Episode.36 退職社畜の鬼武者遭遇
【ログイン中】
ルーシェに来ました。
ここはいいところだと思います。
街の中に入って、リス地設定をして散策に出かけた。
そしたら、ある場所を見つけた。
やはり和風テイストの街なのか、賭博場があり、行ってみたわけですよ。
やっていたのは、丁半っていうゲームでさ。
宙に賽子を放って、茶わん型の笊(ツボ皿)に入れ、出目を丁(偶数)か半(奇数)か予想する博打なのだが、俺はこの手の遊びが昔から異常に強い。
空中に放った賽子二つを落ちる瞬間の上の出目を確認しといて、中で転がった音を数えて、面を予想、合計を確率で割り出して、当てる。一見、在り得ないし、運任せだろ…と、思うだろ?これが、どういうわけか当たるんだよな。
いやはや、メニーがガッポガッポ入ってきて、最高!
俊敏上げたかいがあった…!
この場所に来てから、ずっと稼がせてもらっている。
運営しているNPCの男性は涙目でこっちを見てるけど、知ったことではない。次は幾ら賭けようかな~♪
「ちょっと待ったぁーっ!なんで貴方がここにいるんですか!?」
「あ~ん?誰だよ。コラ」
呼び止められ、後ろを見ると…。
鬼武者がいました。怖っ。近くで見ると怖っ
あの人だ。あの人。昨日、公式イベントで最後、俺を殺しにかかってきた人。
鬼のお面を被って、強靭強硬な鎧を着た武者。腰に刀を佩いている。
顔を寄せないで欲しいんですが。怖いんですよ。
「一先ず、こっちに来てください」
「おい、やめっ…放せっ!」
抵抗したが、攻撃力極振りの変態ビルドさんには敵わず、引きずられていく。
店主が胸を撫でおろしている。
また来てやるからな!金をむしり取ってやる!
借りてきた猫のように首根っこを掴まれ、店外へと連れられる俺。
賭博場から離れた、裏路地に連れ込まれ、投げられ、刀を向けられる。
これ、殺られちゃうやつやん。
「なんでこの場所にいるんですか?!」
「なんでって言われても…旅行?」
「旅行!?」
鬼武者とは、イベントで敵対してたからかメチャ驚かれている。
あん時はプレイ方針に口出しされた上に綺麗事ほざきやがって苛立っていたから、謎に悪役ムーブしてた。驚かれるのも当たり前…か?
「もー…金荒らしがいるとか、聞いて来てみれば…」
コイツもライダーと同じようなことしてんのか。
クランとまではいかなくても個人でそれだけの実力があるから出来る芸当。
「別に、殺さんから安心しろや」
「…ッッ!!」
「分かりやすい空気出しやがって。俺もそこまで落ちてないわい。屑プレイヤーならいざしらず、NPCをやるなんて在り得ねえから」
「そうですか…」
肩透かしを食らった鬼武者。
「和解?したところで自己紹介といこうや。俺はバツ」
「バツさん…。私は、レイランです。よろしくお願いします」
「よろよろ」
レイランだって。カッコイイ名前だね。
「じゃあな」
「え!?」
「もしかして、なんか俺に用あったの?」
「い、いえ、そういうわけでは…」
「そうか。じゃあな。俺は賭博場から金を巻き上げなくちゃならん」
「ちょちょちょ、待ってください!ダメですよ!巻き上げないでください!」
「なんでよー。別にいいじゃん」
「貴方にメニーが集中すると、経済が回らなくなるんですよ!」
む。NPCにも害が及ぶなら自粛するしかない。
鬼武者め。策士だな。
「俺はどうすれば、いいんだよー」
「貴方、子供ですか!勝手にモンスターでも狩っていてください!」
「勝手に、と狩ってを掛けたのか。上手いな」
「喧しい!」
「メンドクサい人だなー」
「どっちがですか!?」
楽しいやりとり。声が仮面で反響して、声が低く聞こえるが、少なくとも俺より若者だとわかる。揶揄うの楽しいです。
「しゃあないなー。狩りいってくるわ。ついでに観光にも」
気晴らしに、一帯のモンスター狩りつくしてやろっかな。
それとも、PK狩り。プレイヤー驚かすのも面白そう。
「…何故か嫌な予感がするんですけど。付いて行ってもいいですか?」
「うにゃ、いいけど。何で?」
「嫌な予感がするからです」
読心術…?
チッ!下手なことは出来なくなった…。こうなったら普通にモンスター狩りをするしかないのか!?
「気のせいだよー。俺は悪いことしないよー」
「信用できる口調では無いですね」
「何だと!?何処がだ!?」
「そこがです」
やれやれ。日本で一番、信用があると言われた男だぞ?俺は。
誰に言われたかは言わないけど。
「どうせ付いて来るなら良い店とか、観光スポットを教えてくれよ」
「私を何だと思って?」
「便利な監視官」
「はっきり言わないでください…」
こめかみに手を当てるレイラン。大変そうだ。そっとしておこう。
そそくさ、撤退。
「どこへ逃げるんですか?」
「バレた…!?」
「丸見えですから」
頭を押さえるレイラン。大変そうだ。お薬処方しますか?
「で、案内人はお願いしても?」
「…まあ、それくらいなら」
「YES!善は急げ。行こうか」
「はい…行きましょうか…」




