Episode.21 退職社畜のマイホーム見学
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限りなくオフィスになってるマイホームを見学する。
所々に植物が植えられた鉢が置かれているのが妙にリアル。
「ここが二階の事務室。主にクラン内の経済、クラン共有財産の管理、メンバー管理なども行う場所です」
「なんか現実的だな。ファンタジーな世界でこんな場所を見ることになるとは」
「別に、ここらの街じゃ珍しくも無いぞ。機械系のモンスターからは各種部品がドロップするし、鋳造すれば新しい部品も作れる。なにより生産系の職業スキルで、幾らでも部品は創れるからな」
そういやここは架空の世界。
何でも出来るのを売りにしている世界だ。それくらいは出来て当然なのかもしれない。
だって、バイクがモンスターから手に入る世界だし。
ゴーレムとかの土や岩属性のモンスターを倒せば、粘土や鉱石もドロップする。コンクリートも作れるのだろう。
「他の街で見ないのは素材が流通しないのと、エマキナの施設が一番機械系の加工に適しているからだ」
「そうですね。他の街だと剣や鎧などのまさしくファンタジーな武器、防具などが主流の施設ですから。資金があるクランなどでは全自動の生産施設を製作しているところも有るくらいです」
ライダーとルナレナが説明をくれ、歩みを再開する。別の階層へと移動。階段を上る。
全自動の生産施設ってヤバいな。
素材さえあれば施設が勝手に生産する。
自動施設だからメンテナンスをすれば滅多に失敗作も、個別に差もほとんど無いだろう。すると、あとはパターンや品質を高めるだけ。
それほどのアイテムならば、設計図だけでもかなりの値が付く。
生産部品を依頼などで量産したり、部品をシリーズ化して販売すればかなりのメニーが稼げると思われる。
凄い物を作るもんだ。
「まあ、他の生産系クランでの製作権の争奪が凄いらしいですよ」
「む。詳しく聴いても?」
「ええ。なんでも自動化施設の設計図のコピーを投資してくれるクランに渡すのだとか。それで一際多く、メニーを投資したクランに渡すと宣言したせいでクラン間の争いが激化してるらしく」
「えげつないなあ…。でもさ、そんなことしていいのか?このゲームの世界じゃ、著作権や特許もクソもないだろうに」
ルナレナは足を止めて、笑みをこぼす。
その様子だとロクなことにはなって無さそうだな。
「そのことに気づいたクランは、設計図を所有しているクランのマイホームを同盟クランを組んで襲撃。壊滅した後に設計図を強奪。しかし、同盟クラン同士でも所有権を争い…自滅。阿保ですよねぇ」
「…ルナレナも大概だな…」「こいつ腹黒なんだよな…」
俺とライダーはルナレナから一歩分離れて歩く。
その分、距離を詰めて来るルナレナ。
また離れる俺とライダー。
その分(以下略)。
「で、エマキナ東部地域一帯を巻き込んだ抗争に発展。NPCを巻き込み、被害を出したことにより一時期NPCが協力して鎮圧部隊を作る案もあったほどです。ですが、不運にもエマキナには私達がいます」
「まさか…」
「そのまさかだ」
「マスターを中心に粛清部隊を結成。粛清部隊は一日で暴動を鎮静。設計図は元のクランに送り返し、二度と同じことが起きないように確約させました。もちろん、その他アイテムやメニーも徴収致しました」
「外道だ。設計図を返すとこまでは良かったが、アイテムとメニーを徴収するのはエグイ。」
この腹黒参謀、やり手だな。まったく関係のないアイテムとメニーを奪っていったらしい。
蛮族だ!正義の味方のはずなのに蛮族だ!
ところで今は階段を上り切り三階にいる。
「何を仰る。プレイヤーはとやかくNPCまでを、巻き込んでの戦闘。自己の利益を求めて被害を出した愚物どもに天罰…否、人罰を下したのみ」
「「こっわぁ……」」
オイコラ、クランマスター。お前んとこのメンバーだろうが。
とそこで、外から喧騒が聞こえる。
なにやら、激励のような怒号のような言葉が飛び交う。
止めろ!だとか。ちょ、待って下さい!だとか。
「え。は。なんですって!?」
「どうした、ルナレナ!何があった…?」
ルナレナはトランシーバーっぽいアイテムを使用して誰かと話している。
出会って、小一時間くらいだが、焦っているのは珍しいと感じた。
ライダーもルナレナが焦っているのが珍しいのか、声に動揺が滲んでいる。
「マスター!地上生息のマリモが来やがりました!」
「なぁにぃ!?まずい、相棒逃げろ!」
顔を嫌悪に染めて、ライダーは俺に逃げる様に急かす。
だが、何のことやらさっぱり。
地上に生息しているマリモってなんぞや。
「みーっつけった!!」
現在混乱中の俺にさらなる情報が押し寄せる。
三階、銃器部品の精査をしているクランメンバーが居る部屋に、大声が響く。
軽くて、ハリのある声。
向くと、頭の頂点でお団子を作っている頭髪は緑色の女の子がいる。
姿は西部劇のガンマンスタイル。
腰に左右対称になるように拳銃を一丁ずつ下げている。
「ライダーちゃん!“称号持ち”を無理くり連れ込んで囲ったんだって!?ズルいな~。私達にも分けておくれよ!もしくはライダーちゃんが入る?大歓迎だよ!!でも、うちのクラマスが何て言うかな?ま、いっかで、ルナレナちゃんもご一緒にどう?いっそのことクランごと合併しちゃうってのは?!」
お、おっふ…。
一気に畳みかけてきたな。
隣ではライダーとルナレナが頭を押さえている。
「あのなぁ!<リィーブラァー>は方針として無理やり囲うことは無えし、オレ様が入る予定も無い!」
「私が入ることも無いですし、クランは合併しません!」
にこやかな、お団子ちゃんとは対照的に疲れた様子を見せるお二方。
口調からしても、親しい仲ということは伺える。
本人は少し軽薄そうだが。
お団子ちゃんはしきり笑った後に、俺に気付き口を開く。
「この意外とナイスガイで、和風な男の人は?もしかして、二人のどっちか彼氏…?キャアアアア!恥ずかしい!大胆になったわねっ、二人とも」
「「違うっ!!」」
めんどくさいタイプの人だなこれは。確信した。
…ライダーは男だから彼女じゃね?
まあでもこの子、頭が弱そうだし?
「こいつはオレ様の親友のバツって奴だ」
「ふーん。バツさんっていうんだ。バツさんは呼び捨てと、君呼びと、さん呼び。どれが良い?」
「それじゃあ、お兄ちゃんで」
「ぷっ。あははははは!バツさん面白いねえ。これからよろしくね、お兄ちゃん。」
謎に見下す視線が二対、俺に注がれる。
いいじゃん。俺、あのポンコツじゃない妹が欲しかったんです…。この子も大概だが。
「私の名前はマリモ。こんな身長で格好だけど、一応成人してます!現在、彼氏募集中!ちなみにライダーちゃんとはリア友ね」
「「はあ…」」
名前がマリモ。ねえ。
どうしても視線が頭の上に行ってしまう。
そして、いきなりお団子ちゃんは閃いたよう目を見張る。
「ん…あれ…そしたら囲ってはないけど、称号持ちは居るって事かな!?」
「チッ!気づきやがった。アホの子の癖に」
「面倒なことに気づいてくれましたね。阿呆の癖に」
「ひどいっ!」
漫才しているみたいだな。
とまぁ、その話題を出されたら俺が反応せざるを得ないよね。
「その称号持ちってのが俺のことさね―――」
俺が言った瞬間、空気が変わった。
ピリピリした、緊張感のある空気。
威圧感を出している目の前のお団子ちゃん。
その眼光は鋭くなり、観察するような眼。数秒前までの印象は消え去っていた。
殺気って奴なのかな?
体が硬直するも俺は餓狼刀を抜き出して、お団子ちゃんに刃を向けて、距離を取っていた。
「ふむふむ、なるほど。反応するぐらいのステータスと才能はあるわけ…」
「…何の話しかな?お団子ちゃん」
「いーや何でもないさ!」
一転して、もとの調子に戻ったお団子ちゃんは俺に告げる。
「お兄ちゃん。私達のクランに来てよ―――」
そこで言葉を区切り、満面の笑みで、
「―――プロゲーマーチーム運営のクラン<暁の殿上人>へ」
それは現実世界でプロを名乗って、収入を得ている人達。
プロゲーマーが運営しているクランからの誘いであった。
………マジで?




