表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第三章 【トライアングル・ガード】
32/64

Episode.31 退職社畜の決着

【ログイン中】


()ィッ!」

「おっと」


 胴体目掛けて放たれた一撃を屈んで交わす。

 後ろにあった柱が横一文字に切り裂かれる。

 控えめに言って…不利な状況。

 攻撃力が高すぎるが故か、スキルのお陰か、刀を振る毎に斬撃が飛んでくる。常に空破斬が発動している状態。

 最初は回避に専念して【和城】を破壊させてやろうかと思っていたが、本人もそれを分かっているのか被害が大き過ぎて、破壊しても支障がない場所を選んで戦っている。

 防戦一方の俺にとってはそれは妨げようもなく、逃げ続けている。


()ッ!」

「そい」


 中段の突きを横から叩いて、軌道をずらす。

 一度、攻勢に出てみるか。

 突きの姿勢から立ち直っていない鬼武者に斬りかかる。


「ム!?」


 飛び退いて避けられるが、一間も開けずに連撃。

 一度でも防御にリソースを回せば、攻撃の意は削がれる。

 攻撃の箇所を重ねずに、防がれては別の部位を狙い攻撃する。

 突きや上段などからの攻撃はしない。隙が大きいので、逆に攻められる。

 小ぶりにコンパクト。無駄を省き、効率的な動きで攻撃。


旋風牙(せんぷうが)!」

「ぬわっ!」


 唐突に、鬼武者の刀から渦巻く風が吹きつけて無理に距離を取らされる。

 やられたッ!アア…苛々するなァ!

 あったま来た!

 改造刀を乱暴に取り出す。インベントリからある種の弾を取り出し、峰の装弾室に装填する。

 鬼武者が俺を危険と思ったか、焦り接近。


()んなや」


 大きく太刀を旋回させて、再度の回転で『空破斬』を発動。

 巨大な斬撃が鬼武者を襲い、刀で受けられる。

 止められんのかい。

 まあ、時間稼ぎには十分。

 そして、レバーを引きながらグリップを引き出し、銃口を向ける。

 死ねえい!


発射(ファイヤ)!」


 近距離で放たれた、弾。種類は【鉄製弾頭・散弾】。

 銃口から無数の鉄粒が飛び出す。


「カッ…!?ぐぅぅ…」


 当たりました。

 弾頭の種類と攻撃力にも影響する弾だ。

 そうとうダメージ受けたはず。もうデスペナルティ受けるやろ。

 改造刀と餓狼刀を入れ替える。

 穴が空きまくった鎧を押さえ、膝を着く鬼武者。

 焦げ付く床を踏みしめて、餓狼刀の鯉口を切る。


「サヨウナラ。鬼武者」


 這いつくばる鬼武者に振り下ろす。

 餓狼刀は刃を立てて、光を反射する。

 兜の装飾に触れた瞬間―――刀先の感覚が無くなる。

 何?


「ご無事でしたか。レイラン殿」

「おお…!これはラムネさん。危ないところをありがとうございます」

「アアン?鬼武者の次は忍者ぁ?なんでもありかよ」


 数メートル離れた場所に、黒装束の忍者がいる。

 鬼武者のいた場所には、木の人形が置かれている。

 身替わりの術ってか。ふざけんな。


「さっきからよお…。一々、邪魔しやがってぇ…」


 怨嗟の声が漏れる。

 人は何でも上手く行かないとキレるんだぜ?

 俺は今、凄く怒っています。

 アイム、アングリー。


「共同戦線と行きますかレイラン殿」

「そうですね、ラムネさん。…行きますよ!」


 嗚呼(ああ)(いや)

 ストレスが限界値に来てる。SAN値削れるわぁ。

 この怒りの発生源(ストレッサー)共がっ。

 なんだぁ?ゲームの世界だろうと人であることには変わりがないから、倒すなあ?

 意味判らんがな。

 ゲームはゲーム。現実は現実。ハッキリ、クッキリ、分けろ。


「きー…れー…ぎー…みー…の―………」

「行きます!」

「お供致す」


 前衛に鬼武者、後衛に忍者。同速にして俺に向かう。

 構図的に俺が完全に悪者。

 ヤダヤダ。これだから正義感強い奴は。

 社畜時代に似た様な奴いたけど、上司に歯向かってクビになりました…とさ。


「抜刀ッッ!!」

「木の葉隠れ!」


 超速の抜刀は、色とりどりの木の葉に遮られる。

 容易く断ち切るが、その先に鬼武者はいない。考える暇もなく、左に転倒気味に跳ぶ。

 俺が居た空間が斬られて、斬線を残す。

 常在戦場。油断しない。思考を書き換える。


「―――…」


 …俺は怒らない。俺は怒らない。俺は怒らない。俺は目の前の二人を倒す。絶対に。確実に。無駄を省き、最低限で、最大限を発揮させる。思考をトレースしろ。俺だったら何をする。相手のスキルはまだ全て割れていない。忍者といえば、隠れ身、木の葉、身替わり、火遁、水遁(以下略)。ならば、初手を避けられたならどうする?自分たちは二人、加減はあれどミスをサポートできる立場。しかも忍者は防御系スキルを有していた。現在だけでも二つ。こうなれば、自動的に絞り込まれる。思考を自動化しつつも考えることを止めてはいけない。相手の最善手は―――


「―――攻撃」

()ッ!」


 床に手をついて、飛蝗(バッタ)顔負けのの跳躍を見せ、逃げる。

 地面に亀裂が走る。飛び上がり、攻撃に移る。

 踊り掛かるが、忍者のクナイに阻まれ、届かず。

 体勢を整える。一歩引き、腰から鎧通しを引き抜く。当然に抜刀。

 鋭い切っ先は…、鬼武者に止められる。力負けするのは明白。直ぐに引く。


「岩穿ち」「竜牙突」


 同時にスキルが発動。鬼武者と俺の突きが激突。

 折れるなんてことは無いが、衝撃はよく通る。HPが減る。

 激突する突き同士を打ち切る。

 鎧通しを側面に這わす。滑って、互いの頬を裂く。

 血代わりのポリゴンが溢れる。


「…」


 仮面奥の赤い目。

 微かに覗いた、その目に宿る感情はただ一言、「殺す」、だ。

 突きの速さを持たせたまま、壁に走りこむ。下駄を掛けて、上がる。

 頭上に一人。

 さらに駆けて、天井に垂直に立つ。

 案の上に、天井には忍者が立っている。こっちは装備だが忍者はスキルで立っていると思う。


「落ちろ」

「断り申す」


 鳴りやまぬ剣戟の応酬。

 やぁだ、俺カッコイイ!映画にしたら賞を受賞しちゃう奴よ。

 気楽に逝こうや、お二人さん。

 そうそう…頭を真っ白にして、何も考えず、クナイを弾かれ、


「両断」

「ッゥ…!?」


 忍者の放ったスキルは地上にいる鬼武者の刀に吸われる。

 天井を蹴って、一回転。床に着地。酔いそ。うぷっ…。


「ィィィィィアアア!」

「くっ…はっ…!」


 二刀を構えて、回転ベーゴマ斬り。あっ…喉奥からなにか上がってきた。うぷっ。

 危うく、声といっしょに胃の内容物も吐き出すとこだったよ。


「狂狼・犬走」

「「ケモミミ!?」」


 仲良いなあ。そう思いながら鎧通しはインベントリに戻して、餓狼刀は口に咥える。

 木製の床を踏み割って、天井に移動。

 足に衝撃を受けた瞬間に跳び立つ。

 同じことを繰り返して、部屋中を飛び回る。気分は、ピンボールの球。

『狂狼・犬走』の残り効果時間、三秒。

 鬼武者と忍者は部屋の真ん中で背中合わせになっている。


「餓狼・犬走の太刀道」


 意識の時間が止まる。

 眼球を動かさなくても視界内のモノを理解できる。

 限りなくスローモーションの世界で鬼武者の顔面に刃を動かす。

 忍者は反応できていない。残念だけど鬼武者の方は貰うよ。


「―――…?」


 違和感を感じて眼を凝らすと、餓狼刀に鬼武者の刀が重なり合っている。

 反応したってんのか。俺の最強のスキルに。

 遅延した世界が終わって、元に戻ると、硬いものと硬いものがぶつかる音。

 俺の刀と鬼武者の刀が激突した音だ。

 鍔迫り合いの状況にもつれ込む。

 忍者は状況に追いつけていない。

 俺の方が身長が大きかったから、押し始める。鬼武者は力が入り切って無い。

 押し切る!

 体重を乗せ、上辺に立つ。

 ラストスパートォォォォォ―――


『報告致します。ただいま、【和城】の敗北条件が満たされました。【和城】陣営のプレイヤーは十秒後に転送されます。勝者は、【山城砦】です。おめでとうございます!【山城砦】陣営のプレイヤーも十秒後に転送されます』


 踵を返し、餓狼刀を納刀する。

 アナウンスを(しか)と聞かなくても分かる。

 俺は親友に戦場を託したんだ。負ける道理無し。

 鬼武者は呆気なさに驚いているのか、不動に徹している。


「グッドゲーム」


 親指を立てて、笑った。

 それが勝者の特権だもの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ