Episode.2 退職社畜のゲームスタート
【ログイン中】
さ~、ログインしたけど、視界には真っ白ーい何もない空間。
あれ?これってファンタジー系の作品だよね?
とか思っていると抑揚のない女性の声のアナウンスが響く。
『ログインが完了しました。Legend・Fantasy・On-lineの世界へようこそ』
声に耳を澄ましていると目の前に半透明のウィンドウが出て来る。
ウィンドウには五十音とかアルファベットとかが羅列している。携帯とかの検索画面みたいな見た目だ。
『キャラクタークリエイト設定に移ります。最初に名前を決めて下さい。名前は今後、変更できませんのでご注意下さい』
名前か。どうしたものだろうか。
本名は論外だし、俺ってあだ名とか無かったし。
と、なると、名前とかをモジってみるか。
俺の名前は刀抜閥。
中々に珍しい名前だと思うんだが、これをどうやって変えたもんかなー。
「…読み方変えて、トウバツ、とか?いやいや俺が倒されてるみたいになるし…」
名前の方の”閥”は別の読み方でバツと読めるし、丁度苗字の”抜”もバツって読めるしそこまで変でもない…はず。
まぁ、そこは俺のセンスを信じてみるしかない。
「バツ、で」
『「バツ」ですね。了解しました。次の設定へ移ります。キャラクターの外見を決めて下さい。性別や体格の変更はゲーム内での操作性や現実での違和感を覚えることがありますのでご注意下さい。また、外見の変更はゲーム内通貨で再度変更できますのでご安心下さい』
「ふむ…」
女の選択肢はまず無いな。男で決定。
体格も変更しすぎるとゲームでも現実でも問題が起こる可能性があるから却下。
見た目は目下の隈を消して、顎と鼻下の髭も消して髪の毛も整えて終わり。
顔がそのままなのは少し心配だが自分の顔が違うのは嫌なのでこれ以上は却下。
※読者の皆様はゲームでの名前や住所、顔バレなどを防ぎましょう。あらぬ問題に巻き込まれる可能性が有ります。
長い黒髪を後ろにまとめ上げ、髭が無くなったことによる清涼感。もともと太ってはいなかったが細身の体。うむ、いい出来だ。ちなみに俺は髪が長い系の男子なのです。
こないだ妹に落ち武者と言われた時には膝から崩れ落ちたからな。
『完成を完了しました。プレイヤー「バツ」をLegend・Fantasy・On-line内の初期リスポーン地点、【始まりの噴水広場】へ、転送します』
次の瞬間、視界内は白い光で埋め尽くされた。
♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦
頬に当たる爽やかな風に目を開けるとそこには世界が広がっていた。
中世ヨーロッパをもとにしたようなファンタジーなレンガ造りの家が立ち並び、風に乗って香る焼き立てのパンや焼き肉の匂い。背後を見ると自分と似たような恰好をした人たちが案山子に向かって剣や斧など、各々の武器を振るっている。
「すっげぇ……」
感嘆の一言しかない。まさかこれがゲームの世界だなんて信じられないだろう。
視界には緑と紫のカウンターバーが映っていて緑にはHP、紫にはMPと書いてある。
『初心者用チュートリアル担当のAIです。チュートリアルを受けますか?YES/NO』
うおっ!ビックリした。
思わず声を押さえたが正解だったな。周りに少年少女が沢山いるのに二十過ぎのおっさんが声出して驚くとか恥ずかし過ぎる。
二十代で何言ってんだと思うかもしれないが二十三を過ぎるとおっさん化が始まるもんだ。
「YESっと」
現れたメニュー画面のYESの方を押す。
『これよりチュートリアルを開始します。まずここは名称を【始まりの噴水公園】と言い、全てのプレイヤーはここからゲーム開始になります。また、この場所は死亡した場合の復活地点にもなります。復活地点は他の地点に到達することにより変更可能になります』
ここが始まりの場所か。
キャラクタークリエイトの最後の転送の時にもここの名前言ってたし、なにより人が多い。
しかし疑問なのは、なぜにここで武器を振るっているかだ。
『ここでは武器やスキル、武器スキルの試し打ちができます。案山子は防御力の設定や攻撃が当たるとダメージの表示なども出来ます』
「あ、ありがとうございます」
AI先輩もしかして読心術が使えたりするのかもしれない。
それにしてもこんな場所で試し打ちしていいのか。このゲームPKも公認だし。
PKはプレイヤーがプレイヤーを倒すことだ。
『次のチュートリアルに移ります。職業の設定についてです。職業は【戦士】、【魔法師】、【射手】、【付与師】の四つがあり、職業によって取得できるスキルや装備できるアイテムが異なります。職業はゲーム内通貨で再度変更できますがレベルはリセットされるのでご注意下さい』
職業の説明書きと選択肢のウィンドウが出現する。
『これでチュートリアルを終了します。分からない事や疑問、不具合があった場合はメニュー画面のヘルプやプレイヤー掲示板、GMコールなどをご利用下さい。Legend・Fantasy・on-lineの世界をご堪能下さい』
集中を聴覚から視覚に移して職業の説明を読む。
簡単に言うと【戦士】は前衛、【魔法師】は遠距離魔法攻撃を行う後衛、【射手】は遠距離物理攻撃の後衛、【付与師】は回復や弱体化、強化などの中衛サポート。
大雑把だけど大体こんな感じ。
他のゲームと違うのは【戦士】に必殺ゲージ、【魔法師】に暴走ゲージ、【射手】に貫通ゲージ、【付与師】に倍化ゲージという固有のステータスがあることだ。
順番に言うとゲージを溜めると武器に定められた必殺技が使えるようになる必殺ゲージ、魔法の威力、規模が三倍になる暴走ゲージ、投擲・射出する物の威力、貫通力、飛距離を二・五倍にする貫通ゲージ、効果時間中使うスキル効果が二倍になる倍化ゲージ。
どの職業にしたものか。
ゲームだし【魔法師】になってみたいが一緒にやる人もいないので【戦士】にしよう。友達がいない訳じゃないけど。
【戦士】の欄をタップするとステータスのウィンドウが現れる。
―――――
ステータス
名前:バツ
職業:戦士
称号:―――
LV:1/30
HP:30
MP:5
攻撃力:21 防御力:14
魔攻力:4 抵抗力:3
俊敏力:8 運勢力:1
ゲージ:0%
スキル
装備
頭部:―――
右手:――― 左手:―――
両腕:―――
胴部:始まりの旅服
両脚:始まりのズボン
両足:始まりの靴
装飾:―――、―――、―――
―――――
【戦士】と言っても全く魔法系の攻撃ができない訳じゃないみたいだな。少しだけとはいえ魔攻力もあるし。
魔攻力は魔法攻撃力の略で、抵抗力は魔法版の防御だな。運勢力はアイテムの排出率とかダメージが確率で倍になるクリティカルヒットとかの補正。
職業を決めて貰った装備アイテムをインベントリ―――インベントリはプレイヤー個人に与えられる虚構の倉庫―――から装備する。
―――――
装備
頭部:―――
右手:見習い戦士の片手剣 左手:見習い戦士の小盾
両腕:見習い戦士の籠手
胴部:見習い戦士の皮鎧
両脚:見習い戦士の皮ズボン
両足:始まりの靴
装飾:戦狼の牙、―――、―――
―――――
「おおー。これぞファンタジーってやつだな」
見た目は若めの軽戦士。
武器は他に、両刃剣や大剣、長剣、短剣もあったが一番扱いやすいそれなりの長さにした。
準備も終わったし一狩り行きますか!