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退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第一章 首狩り侍
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Episode.15 退職社畜のウィンク

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「おおおぉぉぉ!」


 ガイチ君の初手は右手に大盾を構えて身を隠すようにしての突進攻撃。左手には小ぶりな剣が握られている。見た目通りに重戦士というか受け役(タンク)みたいな役割なのだろう。

 防御力はもとより抵抗力やHPが多いことは明白。属性ダメージも下がってしまうし、首狙いの攻撃を狙うのが無難だろう。


「意外と速いね」

「うるさい!当てりゃあ良いだけだ!」


 残ってたステータスポイントを、全部俊敏に振り直す。後悔しないことを祈ろう。頼んだぞ、未来の俺。理由は戦士な見た目だがかなり早い、ガイチ君。速度は、俺と同じくらいかそれ以上。

 だが、少し動きが見たいから走って距離を取る。

 さっきとは絶対的に違う速度に少し酔いそうになる。


「逃げるな!」

「そうは言われてもね」


 俺が逃げて、ガイチ君が追いかける。そんな構図。

 いやー、ガイチ君の速いのなんの。ライダーとは違って、仲間と敵の間に入って守る、スピードタンクみたいな感じかな。


「こなっ…くそっ…逃げるなぁ!」


 ガイチ君が叫ぶと同時に小剣が赤く赤熱する。

 小剣を横に薙ぐと、小剣から赤い斬撃が飛ぶ。

 飛んできた斬撃を屈んで避ける。


「遠距離も使えるとは。やるねー」

「それじゃあ、早くやられろ!」


 年下相手だとどうしても口調が子供に向けるものになってしまう。

 今度はこっちの番だ。

 手に馴染ませるためにも岩穿ちを抜く。…大太刀と違って軽いが刀の重心が違うから扱い方に違いがありそうだ。

 いや、考えるのは後だ。


「空破斬ッ」

「やっと攻撃か!」


 狙いは上半身の高さで放った。

 ガイチ君は大楯を構えて防ごうとする。が、それが俺の目的。大楯で防がれた視界の方へ移動。

 空破斬の右後ろを追いかける様にして走る。

 カァァン!甲高い音がして空破斬が防がれる音。大楯を解こうとするがその時には俺はすでに目前。

 切り込みの抜刀。


「チッ!意外とダメージは入ったぜ…!」

「タフだねー…」


 マズイ。HPが削れていたのはありがたいが非常にマズイ。

 首狙いのクリティカルではないにしろ削れているかすら怪しい。さすが、トッププレイヤーとでも言うべきか。それとも数少ない三次職と言うべきか。

 そう。この<ブレイヴァー>のメンバー全員がこのゲーム(LFO)全体に千人いるとも知れない三次職だ。おそらくというか当たり前にステータスは俺より数倍高い。


「嘘だろ…。あの侍、防御力400以上のガイチの防御抜きやがった…」「あの侍…もしかしてさっき、掲示板で見たボーパル侍じゃない?」「公式ホームページで見ましたよ、私。ヒーロー侍と書かれてました」「…そうかもしれんな」


 ガヤが聞こえる。…「ヒーロー侍」って何?変なあだ名付けられてる。

 ガイチ君が防御力400が以上あるのも驚きだが、それより今はマズイ状況にある。いや、あだ名の件も個人的にマズイっちゃマズイけど。

 ガイチ君はレベル差がありながらダメージを入れた俺を警戒しているが、俺は逆にダメージ加算のある抜刀攻撃でしかダメージが入れないということだ。非常に不味いでな。

 両断と空破斬と、他のスキルとの合わせ技で倒すしかない。

 ここらで使ってなかったスキルを使うのもありかもしれん。


「質素の開花」

「あ?何だ何だ?」


 俺の体を透明な光エフェクトが包む。本当に質素だな。遠目からじゃ実際にエフェクト出てんのかわからんだろうに。

 ま、これで俺は一分間ステータス全部が10パーセント上昇だ。

 ある程度は速度で上回ったはず。制限時間が少ないから速攻で行く。


「行っくよー」

「さっさと来いよ!」


 両手に鎧通しを後ろに持って、接近。

 ガイチ君は盾を前面に出して防御の構え。

 婉曲に右斜めから近づく。距離が数メートルになった時点でさらに速度を上げる。

 上段から斬り下ろす。

 盾を攻撃に合わせられて弾かれる。パリィとか言ったかなこの技術。

 思ってたより大きく弾かれたことで体勢を崩してしまう。


「死ねっ!」

「それはっ、断らせてっ、もらうよっ!」


 ガイチ君の小剣によるコンパクトな突き攻撃。

 仰け反った姿勢から鎧通しを剣腹にぶつけて弾く。

 鎧通しを振り切って体ごと回転。もう一度、斬り下ろし。防がれる。

 防がれた時点で盾表面を滑らせるようにしてまた一回転。逆側からの斬り下ろし。また防がれる。

 弾かれ切る前に無理やりに、力の方向を変えて斬り込む。

 防がれる。また斬り込む。

 何度も何度も何度も何度も斬り込む。

 集中しまくる。連続ラッシュ。

 防がれる度にまた斬り込む。


「両断!」

「バックインパクトォ!」


 スキルを合わせた渾身の一撃。

 対して、ガイチ君もスキルを発動してタイミングを合わせた盾攻撃。光纏った刃と金属塊の正面衝突。耳障りな音を鳴らして俺が押される。あまりの力に押されて、仰け反る。


「ラァッ!!」

「…ィッ!」


 歯を食いしばって刃を立てたまま宙返り(ムーンソルト)。盾表層を刃が削り、そこで盾の装飾頂点を蹴って距離を取る。


「それどんな動き方だよ…?おっさん」

「お兄さんと言って欲しいね」


 多少声が震えているが気概のあるガイチ君。


「……あの動き方うちのグレイ並みじゃないですか?」

「そうね…」

「アイツとってみてえなぁ」

「落ち着けグレイ。今はガイチが戦っている」


 外野が煩い。

 意識から雑音をシャットアウトする。

『質素の開花』の効果時間は残り、二十秒と少し。…ここらで使うか。


「温存してたけど。本気で行くよ。()()()

「…ああ。来いや」


 これでスイッチが入った。ガイチは明確に殺すべき、処分すべき対象になった。


「狂狼・犬走(いぬばしり)

「えぁ…?」


 頭と腰が何かムズムズするけど、残り時間が少な過ぎるんで本気で行く。 

 身体が軽く、不思議と体が自然に動く。

 足を折りたたみ、しゃがむ。その間に右手に鎧通しを持ったままに腕を後ろに引き、逆の左手は地面に着く。

 引き絞られた弓弦のイメージが浮かんだ。射出。

 折りたたんだ足を解き放ち、跳び進む。

 ほんの瞬きにガイチが目の前に。

 スキルを発動する。


「岩穿ち」―――Critical!

「ぬおっ!?!?」


 折りたたんだ右腕から鎧通しを突き出す。装備スキルの発動。名前からも説明からも突き攻撃だとわかった。偶然にもクリティカルでガイチの盾には穴が空いている。HPも一割は削れただろうか?


 ―――というか、これじゃ鎧通しじゃなくて盾通しになってしまっている。

 そんなことを考えながら俺の体は動いている。


 突きを放って当たった瞬間には腕は引いている。体は沈ませて盾の下部に屈み、隠れる様にして後ろに回り込む。

 突き攻撃で盾が跳ね上がってたからか、俺を見失う。ガイチ視点では俺は消えているように見えているのかもしれない。

 俺を見失うことにより、“ボーパル侍”の効果の一つ。隠密が発動。発見がほとんど不可能になる。

 右手には鎧通しが握られている。納刀する時間はない。

 ともなれば…左手で逆手に大太刀を抜刀回転斬り。


「…」―――Critical!

「どこだ!どこに消えやがっくがはっ―――」


 見事にうなじに当たる。ガイチの頭上に喉の欠損アイコンがはじけた。

 されど威力が足りない。ガイチのHPは数ミリ残っている。

 残る選択肢(スキルと行動)は無数に有るがこれを選ぶ。質素の開花の効果はとっくに切れている。狂狼・犬走もあと一秒あるかないか。

 大太刀を順手に持ち直し、最後の〆。


餓狼(がろう)・犬走の太刀道(たちみち)


 餓狼の大太刀の刀身にかつて戦った巨狼の姿が映り、幾筋にも広がって幾学模様となる。視界には止まった世界で大太刀がどのように動けばいいかが表された空間上の『道』があった。

 スキルに従い、大太刀を『道』に合わせる。

 遅れて右片から追随するのは鎧通し。

 大太刀はガイチの左首筋に吸い込まれてめり込む。コンマ数秒遅れて鎧通しが右後方から到着。

 ガイチの首を挟み込んでクロスする形で合わさり―――『Critical!』―――…気づいたら首が飛んでいた。

 宙を舞う(ガイチ)と目が合って、なにをしたらいいかわからないので、取り敢えず、アリスちゃん直伝のウィンクをしといた。


「ふざけんなやーーーーーーッッッ!!!!」

「え?ルールでHPが1になったら終わるんじゃねえの?」

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