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退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第四章 和国【ルーシェ】
39/64

Episode.37 退職社畜の鬼武者泣かせ

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「案内してくれたまえ。ハリーハリー(早く早く)!」

「教えてもらう立場なら態度、改めてください」

「何だよ。非戦闘員殺すのは止めたくせに、二対一で襲い掛かってきたやつなのに」

「ギクッ!」

「分かりやすっ!動揺してんの分かりやすっ!」


 オロオロしだす鬼武者。

 イベントの時さあー。俺が早くイベント終わらせようとしてー。生産職のプレイヤーを狩っていたんだけどー。鬼武者が、卑怯とか言ってー。二人掛かりで襲い掛かって来たんだよねー。

 どっちが卑怯だと思う?どっちもどっち?


「行こうぜ」

「…ああ。まあ。はい、そうですね。こっちです」


 街門へと俺を導くレイラン。街の中を歩くたびに、レイランに向けて激が飛ぶ。いつもありがとう、だとかいってらっしゃい、だとか。どうにもレイランはルーシェの街の人に好かれているよう。


「脳筋の癖に」

「びくぅ」

「その言葉口で言うことある?てかさ、思ったんだけど、経済回らなくなるって言ってたけど、それは俺がメニーを使わなかった場合だよな?話も聞かないで、決めつけたのー?」


 ……。


「聞いてるー?」

「ははっはっはっははははは、早くいいいきましょうううかっ」

「え?俺の話きいてたー?ねえーねえー」

「行きましょうか!?!?」


 刀を突きつけられる。


「そういうとこだよー。ステータス振った時もどうせ、『パワーでごり押しすれば勝てるっしょ!』とか思って振ったでしょ?ねえ、どうなの?答えてよ?」

「…ごべんなざい、もうゆるひてください…」

「別に怒ってないよ?たださー、なんで自分の考え・理論・倫理だけで他人を。物事を判断するかなー?声的にも、もう十五ぐらいは超えてるでしょ?買えてるってことは金も持ってる。貰ってるにしろ、稼いでるにしても、いいけどさ。その年齢なら、自論だけで事象を判断しちゃ駄目だよね」

「……はいすみません」

「大人になったらさ。理不尽なことが多いんだよ?成人してから、『あれ学んどけば』とか『あれやっとけば』って、思うこと多々あるし。そもそも良い企業に就職できるとも限らないし。泣いても社会では通用しない。今のうちにさ。そういうとこ直しといた方が良いと思うなぁ」

「……わかりました。ありがとうござました」

「本当に分かってる?これからは、何かする前に、色んな視点から見るんだよ?OK?」

「…はい、先輩」

「先輩って…安直だな。ま、いいけど」

「ありがとうございます」

「じゃ、行くぞ」

「はい」


 涙ぐむレイラン。

 もう、すでに恰好は土下座に近い。それを姿勢を低くして、言う俺。

 ああ、やだやだ。説教臭くなってしまった。虐めるみたいじゃん。

 先輩呼ばわりされるんなんて、何時振りだろうか。勤めていた時に後輩は居たが、一年と経たず()()()()()()()し。大体、倒れるか、辞めてったからな。


「ふむ…目立ち過ぎた」

「そうですか?」

「うむ。お前が土下座してから、プレイヤー、NPCと問わず視線が向いて」

「何故でしょうか?」

「お前馬鹿だな。通常でも、街中で土下座してたら気にもなるだろ。ただでさえ、お前の恰好なら。しかも、お前この街で有名だったろ?少なくとも、話題になるぐらいには」


 馬鹿と言われたことも気にせず、熟考するレイラン。

 言われたことをすぐに行動に移すその気概、嫌いじゃない。


「…はい。この街に来たのは、結構始めて間もない頃だったんですが、来る途中で、()()()()モンスターがいたんですよ。それが()()強かったみたいで。周りで囁かれるようになったのは、それからでしょうか」

「………ふぅーーーーー」


 深呼吸。


「質問だが、その()()硬いモンスターってどんな姿と名前だった?」

「えーっとですね……」


 お面に、人差し指を当てて、考える仕草を見せるレイラン。

 余程、印象が薄いらしく、忘れてる。


「名前はー…『ブラッディ・アダマンタイト・オーガ』だった気がします。姿は鬼のカッコでした。倒したらこの装備一式がドロップしたんですよね。お気に入りです」

「アダマンタイトって知ってるか?」

「知らないです。響きがかっこいいですよね」


 脳筋め。そんなことも知らんのか。


「アダマンタイトっていうのは、磁石系の鉱石のことで、フィクション世界では超硬度金属のことを指す」

「へぇ~、先輩ってなんでも知ってるんですね」


 頭を抱えて、膝を曲げる。

 レイランと話していると、やたらと疲れる。なんでだ?

 こいつが脳筋だからだよ!?


「…本格的に駄目だこいつ」

「何か言いました?」

「なんも。今度こそ、案内頼むぞ」

「はい!」


 意気揚々と歩くレイラン。足取りは軽い。

 まずは街の外に出て、俺がヤクザキックで倒したスケルトンの場所を越え、南東方面の石畳へと道を分岐して進む。


「南東の方には、モンスターの出現率が低くて、人気ないんですが、隠れスポット的な隠れ場があるんですよ」


 茶色の岩石で出来た、石人形のモンスター見ずに()()で粉砕しながらレイランが目的地の仔細を語る。

 後ろに現れた岩のモンスターを、右肩越しに軽ーく蚊を払うように振ったら、岩人形が飛んでいきました。地平線に消える岩人形は、パラパラと欠片を残して、やがてポリゴンに変わった。


「隠れスポット、そこそこ遠くて行くの大変なんですけど、良いところですよ」

「お、おう…」


 俺も、襲ってくる岩人形を抜刀で首狩り。

 俺とレイランだから倒せてるけど、プレイヤー換算の防御力だと、300超えてそう。

 ちょこちょこ現れるモンスターを倒す俺等。

 そんな調子で、十分石畳を道のりに往く。


「あそこです」


 続く石畳の奥に、薄く小さく小屋が見える。


「あの小屋の近くはモンスターが来なくて、一種の休息エリアです。そして、NPCが営んでいる茶菓子屋なんですよ」

「茶菓子屋と来たか。期待できそうだな」

「期待しててください。それは、もう美味しいですから」


 期待に胸を躍らせ、足を早めた。

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