Episode.39 退職社畜の『剣聖の襤褸小屋』推理
えー…前回にも言いましたが、これから(以下略)
見てない人は一話前の前書きをお読みください。
自分でもこじつけかなー?と思いましたが、触れないでください。
【ログイン中】
「来たな」
「ですね」
息切れぎれのレイランを無視して、探索。レイランが百回も倒していてくれて助かった。
ライダーが来るかもしれんこの状況。早めに解きたいものだ。
聞いたままにボロ小屋を見て回る。
木で造られた、小規模の小屋は時間が経ったのか、腐った場所すらもある。水路も浅く、水車に繋がっているだけ、水路の先は湧き水のある場所。畑もあったのか、土のたまり場も存在。家の中は、狭く、囲炉裏。無いような段差に気を付け、歩く。
「何もないな」
「やっぱり無いですよね」
落胆とも言い知れない感情を携え、出ようとして、扉へ向かう。開け放たれているため、開ける必要も無いが、どことなく視線が惹かれる。
ファンタジー世界に似合わない、ドアハンドルの構造。ドアノブは珍しくもないが、ドアハンドルは珍しいと感じる。ルーシェ辺りの家宅は片引き戸で、凹みに手を引っ掛けて横にスライドさせる式。
ここは、引き込み戸。それにドアハンドル。
和風の家とかでも現代では珍しくもなんともないが、統一されているこのゲームで唯一違うのは違和感。LFOは、大雑把なところが多いが、基本は精巧に緻密に創られている。単一で違うのは違和感を感じざるを得ない。
もしや、と部屋を振り返り、見回す。
「…」
「先輩?どうしたんです?」
最早。気づくかよこんなの。
朽ちた部屋の中…の端に微かながら残っている壁掛けアイアンバーのようなもの。
「わかった」
「ふぇ?何がですか?」
「ここの秘密だ」
「え…ええええええええええええええええ!?本当ですか!?」
「五月蝿い」
「すみません…」
部屋の細部を確認。
もう一度、再認して確信を深める。
「恐らくだが、剣聖は盲目だ」
「もう…もく…?」
「そうとも。この扉を見ろ、このドアハンドルはルーシェでは見ない。統一されているのに、ここだけ違うのは違和感がある」
部屋を一目しただけ、では分かるはずも無い。
「足に呪いを受けたとされている剣聖が家の内装に取っ手を付けるのは納得だが、扉にまで付けることは無い」
「…」
静聴しているレイラン。
「ドアハンドルがある扉の使用者は限定される。それは目の見えない障害者用だ。ご丁寧に最近のユニバーサルデザインが使用されている所が残っている」
「ホントだ……」
「加えて!『剣聖の襤褸小屋』のエリアには段差が少なく、尚且つ低い。これは転倒防止・対策の可能性が高い」
一呼吸。
「部屋中の壁を見てみろ、俺で言う腰の位置に取っ手が取り付けられている。これでさらに盲目の確立が上昇…否、決定的になった」
「凄いです…先輩…」
「そして、この扉。視覚障害者用のドアハンドルがあって、完全に締まり切っていない」
扉に近づき、触れると、ぐらりと揺れる。引き抜く。扉を完全に引き込み戸に押し込む。
「な、なんか揺れてないですか…?」
「マジだ」
「冷静ですね!?」
「いや、ギミックを発動するにはドアハンドルに触れる必要があったし、崩れるとしても、外から開けなけきゃいけない。剣聖がわざわざ面倒なマネをするとは思えん。さらに言うと、俺とお前のレベルに到達した戦士系職業のHPじゃ、家の倒壊ごときでデスペナルティを受けない」
「…はい」
「分かったならよろしい」
どこかしらで動く気配がして、軋む音と共に、囲炉裏が地面にめり込み、スライドして階段が現れる。二人で覗くと、石階段が続く底の見えない地下。壁に等間隔で掛けられた不気味な灯篭が妖しい光を灯す。
「外だな」
「行かないんですか!?」
階段に指を差し、怒鳴るレイラン。
「何を言っている?盲目の剣聖がこんなにも急な階段を行けるはずもない。部屋にあった取っ手がここにだけないのは不自然。急な階段なら尚更」
人差し指を立てて、レイランに見せつける。
指を動かし、灯篭を指す。指の先を追うレイラン。
「盲目の人物が灯篭など必要にすると思うか?」
「あ…」
「単なる視覚困難ならともかく、盲目。至るところに取っ手があるのがそれを裏付けしている。歳という可能性もあるが、茶屋のお婆さんから聞き、お前も言ったが、剣聖は若くして亡くなった。年齢の可能性は低い。足に呪いを受けたなら取っ手は必須。よってこれはダミー・ミスリード・罠だ。…なんか要らない物ないか?」
「んえーっと…これを」
差し出したのは、岩人形の外れドロップの石ころ。
受け取り、階段の下に放り込む。
―――ジャキン
澄んだ、残酷な音が響き、覗くと、石ころに刺さった複数の矢と棘の数々。液体がぬめっているのは毒かナニカか。
正確に石自体を狙ったトラップ。
「ひえっ…おっかないですね…」
レイランの腑抜けた呟きと同時に音が鳴り、階段が閉じられる。
「これに気づいたとしても、これで死んだヤツラはこのギミックで隠された階段の奥に何かがあると勘違いする訳。外に仲間が居るとしても、仲間が死んだことで階段が閉じられ、別にあったとしても気づかない」
「凄い仕掛けですね…」
「盲目でこれを造ったんだ。尊敬に値する。しかし、死んだ人間に無礼も糞もないだろう」
再び、ギミックを作動させて、外に出る。
外観に変化がないか調べる………特になし。
「何だ…何を見落としている…?」
「あっ…水路の水量が減ってませんか?」
「何だと?」
レイランの言葉に下を向くと、引かれている水路の水が…減っていないわけでも…なさそうな。
元を辿る。順繰りに水車へ辿り着く。三者視点で眺める。家が朽ちているのに、未だ丈夫を保つ水車。
一部品ずつに注目して、分析―――…。
「ここか…」
水車の付け根の部分が速度を遅滞させている。だから水量が減少していた。微妙ーに空いた水車の付け根の隙間に手を覗かせると…―――カチッ!―――…音。
水が水路の水が止まって、水車が地面に消える。現れる階段。こちらには取っ手が付いている。ビンゴ。
「さて、行くとするか」
「カッけーっす。先輩」
「口調が乱れているぞ。レイラン」
言われれば気づくが普通は気づきようも無いだろ。卑怯な運営め。妹の勤めているところだ。まともな人は少ないと思っていたが、これほどとは。




