Episode.29 退職社畜の【西洋城】陥落
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「行け行け行け行け行けーーーッ!!」
誰かが凄い叫んでる。
便乗して叫び声を上げて、突入してく野郎共。野郎以外もいるけど。
世紀末な奴だらけな攻城戦。~ポロリもあるよ~(首が)
題名付けるならこんな感じだな。酷いゲームwww
今に限ってはそうも言ってられん状況だ。
バイクなヒャッハーが城襲ってる。俺はヒャッハーな陣営だから加担しなければならんのだ。
だから今も陰にこそこそ隠れて首を刈っています。
ライダーはとっくに人を轢きまくってい…る?
あれ?俺の間違いでしょうか。ライダーさんが城の壁をぶち破って走行している気がするんですよ。
眼を擦っても、夢じゃないみたいで。
へ~。バイクって城壁や城にぶつかっても大丈夫な乗り物だったんだ。
よし!見なかったことにしよう。
どっちの陣営にも分かりやすいように頭上にアイコンがある。俺達は山。相手は【西洋城】の絵。
端の壁や陰に隠れて、後ろに忍び寄る。
時折、仲間の背中に隠れて移動する。
極力目立たないようにする。
何もしなくても見つかりづらいから余計に俺を発見することは困難になる。
ほら、今も後ろから近づいてる俺に気づかない。
装備的に二次職以上。ラッキー。
仲間の労力も減ることだろう。
「―――ほえぇ…?」
間抜けな声を出して、首が宙を舞う誰かさん。
普通だったら叫ぶプレイヤーがよくいるのだが、現状は乱戦状態。気にしてなんかいられないのだろう。
徐々にだが、【西洋城】陣営が押されている。
俺等が押し始めた。
―――全体回復、軍勢指揮、士気向上、業火攻勢、群雄烈火、雹氷硬化
あ?いきなり、敵が強くなりやがった。
やられそうだった奴が復活してる。回復役がいる可能性大。
士気も上がったように見える。攻撃力も上昇してるかもしれない。
相手方の殲滅力が上がったことは確実。
「チッ!出て来やがったな!ルナレナァ!」
ライダーが動きを止めて、城の上部を見る。
そこを見ると、新緑色の軍服を着たルナレナの姿が。
マイホームで会話していた時とは違う調子の男勝りな口調で指示を出していた。
『皆!相手が押しているが、私達の方が質は上!負ける理由など無い!やってしまえ!』
「「「オオオオォオァオァオォアオォアオァオォアオオアアアア!!」」」
Oh…。
【西洋城】陣営のプレイヤーの目が赤くなっている。
火のエフェクトも纏ってるし。武器を無茶に振るう姿は狂戦士。
皆様、世紀末vs狂戦士だよ?
どんな小説でも見ることのない組み合わせだ!
厄介だな、ルナレナ。
ライダーの代わりにクラン内の仕事をこなしているだけあって、やはり戦型はサポート特化系の補助職。相手に回してこれほど面倒なこともない。
そう。厄介で面倒なだけ。
ずっと、コソコソしてたけど、本気出しちゃおっかなー。
手始めに、混沌としている軍場に躍り出る。
即座にスキルを発動。『武士団の命令』。
俺の脳内の戦略、戦術ともに【山城砦】側のプレイヤー全員と共有する。
共有した作戦…いや、俺の共有した情報に全員が困惑しているのがわかる。
俺の伝えた、情報は二つ。
一つは、俺陣営全員の脳内に映された線の数々。
みんなの視界内には線がいくつも在ると思われる。
この線は、動き方の表示だ。線通りに動けば、城周りにいるプレイヤーを気づかれず遠ざけられる。
それにいち早く気付いた上級のプレイヤーが線通りに動き始める。
習って動くものも増え続けている。
ライダー式でせんの…ゴホン!従順になってくれて助かった。
そしてもう一つは、敵を俺の周りに集めろと言う命令。
ここからは俺が表舞台で戦うとする。
今、そう決めた。
目立つのは苦手だが、司令塔のルナレナはアイツに任せるとしよう。
「カカレェ!」
早速、俺んとこに来たプレイヤー数名が飛び掛かって来る。
例の線の途中で俺に意識や興味が移る、俺を囲める様に線を仕掛けといたからな。
「両断」
横なぎに一名の首を飛ばす。使っているのはいつもの餓狼刀。
上段の大振りを半身で避けて、空いた首元を刀でひと撫で。
剣を振り始めて、足が止まっている相手に接近。
左手には鎧通しが握られてある。
腕を思いっきり引いて、鎧通しを心臓付近に刺す。
勢いがつけられた鎧通しは、すんなりと入り込み、すぐにHPを溶かす。
「〖万能なる力たる魔力よ、我に力を与え給え/怨敵の身を焼き尽くし、焦がす火球―――」
魔法系スキルの発動モーションに入った、【魔法師】風の女。
このままでは、抵抗力が低い俺はダメージを受ける…はずだった。
女の後ろからさらに火の玉が飛来して、直撃する。
その先には【山城砦】陣営側の男。
軽く親指を立てて、笑いかける。彼も返してくれて、すぐに離れる。
もう、仲間達も理解したようだ。もしかしたら頭の良いやつが広めてくれてんのかもしれない。俺の作戦は、全ての敵を俺が捌いて、ライダーがとどめに掛かるものではない。
ある意味当たってはいるがそうではない。
追加で敵が俺に敵意を向けて来ることを視界の端で捉えて、考える。
『武士団の命令』で発信した情報には含まれてないが、理解するには容易い。
俺と敵の配置を真上から見ればわかるかもしれないが、俺を囲むようにして、敵がドーナツ状に囲んでいるのだ。
だが、これは俺が仕込んだこと。
作戦の真意はさらにその円の外側にある。
敵のドーナツ型の外にさらに俺の仲間達で構成されたドーナツ型。
俺と仲間で挟み込むようにしているのだよ!
だけど、次々と集まってくるのは敵も。
さっきの魔法男。攻撃後にすぐに退いたのは、自分が標的されないため。その意を汲んでくれたくれたからこそ成り立つ、賭けに限りなく近い作戦。
装備は和服で、高レベルだと勝手に勘違いしてくれる相手。周りに仲間がいればそりゃ協力して襲ってくるわな。
世紀末軍は、俺に注目した敵を背中から攻撃するだけでいい。
「ファイヤウェーブ!」
おっと。城のバルコニーから火の波。
味方ごと巻き込む攻撃。俺の作戦に気づいたから真っ先に中心の俺をやりに来たのかな?味方もろとも心の潔さは認める。
同士討ちに混乱する敵。ずっと混乱の状態異常でも掛かってるみたいだ。
腰だめになって、餓狼刀を納刀。鎧通しも仕舞う。
間合いスキルで計測…火の波が一メートル付近になった時点で抜刀。
プラス―――
「十字斬り」
属性がある武器は魔法をも切り裂く。
パクっと割れた火の波はただただ、敵の味方を焼いただけ。
それで終わらせては二流止まり。
「空破斬」
三日月形の斬撃が思考停止した魔法を使用したプレイヤーを切り裂く。
直撃点は鎖骨辺り。ギリセーフ。スキルが効果を発動して首を落とす。
「うんうん楽しいね!」
声に出して笑う。
思ってた以上に上手く行って、良いねぇ。
定職についていた時期は、いつも上司の機嫌取りをさせられていたから気分や気持ち、考えの機微には聡いと自負している。
ゲームに没頭している奴共の考えなど、浅はかよのぉ。
袈裟斬りに一人倒す。
流転無窮のお陰様で攻撃力はアホみたいに上昇(現在進行形)。
ダメージも莫大。首狙いじゃなくても倒せるレベル。
んまぁ、俺が全員倒すまでも無く、終わりへと向かう。
城壁を壊された時点で城の損壊率はかなり高い。
内部で双方、魔法やスキルを連発。被害は甚大。
乱戦で消耗、味方の魔法スキルで止めを刺され、どっかの誰かが轢きまくった。
そしてどっかの誰かは今までなにをしていたでしょう?
ちょうど、城の上部から爆発音が鳴り響く。
「―――カハッ!」
親方!空から女の子が!
名前は確か、ルナレナです!はい、さようなら。
ポリゴンになって消えていましたとさ!
「おーい!行くぞ、相棒!」
また空から…男?需要ねえじゃん。
餓狼刀を振って、サパっと胴体分離させる。
もしかしてリーダーだったのかな?
『報告致します。ただいま、【西洋城】の敗北条件が満たされました。【西洋城】陣営のプレイヤーは十秒後に転送されます』
勝ちました。
数秒後に、消えてくプレイヤー群。
残るは【和城】。
気合い入れていきますか!




