Episode.4 退職社畜の激熱バトル
次で抜刀要素を入れてきます!
お楽しみに!
追記)Episode2のステータスの速度力を俊敏力に変更。Episode3のスキル説明を変更。
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「やっべー…」
現在進行形で絶賛ピンチなバツもとい刀抜閥でございます!
俺の目の前には涎をダラッダラ流した巨大な狼がいる。
ここは俺が登っていた山なのだが山頂は円形に広がっていて草一つ生えていなくて、「あっれ~?おっかしいな~」と思った時にはこの狼がいて、多分ボス的な奴だと思うんだがレベルが違うというかなんというか…。
「よし!気合い入れろ俺!」
二十五歳にもなってゲームの中でビビッてどうする!
見栄を張ったはいいものの、いきなり現れたから剣すら抜けていない。
おう、じーざす。
脳内会議をしているうちに狼は身を低くして飛び掛かりの姿勢になっている。
ああもうじゃ、やってやんよ!
「Guraaaaaaaaaaaaaa!」
気付いたら周辺が暗くなって―――上かッ!
「スラッシュ!」
咄嗟にバックステップしながらスキル発動しつつ抜剣。
―――Critical!
いきなりアナウンスが鳴り、狼のHPが一割ほど減る。
あ、そういえばクリティカルは運勢力だけじゃなくて他の要素もあるってヘルプに書いてあった。クリティカル率を上げる方法の一つが抜刀とか抜剣ボーナスだっけ。
「Gura!」
「危なっ」
速攻で前方に転がる。
一秒前まで俺がいた場所に狼が前足を振り下ろす。
間一髪、避ける。
ボコッ!
轟音を立てて地面が陥没してひび割れる。
狼が硬直しているその隙に前足を斬りつける。
HPがミリで削れる。少なっ。
こうなったら抜剣作戦でHPを削るしかないな。
剣を腰の鞘に納めて柄を握る。
狼はさっきの攻撃を警戒したのか俺の周辺をぐるぐる回っている。
「フー…」
集中。偽物の世界とは思えないほどのクオリティの狼。このゲームが「第二の世界」だとか「異世界」とかと言われている理由が分かった。
黄色の瞳と黒の瞳孔が俺を貫いている。
冷や汗が頬を伝う。
「……ッ!」
刹那、液体で滑った牙が生えそろった口内が見えた。
反射で左手の盾を牙の一本に当てるぅぅぅぅうぅぅ!?
「グハッ!」
吹き飛ばされて地面を転がる。口の中に砂が入って気持ちが悪い。唾を吐き出して起き上がる。
「エアスラッシュ!」
追撃を防ぐために斬撃を飛ばして牽制をする。
思惑通りに狼はジャンプで飛びのいて唸り声を上げる。
…HPは残り三割。
剣を握り直しながらインベントリから緑色の液体が入った瓶を取り出す。その名も回復ポーション。
初心者に最初から配られる回復アイテム。
盾で割り砕いて回復する。
「HP残量は八割。攻撃を受けられるのは最大一回。スラッシュのクールタイムは空けてる。狼の攻撃方法は、飛び掛かり、前足での叩きつけ、噛み付き、恐らく体当たりや爪での攻撃も想定…」
口に出して情報整理。
頭はクリアに冷静に。それでいて熱く、集中。
思い出すのは社畜時代に深夜、仲間たちとデスクワークで打ち込んでいた光景。
「シュゥ…」
呼気が漏れる。
狼も遠距離攻撃が来ないのを好機と思ったかジリジリ距離を詰めて来る。
一々大きな動きは要らない。単調に、コンパクトに。
狼は今ある程度距離がある。あの距離からの攻撃方法は飛び掛かり、もしくは飛び掛かりの噛み付き。
どちらも正面と下に向かっての攻撃。
つまり―――
「Guraura!」
「スラッシュ」
横への回避が最適解!
サイドステップで回避。鞘から剣を放つ。
狼顔の横に切り傷が刷り込まれる。
「エアスラッシュ」
後ろに跳ねてスキル発動で追撃。
合計で二割弱の攻撃。残りは六割と数パーセント。
ギロリ。そんな擬音が聞こえる振り向き方で首を傾ける狼と目が合う。
「邪魔だな」
盾を持っていたら重量制限で速度が落ちるから装備から外す。
深く吸って…深く吐く。
意識してメニュー画面を呼び出す。
ステータスの値は後からでも決められるからあと回しにしてたが全部俊敏力に回す。これで狼との速度差は縮まった。
「Guraururu…!」
狼は飛び掛かりは無駄だと判断したのか走行に切り替えての接近。
俺は剣を納めて待ち構える。
お相手は五メートル付近まで接近。腕を振りかぶっている。
…もしかして、向こうも遠距離攻撃持ってる?
「持ってた!?」
爪の形の斬撃が飛んできたので間を半身で避ける。
今度は逆にこっちから接近。
五メートルなんてすぐに詰まって抜剣。
「スラッシュ!」―――Critical!
ダメージが入って残り四割。
「Gura!!」
「うっそだろおまガッ」
ダメージを受けながらの突進。
肺から空気が抜けて圧倒的な力に押される。
既視感のある地面ローリングから立ち上がって構える。
満身創痍。HPも一割切った。
「って待たせてもくれねえか」
「Guraaaaaaaaa!」
前足攻撃を前に避ける。
巨大な体の内側に入り込んで柔らかい腹を攻撃。後ろ脚の間を抜ける。
踵を支点に踵を返して百八十度ターン。上がった俊敏力で跳躍。背中にしがみついてチマチマ切り裂き攻撃。
狼は暴れて振り落とそうとして視界がめっちゃ揺れる。アンド気持ち悪い。
体躯が沈み込んだ時に飛び降りる。
さーらーに-…
「エアスラッシュ!」
空中でのスキル発動。酔ってるけど一応当たったみたいでよかった。
だけどまだまだHPは三割ある。
「必殺ゲージやっと溜まったよ」
必殺ゲージは一定時間経つとリセットされてしまうから今まで使えなかったがこれでやっと使える。
剣を真正面に持って、駆けだす。
狼は飛び降りた俺にまだ気づいてない。チャンス!
「アークスラッシュ!」
剣に赤いオーラが纏って一段と大きく見える。
振り下ろす。
「Guuuuuuu!?」
一拍。
「これで終わって―――ない!?」
まだHPがドットで残ってた。
急いで斬りつけるがその前に逃げられる。
「はぁ…詰めが甘かったか」
今日だけで何度目になるのか分からない納刀ならぬ納剣。
どっちにしろ次で終わり。俺が勝つかモンスターが勝つか。
ゲームでこんなに熱中するとは思わなかったな。
「これで終わりッ!!」
剣を打ち抜き。
結果は―――。