Episode.19 退職社畜の首狩り道
プレイヤー同士の集まりをギルドから、クランへと変更しました。残っている部分がありましたら、教えて頂ければ幸いです。
変更理由としましては、プレイヤーの換金施設と被っていたからです。
【ログイン中】
場所は西方。
辺りは破滅した地球の様なありさまで、倒壊した建造物や、標識が転がっている。
「フンフンフンフフーン♪」
鼻歌を歌いながら戦う。
迫る機械アームをザックザックと輪切りに切り分ける。これはテンポが大事。
複数あるアームを一本駄目にして、次のアームに取り掛かる。
関節部分に斬り込んで、ドリルの付いたアームをバラバラして、鉄球のアームをいなす。振り返りざまにアームをさらに斬り飛ばす。
流転無窮の効果で段々上昇していくダメージと共に攻撃を苛烈にしていく。
「両断んっと」
「Gi、gigigiggggggg…」
本体の人型ロボットに近づいて、胸部に埋め込まれている核を両断する。
変なノイズを走らせて、ロボットは消滅。
俺は納刀して、ドロップを確認。手に入ったドロップは機械のアームが二本と、機械部品。
アイテムを確認して、舗装された道へ戻って進む。
遠くの方に、人工物が見える。あれが機械の街【エマキナ】。
目新しい光景に心躍り、足を速めたところで不思議な光が見える。
「ん?何の光だ?」
一、二秒してから見渡して、―――パァッン―――異音と共に右を見た瞬間に一メートル程前に異物が。
それは三角錐で、金色に光っていて、銃弾っぽくて―――え?
「あっぶねぇぇ!」
体軸の向きを移動。特急で抜刀して、銃弾を縦に割る。
風切り音を立てて、左右に消えてく。
刀を握り直して、油断なく構える。
「PKか…」
どこの場所にもPKがいるもんだな。
プレイヤーの持ってる、武器や防具、アイテムを手に入れられるとはいえ、よくやるもんだ。
ここらはPK嫌いのライダーが居るというのに。
俺はドルベルとかいう屑をPKした時は街中だったからドロップは手に入れられなかったが、モンスターのポップするエリアではそれも可能。
「ええと…」
前に、なんかの銃弾記事で見たことがあるが、銃弾だったら、スリーカウントが出来る。
この距離からしてスナイパー系。
俺への着弾から一、二秒。
この世界では風が吹くことはあっても、そこまで攻撃に影響は無い。音速は約三四〇m/s。だけれど、剣と魔法の世界でその速度で来ることは、この運営といえどあまり考えられない。
この法則でいけば、一から二秒だから、最大六八〇メートルとかそこら。
弾によっても速度は変わるし、このゲームのことも考えれば、大体そんな所。
ガン待ちで逃げても良いが、それでは俺の気が収まらん。
次弾の装填、攻撃を待つほど俺は優しくない。
方角は俺から右なので、北北西。
体を引き絞って、走り出す。
フラッシュが見えて、程なくしてまたも銃声が聞こえる。一拍置くまでもなく、弾を視認。
射出される弾が見えるのはステータスの俊敏力が上がったお陰。
見えれば、やりようは幾らでもある。
「空破斬」
半月型の斬撃が銃弾を断つ。ギアを一段階上げる。
足元は荒野に似て、硬質。
遠方には傾いた廃ビルの様な建物が見え、上方部になにかが反射したようなフラッシュ。おそらくあそこ。フラッシュはすぐに消えて、別の場所でまた光る。移動した。
下駄での駆けっこも子慣れてきた。地面を蹴って、廃ビルに近づく。
残り五百と何十メートル。
「鬱陶しいなぁ」
甲高い音を立てて、また銃弾を弾く。
ぐんぐん詰まる距離。
だけど、遠くにいる相手には分が悪い。
「質素の開花」
スキルを発動して、一層速度を上げる。
めったに息切れすること無いこの世界はいいな。
リアルでも運動始めようかしら。
目指せ!マッスルボディ!
「うっそだろお前!?」
廃ビルまでの距離が三百を切った所で、廃ビル入り口前に黒服の男たちが二段整列している。
全員が手に、アサルトライフルを持って、俺に向けていて…拙くね?
発砲音がして、急いで俺は銃弾を斬る。この距離だと速過ぎてきついな。
威嚇射撃だったのか、銃身をくいっとして来る。向こう行けってことか。
「だが、断るっ!」
接近する。
黒服たちは一斉掃射を開始する。
いよーしっ!唸れ、俺の右腕・左腕!
両手に、餓狼刀と鎧通しを持って、打ち返す。
某何とかいう、黒の剣士は対物ライフルの弾を切っていた。ブラッキー先生が出来るなら俺でもできるはず!…はず。
「せい…っ!」
銃弾を餓狼刀で切り裂いて、鎧通しで潰していく。
ジワジワと距離を詰めるが、これはジリ貧。
お兄さんちょっと本気出しちゃおっかなー。
「狂狼・犬走」
ガイチ君との戦いで味わったムズムズ感。
気にせず、駆ける。
鎧通しはインベントリに仕舞って、手を付き、餓狼刀は口に挟んでの走行。
走って、跳んで、標識に跳び付いて蹴って、立体機動。
ピンボールの如く、あちこちに跳ね回って急激に接近。
二段整列しているひとりの黒服の後ろへ着地。
「なっ、なんだ―――ほえぇつ!?」
首を刈る。首が飛ぶ。
他の黒服も、急いで銃先を俺に向けるが、仲間がいるからちゃっちゃと撃てない。ドンマイ。
「ひとーつ。ふたーつ。みっーつ」
首を刈っては、数を数える。
ポンポン首が宙を舞う。
銃を扱っているってことは職業は【射手】。【射手】は防御が雑魚の紙装甲。首狩りとボーパル侍を併用すれば、首を飛ばすのなんのその。
銃声と金属音。怒声と悲鳴の阿鼻叫喚。地獄やな。
と、ここで『狂狼・犬走』の効果が終わる。
黒服の男が残り、十人以下になったところで悲鳴を上げて、逃走を開始。
逃げた奴はあとを追わずに、廃ビルの奥へと直行。
気分はスニーキングミッションしているスパイかな。
「どこかなどこかなー…」
傾いているから移動が大変だが扉は壊れていて侵入は楽。
急いで廃ビルの裏側、外向きの非常階段へと到着。
何かを踏む音が聞こえる。
「みーつっけったっ」
足音を出さない様に忍び足。
手すりを伝って、パルクール。音は極力出さない。
硬い音がして、下を見ると黒マントを纏った男が街に向かって逃走中。
俺は手すりからジャーンプ!
餓狼刀を逆手に両手持ち。スカイダイブしながら男の後頭部へ刃が迫って。
「グッバイ」
脳天を貫いて、男はいくつかのアイテムを残して消える。
一仕事終えた俺は廃ビル前に戻って、黒服のドロップアイテムも集める。
「んじゃ、ありゃ?」
そうしていると、数百メートル先から軍服っぽい服装の男女数十人が迫っていることに気づく。いきなり展開。
集団は俺の付近に来ると銃口や矛先を見せて、リーダー格の女性は口を開く。
「そこを動かないで頂きたい。あなたには、近隣のNPCやプレイヤーからの不審な通報が届いている」
「嘘だっ!俺は無実だっ!まだ何もしてない!」
「分かりやすい反応をするなっ。まだってどういうことだ!」
あらま。逆上させてしまった。
最近の若者は怒りやすくてやーねー(裏声)。
「通報者からは、PKクランの<ラッカーズ>と犬耳の男が戦闘しているとの通報が来ている。スクショもある」
「ぬ?犬耳!?」
衝撃の言葉に俺は跳び付く。
「とぼけるのか?ほらここに証拠はあるんだぞ!」
女性の手元には犬耳、尻尾を生やした俺のスクショ画像が。
うそやん…。
心当たりは、狂狼・犬走。前に使った時も俺、腰と頭がムズムズしてた。
俺、スキル使ってた時あんななってんのかよ…。
あまりの衝撃に膝を付く。
このスキル使うの控えよ…。
「な、なんか大丈夫か?」
「あ、え…はい。大丈夫です…」
「そ、そうか…。ゴホン!それで私たちは、もともとPKクランの<ラッカーズ>への警告をしていたのだが、途中で私たちの仲間がPKされ、<ラッカーズ>は逃走。それで追っていて、通報で情報を得て来てみればこの通りだ」
「あ~なるほど~。それで。えと、なんて言うか、俺も襲われて意趣返しにやり返した感じっすかね」
「ほう…詳しい話を聞こう」
かくかくしかじか、事情を説明する。
「現状の理由もわかった。あなたは掲示板や街からも指名手配や、懸賞金。PKなどの指示や依頼も受けていないことから信用するとしよう。『ボーパル侍』」
「あ、あざっす」
「え″」
ボーパル侍と言われて、地味にダメージを受ける。
そして、後ろの方から結構エグめの声が聞こえた。しかも最近聞いたことがある声だ。
「ちーっとお前等、退いてくれ」
「あ、なんすか?総長」「わかりました。先どうぞ」「なんかあったんですか。アニキ」「きっとあの奴に用があるに決まってんだろ」「みんな、退け退けー。クランマスターが通るぞ!」「先どうぞ」
野次が飛びかい、人混みが割れて出て来たのは…
「おう、相棒」
「ライダー、一日ぶり」
『暴走二輪車ライダー』ことライダー。
俺の相棒、兼、親友であった。




