Episode.12 退職社畜のフラグ率
知ってますか?このゲーム…Legend・Fantasy・On-lineでは、性別も変えられるそうです。
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「ここ、だよな」
「ここだな」
惨酷峠の最奥地点に到達したのだが、そこには棘の生えまくった球体ドームがある。ドームには入り口と思われる穴が開いているが、中は暗闇に覆われて見えない。
遠目からじゃシルエットしか見えて無かったが近くで見ると、一層よく分からないな。
でも惨酷峠は階層型のダンジョンではないし、最奥にはダンジョンボスがいるはずだから、この球体の中にいることは間違いない。
「行ってみるしかないか…」
「絶対、罠的な何かだと思うが行くしかないだろ。相棒」
「ボスだけだといいがな」
ライダーはバイクに近づいて、ハンドル部分を何か弄る。
すると、何がどうした訳かバイクがガシャガシャガシャ、と機械音を立てて変形する。ものの数秒で巨大なバイクはドームの入り口にも入れるくらいのサイズになる。
「どんなスキルよ?」
「これはオレ様のスキルの一つで、『収納機構』というやつだ」
「もう、何でもアリだな。それがどう見えたら収納の域に収まるんだよ」
「相棒、このゲームで気にしたら終わりだぞ」
「ああ、納得できる自分がやだわ」
ぶつくさ言いつつもドームの中に入っていく。ライダーは隣でバイクを手押ししている。
ドームの中は外見よりも数倍デカく、小さな運動場ぐらいの広さと空間がある。しかし、壁は反り返っていて、外見が球状になっているからだろう。場所は明るいが光源は見当たらない。
中心にはいかにもと言った色が違う六角形の床。ドクロのマークが描かれている。
「絶対、罠だよな」
「罠だな。どっからどう見ても罠だ。ここまで露骨なのは見たことがないな。まあ、行くしかないだろうがな」
「嫌だな~。だって運営が作った罠だぞ。絶対に悪趣味なのに決まってるだろ」
「相棒よ、時には諦めなければいけないこともあるんだぞ」
ライダーがサムズアップしながらドクロマークの上にバイクごと行って、「パカッ」。
「お?」
ドクロマークの真上に行った瞬間にドクロマークが呆けた音を出して開いた。勿論のことその上に居たライダーは数秒間、足をばたつかせた後、俺と目が合って―――
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「ライダーァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
落ちたぁぁぁ!?案の定だよ馬鹿野郎!
急いで、俺も落とし穴に飛び込んで、壁に着地する。
これは[質素な空下駄]の特性の平面走行だ。他の防具は『質素の~』なのに一つだけ『質素な~』となっている辺り運営の適当さが伺えるが、今はそんなことどうでもいい。
壁を走る、新しい感覚に三半規管が悲鳴を挙げる。
「ライダー!バイク仕舞え!」
「りょ~~~~かいだ~~~」
抜刀の為に俊敏力を上げまくったお陰の速さで自由落下しているライダーに追いつく。そしてバイクがインベントリに仕舞われたタイミングで腕を掴んで、引き寄せる。
野郎相手にやりたくないが、ライダーをお姫様抱っこする。
「キャ!」
「…なんか言ったか?」
「いいいい、いや、なんでもないぜ相棒!」
む?気のせいか。女の子の声が聞こえたと思ったんだがな。空耳かな。
それはそうと、ゲームの中だろうか軽いライダーを連れて、壁を下りる。この表現の仕方は俺が初めて使ったと思う。
白い発光色を見つけて急いで走る。
「とぉう!」
「おいおい、嘘だろっっぉぉぉぉぉお!?」
珍しくライダーが絶叫する。
カラン。乾いた甲高い音を鳴らして空下駄は着地する。
「相棒っ。跳ぶときは言ってくれっ」
「なんでだよ。あんだけバイクでトップスピード出してる奴が何言ってるんだよ」
「自分で速度出すのと、意識無関係に落ちるのは違うだろぉっ」
「わかったって。これからはやる前に言うわ。やりたくないけど」
「まったくだ…」
やれやれ、と手を振って項垂れるライダー。
ライダーって見てるだけで面白いな。今度から観察日記でも付けようかな。
下らんことを考えながら周囲を見渡す。
そこは白い球体状のエリアだった。壁には黒いタイルと、頂点部分に太陽モドキがある。
俺達は今、サッカーボールの底中にいる様な形だ。
「相棒っ来るぞ!」
鋭い声に装備を改めて、警戒する。お隣の人はすでにバイクを出している。
視界に違和感を感じて、そちらに注目する。
黒いタイルから液体が滲みだして液体が形を成す。四足歩行の犬頭。要するに犬。ただ一つ異様な点を挙げるとすれば、本来足があるべき箇所に車輪が付いている点。
車輪犬の頭の上には『ホイール・ドッグ』と出ている。名前通りに車輪が付いた犬らしいな。
ホイール・ドッグは今なお、増殖を続けていて、その数は二十を超えている。
「Aoooooooooon!」
ホイール・ドッグはお互いに同調するように遠吠えして、球体状のエリアを爆走し始めた。足先が車輪なだけあって、球体のエリアを上下横と縦横無尽に駆け回る。
「Aooo!」
一体が俺の首に目掛けて飛び掛かって来る。すり足で左足を下げて、抜刀ッ。
斬!ホイール・ドッグは唐竹割に両断されてポリゴンに変わる。
バイクに乗った相棒はモンスターと同じく、球体を駆動して轢殺(圧殺?)している。
「オレ様が寄せるから斬り殺せ!」
「あい分かった」
宣言通りに犬どもを追い詰めて俺に寄せるライダー。逃げ遅れたモンスターはそのまま轢かれる。
また、大口開けて飛び掛かって来た犬を口中へ大太刀を突っ込んで串刺しにする。
絶え間なくモンスターが生み出され続ける。エリアのこともあり、戦いづらい地形で立体機動するモンスターが相手。運営の意地悪さが伺える。妹もこんなことをしてると思うと……いや、あの妹なら笑ってやるな。
「不味いっ!そっちに大量に流れたぞ!」
「…」
外の音が遠く聞こえる。
今、俺がかなり集中していることが分かった。まるで三人称視点の様に、客観的に、自分を見据えている。
自分でも驚くぐらい綺麗な動作で納刀する。
「相棒聞こえてるか?!」
「―――ぁぁ」
俺を取り囲むのは八体ものホイール・ドッグ。八方向。八の方角から同時に飛び掛かる。
ちょっとだけ、足を浮かせて、
「ッッッ!!」
踏み込みと同時に、抜刀。
鞘から右へ太刀を引き抜く、動きを止めずに一回転する。
ドサッ×8
八体もの死体が地に落ちる。
ライダーに返事しようと見回すと、変な顔をしながら運転しているライダーがいた。
「規格外だな、相棒」
「そんなこと…あるかなぁ?」




