Episode.31 退職社畜の決着
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「疾ィッ!」
「おっと」
胴体目掛けて放たれた一撃を屈んで交わす。
後ろにあった柱が横一文字に切り裂かれる。
控えめに言って…不利な状況。
攻撃力が高すぎるが故か、スキルのお陰か、刀を振る毎に斬撃が飛んでくる。常に空破斬が発動している状態。
最初は回避に専念して【和城】を破壊させてやろうかと思っていたが、本人もそれを分かっているのか被害が大き過ぎて、破壊しても支障がない場所を選んで戦っている。
防戦一方の俺にとってはそれは妨げようもなく、逃げ続けている。
「呵ッ!」
「そい」
中段の突きを横から叩いて、軌道をずらす。
一度、攻勢に出てみるか。
突きの姿勢から立ち直っていない鬼武者に斬りかかる。
「ム!?」
飛び退いて避けられるが、一間も開けずに連撃。
一度でも防御にリソースを回せば、攻撃の意は削がれる。
攻撃の箇所を重ねずに、防がれては別の部位を狙い攻撃する。
突きや上段などからの攻撃はしない。隙が大きいので、逆に攻められる。
小ぶりにコンパクト。無駄を省き、効率的な動きで攻撃。
「旋風牙!」
「ぬわっ!」
唐突に、鬼武者の刀から渦巻く風が吹きつけて無理に距離を取らされる。
やられたッ!アア…苛々するなァ!
あったま来た!
改造刀を乱暴に取り出す。インベントリからある種の弾を取り出し、峰の装弾室に装填する。
鬼武者が俺を危険と思ったか、焦り接近。
「来んなや」
大きく太刀を旋回させて、再度の回転で『空破斬』を発動。
巨大な斬撃が鬼武者を襲い、刀で受けられる。
止められんのかい。
まあ、時間稼ぎには十分。
そして、レバーを引きながらグリップを引き出し、銃口を向ける。
死ねえい!
「発射!」
近距離で放たれた、弾。種類は【鉄製弾頭・散弾】。
銃口から無数の鉄粒が飛び出す。
「カッ…!?ぐぅぅ…」
当たりました。
弾頭の種類と攻撃力にも影響する弾だ。
そうとうダメージ受けたはず。もうデスペナルティ受けるやろ。
改造刀と餓狼刀を入れ替える。
穴が空きまくった鎧を押さえ、膝を着く鬼武者。
焦げ付く床を踏みしめて、餓狼刀の鯉口を切る。
「サヨウナラ。鬼武者」
這いつくばる鬼武者に振り下ろす。
餓狼刀は刃を立てて、光を反射する。
兜の装飾に触れた瞬間―――刀先の感覚が無くなる。
何?
「ご無事でしたか。レイラン殿」
「おお…!これはラムネさん。危ないところをありがとうございます」
「アアン?鬼武者の次は忍者ぁ?なんでもありかよ」
数メートル離れた場所に、黒装束の忍者がいる。
鬼武者のいた場所には、木の人形が置かれている。
身替わりの術ってか。ふざけんな。
「さっきからよお…。一々、邪魔しやがってぇ…」
怨嗟の声が漏れる。
人は何でも上手く行かないとキレるんだぜ?
俺は今、凄く怒っています。
アイム、アングリー。
「共同戦線と行きますかレイラン殿」
「そうですね、ラムネさん。…行きますよ!」
嗚呼、厭。
ストレスが限界値に来てる。SAN値削れるわぁ。
この怒りの発生源共がっ。
なんだぁ?ゲームの世界だろうと人であることには変わりがないから、倒すなあ?
意味判らんがな。
ゲームはゲーム。現実は現実。ハッキリ、クッキリ、分けろ。
「きー…れー…ぎー…みー…の―………」
「行きます!」
「お供致す」
前衛に鬼武者、後衛に忍者。同速にして俺に向かう。
構図的に俺が完全に悪者。
ヤダヤダ。これだから正義感強い奴は。
社畜時代に似た様な奴いたけど、上司に歯向かってクビになりました…とさ。
「抜刀ッッ!!」
「木の葉隠れ!」
超速の抜刀は、色とりどりの木の葉に遮られる。
容易く断ち切るが、その先に鬼武者はいない。考える暇もなく、左に転倒気味に跳ぶ。
俺が居た空間が斬られて、斬線を残す。
常在戦場。油断しない。思考を書き換える。
「―――…」
…俺は怒らない。俺は怒らない。俺は怒らない。俺は目の前の二人を倒す。絶対に。確実に。無駄を省き、最低限で、最大限を発揮させる。思考をトレースしろ。俺だったら何をする。相手のスキルはまだ全て割れていない。忍者といえば、隠れ身、木の葉、身替わり、火遁、水遁(以下略)。ならば、初手を避けられたならどうする?自分たちは二人、加減はあれどミスをサポートできる立場。しかも忍者は防御系スキルを有していた。現在だけでも二つ。こうなれば、自動的に絞り込まれる。思考を自動化しつつも考えることを止めてはいけない。相手の最善手は―――
「―――攻撃」
「殺ッ!」
床に手をついて、飛蝗顔負けのの跳躍を見せ、逃げる。
地面に亀裂が走る。飛び上がり、攻撃に移る。
踊り掛かるが、忍者のクナイに阻まれ、届かず。
体勢を整える。一歩引き、腰から鎧通しを引き抜く。当然に抜刀。
鋭い切っ先は…、鬼武者に止められる。力負けするのは明白。直ぐに引く。
「岩穿ち」「竜牙突」
同時にスキルが発動。鬼武者と俺の突きが激突。
折れるなんてことは無いが、衝撃はよく通る。HPが減る。
激突する突き同士を打ち切る。
鎧通しを側面に這わす。滑って、互いの頬を裂く。
血代わりのポリゴンが溢れる。
「…」
仮面奥の赤い目。
微かに覗いた、その目に宿る感情はただ一言、「殺す」、だ。
突きの速さを持たせたまま、壁に走りこむ。下駄を掛けて、上がる。
頭上に一人。
さらに駆けて、天井に垂直に立つ。
案の上に、天井には忍者が立っている。こっちは装備だが忍者はスキルで立っていると思う。
「落ちろ」
「断り申す」
鳴りやまぬ剣戟の応酬。
やぁだ、俺カッコイイ!映画にしたら賞を受賞しちゃう奴よ。
気楽に逝こうや、お二人さん。
そうそう…頭を真っ白にして、何も考えず、クナイを弾かれ、
「両断」
「ッゥ…!?」
忍者の放ったスキルは地上にいる鬼武者の刀に吸われる。
天井を蹴って、一回転。床に着地。酔いそ。うぷっ…。
「ィィィィィアアア!」
「くっ…はっ…!」
二刀を構えて、回転ベーゴマ斬り。あっ…喉奥からなにか上がってきた。うぷっ。
危うく、声といっしょに胃の内容物も吐き出すとこだったよ。
「狂狼・犬走」
「「ケモミミ!?」」
仲良いなあ。そう思いながら鎧通しはインベントリに戻して、餓狼刀は口に咥える。
木製の床を踏み割って、天井に移動。
足に衝撃を受けた瞬間に跳び立つ。
同じことを繰り返して、部屋中を飛び回る。気分は、ピンボールの球。
『狂狼・犬走』の残り効果時間、三秒。
鬼武者と忍者は部屋の真ん中で背中合わせになっている。
「餓狼・犬走の太刀道」
意識の時間が止まる。
眼球を動かさなくても視界内のモノを理解できる。
限りなくスローモーションの世界で鬼武者の顔面に刃を動かす。
忍者は反応できていない。残念だけど鬼武者の方は貰うよ。
「―――…?」
違和感を感じて眼を凝らすと、餓狼刀に鬼武者の刀が重なり合っている。
反応したってんのか。俺の最強のスキルに。
遅延した世界が終わって、元に戻ると、硬いものと硬いものがぶつかる音。
俺の刀と鬼武者の刀が激突した音だ。
鍔迫り合いの状況にもつれ込む。
忍者は状況に追いつけていない。
俺の方が身長が大きかったから、押し始める。鬼武者は力が入り切って無い。
押し切る!
体重を乗せ、上辺に立つ。
ラストスパートォォォォォ―――
『報告致します。ただいま、【和城】の敗北条件が満たされました。【和城】陣営のプレイヤーは十秒後に転送されます。勝者は、【山城砦】です。おめでとうございます!【山城砦】陣営のプレイヤーも十秒後に転送されます』
踵を返し、餓狼刀を納刀する。
アナウンスを確と聞かなくても分かる。
俺は親友に戦場を託したんだ。負ける道理無し。
鬼武者は呆気なさに驚いているのか、不動に徹している。
「グッドゲーム」
親指を立てて、笑った。
それが勝者の特権だもの。




