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退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第三章 【トライアングル・ガード】
31/64

Episode.30 退職社畜の親友の特典

【ログイン中】


「なあ、ソレ何…?」


 震える指で指すのは、ライダーさんが肩に担いでる物騒なモン。


「何って?そりゃ()()だが?」

「知ってるか、ライダー?キャノン砲は武器ではなく()()というんだぞ」

「そうか」

「そうだ」


 ライダーが肩に担いでいたのは、キャノン砲…バズーカ。


「それが、【惨酷峠】で手に入れた特典装備か?」

「その通り。これがあのハリネズミをぶち殺して手に入れた特典、【二輪車両可変方式装置機神砲】」

「長い」

「略して、バイクトランスバズーカ」

「分かりやすい。グッド」


 簡略化して話すと、バイクがトランスフォーム!して、バズーカになりました。

 ライダーの特典は巨砲に変化できるようになる可変パーツだったらしい。理解できるだろうか。二メートルもあるメカニックな大砲を片手で肩に担いでる。冗談。


「これ試し打ちしたら被害やばくてルナレナにめちゃ怒られたんだよな」

「お前って偶に頭弱くなるよな」

「ぐっ…」

「否定できないから、余計に目も当てられない」


 いいとして、(よくはないけど)我らがライダー軍は眼前一キロメートルほど前に【和城】があります。何をするでしょう?

 決まってるよね。爆破だ。

 発射威力は見た目でも、ネットニュースでもご存じの通り。

 自分の目で確認するのが怖いなぁ…。


「やっちゃってください」

「「「…」」」


 リーダーを見つめる俺と軍勢。

 無言で砲身を城に向けるライダー。

 左手で握り手をしっかりと握り、右手で引き金に触れる。

 俺の改造刀と似た撃ち方。

 砲塔を軸に、空中に幾学模様が浮き上がり、常に変わり続ける緑色の数字。

 サイバーパンク風な光景。

 砲口に集光する。

 原理的には俺と同じくMPを注ぎ込んで、濃縮してエネルギーにするのかも。


「発射ァァァ!!」


 ブワァ!

 砂埃が舞って、風圧が顔に吹き付ける。強すぎて、微かにHPが削れる。

 中には吹き飛ばされるプレイヤーもいる。

 輝く光線が空気を貫く。

 ゆっくりに見えて亜音速の速度で飛行するレーザー。

 (かろ)うじて、目で終えたのは発射から二秒弱。

 ライダーの姿が消えていることに気づいて、その場を振り返ると、地平線に二本線を引いてノックバックしているライダーの姿。

 次いで、耳に届く(つんざ)く音。

 視界を前に戻すと、【和城】の中段にど!デカい風穴が空いている。

 穴の上からプレイヤーが落ちているのを視認する。

 視界が激しく移動するの疲れるな~。

 それはそうとて、そうあれ、ともあれ、


「突撃ーーーッッッ!!」


 こうなる。

 うちらの軍団は叫び声を上げ、即興製作のバイクで突貫。

 今日は耳に目にと疲れる日だ。猿叫かよ。

 崩れる城、しかし崩れるのは穴の空いたところの上部分のみ。

 時間が経てば、勝手に崩れるだろうが、プレイヤーの減少は違う。俺達がやらねばならない。


「ゆうて俺も向かうんだけどな…」

「相棒どうした。誰に言っているんだ」

「なんでも」


 相も変わらず、猛スピードで疾駆するバイク。

 必死に耐える。いつもより倍増しで速い。


 ―――オオオォォォ


「む。来たぞ!突っ込め―ッ!」


 指示が飛ぶ。

【和城】から押し寄せる敵勢力が迎え撃ってきたからだ。

 返って速度を上げる。

 敵は武士甲冑などが多い印象。城のイメージ外見に合わせたのだろうか。

 兵数だけで言えば、こちらが不利。

 不利も知れず、士気は上がるばかりのこちら。

 有利、不利は五分五分か。

 突撃。

 甲冑を打ち破り、押しつぶすバイク。

 大楯で受け止め、引きずりおろし、倒す甲冑勢。

 殲滅力はこちら、数的有利はあちら。歯痒い勝負。

 俺も乗り出すとしようか。バイクから飛び降りる。


「任せたぞっ」

「なっ!?応よ!思いっきりやってこい!」


 驚きはしたものの、持ち直したライダーに送り出される。

 はい、行ってきます。

 着地間際に、餓狼刀を抜刀。

 斜め上からの斬撃に気づかなかった武士風の年増は首を刈られる。

 Q(クエスチョン)、多対一の勝負で、当たり前なことは?

 A(アンサー)、常に動き続け、止まらないこと。


「両断。空破斬。十字斬り」


 一撃目で一人。飛ぶ斬撃で一人。十字斬りで二人。

 隠れてこっそり、『武士団の命令』と呟く。

 またも共有される情報。今回は大雑把。

 集団戦法に対して、動き回って、バイクの機動性を発揮。頃合いを見て挟撃。

 俺は動き回る人波の陰に隠れて、ひとりひとり、ゆっくりと狩っていく。

 焦る必要は無い。パフォーマンスを欠く事は力の入れすぎが原因に繋がる。

 軽く握るくらいの力で良い。

 足を止めずに姿勢を低く、気分はまさに黒いアイツ(コックローチ)

 インベントリに入っている刀は三つ。

 変わる代わる、刀を入れ替え、抜刀を続ける。

 隠し要素かバグかもしれないが、インベントリに抜身のまま入れても出したら、納刀してある。これを生かして、連続で抜刀する。

 餓狼刀は小回りが利く、抜刀の反す刀でさらに一人首を刈る。

 もう餓狼刀は手放している。鎧通しで抜刀。その間に餓狼刀をインベントリに仕舞う。

 刀先で首を裂き、鎧通しを喉仏(のどぼとけ)で止めて、突き刺す。向こう側にいたプレイヤーを突き刺し巻き込み、倒れさせる。

 改造刀は太刀で大きいから、隙間のできる場所に移動する。

 砲とも銃とも見える鞘から抜刀(パージ)。大振りな抜刀。

 スキル補助を受けた太刀は旋風を仰ぎ、円形に間が生まれる。

 倒した人数は六人。


「乱戦キッツ…!」


 一呼吸挟んで身を潜める。

 俺に気づいたとしても、直後には人混みに紛れて、敵に襲われ、見失う。


「ふっ…!」


 突きで首を貫く。

 ()を認識できないまま、デスペナルティするプレイヤー。

【和城】のプレイヤーは和風装備が多いのも幸いして、気づかれにくくしている。

 うむ。本陣へ切り込むのもありかもしれない。

 敵プレイヤー間に指揮役はいるようだが、ルナレナみたいな全体強化などのバッファーはいない。バイクに乗っている俺の陣営と、歩兵中心の【和城】では体力の持ちようや、損耗が違う。バイクから降りても普通に戦えるし、ライダーの熱気に当てられた世紀末どもなら任せといても…大丈夫…かな?

 手頃な味方に伝えて、敵の横を抜けていく。

 自ら開け放たれた和風の木造城門に侵入。

 生産系職のプレイヤーが、レーザーによって引火した炎の消火活動や修理活動を行っている。戦闘員ではないから見逃す?

 甘ちゃんだな~。俺は殺すよ?

 ゲームの中には捕虜に関する条約も無い。

 俺が倒せばそれだけ、ライダー達の負担が減るわけだし。お寿司。


「敵だァァァ!逃げろ!作業を中止!とうそ―――」


 いち早く気付いたプレイヤーを踏み込みの抜刀で首狩り。

 非戦闘員のプレイヤーが俺に注目してしまう。ウザったい。

 もっと早くに倒すべきだった。

 嘆いても仕方が無い。


「さ、効率的に行こう」


 言うて相手は生産職。

 生産ボーナスの出る魔攻力と運勢力は高いが、魔法スキルを覚える生産系プレイヤーは稀で珍しいことに加え、運勢力は逃走に全く関与しない。

 俊敏力でも俺に劣る。

 つーまーりー……俺の独壇場。

 戦闘員も居ることには居るが、レベルが低いものばかり。高くても首を狙えば大体一撃で終わる。

 最近、流行りのダーク系の音楽を口ずさみながら頭の中で数を数える。

 ひとーつ。

 ふたーつ。

 みーっつ。

 よーっつ。

 いつーつ。

 むーっつ。

 ななーつ。

 やーっつ。

 ここのーつ。

 とおー。

 そこまで来たらまたリピート。

 ひとーつ。

 ふたーつ。

 みーっつ。

 よーっつ。

 いつーつ。

 むーっつ。

 ななーつ。

 やーっつ。

 ここの―――ガギン!


「あ゛?なんですかー?今、作業中ですよー?」


 振った刃は横合いから伸びた刀に止められた。びっくりして、謎の口調になる。

 面白いこと可笑しい口調で喋った相手は…鬼武者。

 強張ったシルエットに、赫色と紺色で彩られた甲冑鎧。

 赤色一色で染められた般若の鬼面を被っているため性別は伺い知れない。

 豪奢な装飾が施された兜を被り、一層威圧感が増している。


「戦えぬ者にまで手を出すとは、無礼千万、外道畜生。()くと死に晒せ。成らねば、その首、貰い受ける」

「あなたはいつの時代の人ですかー?この世界には捕虜に関する条約も糞も無い。NPCならともかく、プレイヤーに慈悲をかける理由が無いだろうに」

「どちらも人あることに変わり無い。そんなことも知れぬのか?手前は」

「流れるような煽り。これはプロの手際だわ」


 古風な囃子で語る鬼武者と、時代劇風なやりとりを交わす。

 正面から話す必要も、用事もない。

 飄々然として受け流す。これで少しでも苛ついてくれれば御の字。やりやすくなる。

 効果は見込めない。柳の如し、ってあんな事を言うのだろう。

 佇んでいるだけなのに、しっかりと怒気が伝わってくる。


「誇りなき武士に生きる資格無し。無知もまた罪。死すがよい」

「………止めてくれよ。まるで」


 俺が悪者みたいじゃあないか。

 正眼の構えから肉薄する鬼武者。早いのなんのって。

 銃弾ほどでは無いにしろ、純粋な戦士ステータスで銃弾に匹敵。化け物かよ。

 一歩下がりつつ、抜刀。

 刃が届かない距離を常に保つ。

 刀と刀がぶつかり合って…例に習って吹き飛ばされる。懐かし。

 拙い状況、鍔迫り合いするも数秒と持たずサイドステップで回避。

 切迫する対象がいなくなった刀は振り切られ、背後にあった石壁が断たれる。

 もしかしてだけど…攻撃力、極振り?

 直撃したら、即・死・☆ な奴じゃん。

 ワンライフゲームが始まった。

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