていないのは逆に可笑しいやろ。
という事で、トラップの回避の仕方を教えます。
「バツ行っきま~す!」
取っ手に手が触れた瞬間、壁から異音。ノンアクションで仰け反ります。すると、胸の在った辺りを鉄針が通り過ぎます。次に仰け反った姿勢のまま、後ろへ手を伸ばし、バク転をします。居た場所の地面から棘が突き出します。
普通の人はここで安心します。二段仕掛けのトラップを回避したことに対する安堵ですね。ですが、そこで終わったら、剣聖の名が泣きます。付け加えると、安堵した人は二流です。
カパッ。そんな音を立てて、壁から数十もの穴が開きます。はい。矢です。しかも毒が塗ってあります。威力を知りたい人はご自分でご確認を。
「十字斬り」
体を沈ませながら、スキルを発動。回避行動へ移るための時間作成です。自分の体を覆うように十字の斬撃を生み出し、矢を弾く。その間に伏せて避けます。
―――ゴゴォォ…
頭上から嫌な音がしています。さて、なんでしょう?岩です。巨大な岩が落ちてきます。この場所は家の真下なので、地盤など多数の問題があるはずなのですが、なんで岩が地下で落ちて来るんでしょうか?
「両断」
焦らずに、餓狼刀を抜刀して、岩を真ん中から断ち切ります。
斬られた岩が蠢き、二体の岩人形になります。正直、ここまで用意周到だとうざいです。硬度も通常の岩人形よりも硬そうです。
「岩穿ち」
岩人形の頭を狙い、二体同時に粉砕する。岩や、鉱物特攻のスキルは容易に岩の体を穿つ。砕け散った岩人形の体は、赤く光っています。…?
「やべ」
どっかーん!爆発しました。
…ふざけやがって。キレそう。剣聖性格悪いね。
「終わった…ですかね…?」
「終わったな。ああ、辛かった。ダリィ」
背伸びをして、手を合わせ伸ばす。体中バキボキいってる。
腰に手を当てて、仰け反ったその時―――、
シュコン!
乾いた音がして、俺の首が存在していた空間に矢が飛来する。
仰け反ってたお陰で、当たらなかったが、収まってから時間を要しての攻撃。
俺、誓うわ。剣聖、性悪。
「せ、先輩、行きましょう。扉開いてますよ…」
「ああ。今行くわ」
やっとのことで苦労して中に入ることが出来た。




