Episode.11 退職社畜の『ボーパル侍』
今話は、ライダーのアニキ感が凄いです。
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「今、思ったんだけどな」
「何だ?」
「このバイクって俊敏力にスピード依存されてるのか?」
「いーや、総合ステータス合計値の半分が最高時速だ。それでオレ様のレベルは二次職の34だ」
ふむふむ…初期ステータスは51。それに一次職の最高レベルは30。一回で上がるステータスは10。つまり、10×30+51=351。二次職の最高レベルは50。ライダーの現在のレベルは34。つまり351+10×34=691。さらに総合ステータスの半分だから691÷2=345.5…345.5?え、ちょ、ま。このごりごりのごてごてバイク、最高速度345キロ超えなの?あり得ねえ…。
だって世界で三番目に速いバイクを超えてるんだぞ?このバイク。
「安心しろや、相棒。もちろん今は二人乗りしてるから速度は落としてるし、何より乗っている俺達には被害が抑えられるように設定されてる。第一、最高速度出したらこの武器壊れるって説明欄にかいてあってな」
「一応、運営も壊れ武器には保険を掛けてるわけか」
「そうは言ってもな、このバイク落としたダンジョンのボスは、機械のアームがめっちゃ生えた高速機動してくる巨大戦車だったぞ」
「お前、良く倒したな…」
攻撃と防御振りで高速機動をしてくるアーム生えた戦車とかどうやって捉えたんだよ。俊敏力、足りな過ぎだろ。
「ああ、それはな、攻撃してきたアームをHP受けして、プラズマグレネードつー電撃を放つ爆弾アイテムを体に大量に貼り付けて特攻自爆」
「うわぁ…。よくやったな」
うわぁ…。普通の思考じゃ出来ねえわ。流石カッコよ過ぎるよ、ライダー先輩。
「相棒。お前が言うのか」
「ん?どういうことだってばよ」
「噂になってんぜ。相棒のこと。ウィキか、掲示板見てみ。公式ホームページのニュースにもなってるから」
何だと?俺がそんな有名になることって…あったわー。むちゃくちゃあったわ。アリスちゃんのポーション屋の前で、大衆の前で、街の中で首刎ねたわ。
「相棒、そろそろ、”二つ名”付くころじゃねえか?」
「勘弁してくれよ」
二つ名システム―――それは、ステータスにある称号の欄に関することだ。称号は一定のモンスターを狩りまくったり、一定以上の人から、噂とかされると付くって、ヘルプに書いてあった。
掲示板で見たことのある称号は、『ゴブリン愛好家』とか、『ホモショタ教祖』だとかだな。それぞれ、付いた理由はゴブリンっていう緑肌の小鬼モンスターを一万体倒したとか、男のプレイヤーが小さい男の子を路地裏に連れ込もうとしていることが何度もあって、NPCの騎士にしょっ引かれたとか。
《通知。プレイヤー名:バツ No.009B342T554W に称号:『ボーパル侍』が付与されました。おめでとうございます》
「めでたくねえよ!?」
「おっ、その様子だと付いたみたいだな。オレ様からも祝福を送らせてもらうぜ『ボーパル侍』」
「おい、ちょっと待て。絶対に馬鹿にしてんだろ!?」
「ふざけてなんかないさ。それに称号はかなり有効な効果が付随しててることが多いぞ。ボーパルサムライ」
「わざわざカタカナで言ってんじゃねえぞ!」
…待てよ。強い効果付いてるのを知ってるってことは…。
「オレ様も二つ名持ちだからな」
「やっぱりか。それで称号はなんて来た?」
「オレ様の称号は、『暴走二輪車ライダー』だ。効果は轢くダメージを四倍にする」
「チートやん」
「いーや、公式認定だ」
俺のも強い効果が有るかも知れない。
さっそく、不名誉な称号の効果を確認する。
…。
「はぁ…」
「どうした?どんな効果だった?」
「…発見されていない敵への隠密効果」
「それなりにいい効果―――」
「…首付近へのダメージ五倍」
「今なんつった?」
「首付近への効果五倍だよ」
称号の効果は、被未発見の場合に対象への隠密効果を発揮して、首付近へのダメージを五倍にするというもの。
本当にさぁ、運営なにしてくれちゃってるの?ここまでやられたら俺も抜刀、首狩りスタイルをするしかないじゃん。
「嘘だろ?相棒。だって首への攻撃は致命判定で通常よりもダメージが数倍になるし、相棒は抜刀が主軸のスタイルで、抜刀ボーナスのクリティカルでダメージが約三倍。それに加えて称号で五倍だと?このゲームは加算方式じゃなくて倍率方式だから最低でも十五倍ダメージ!?」
「ちげえよ。他のスキルも含めると最高で約百八十倍と60%以上のダメージだ」
「…もう、意味分かんねえ」
「俺もだよ…」
座席で立ちながら頭を抱える。
ライダーも放心しながらモンスターを轢き殺してる。そう言ってる俺も切り殺してる。
今現在もモンスターを轢き殺しているから経験値がパーティー登録している俺にも入って来ている。これで手に入れたステータスポイントを振ったら更にダメージと抜刀速度が上がるんだろうなー。(諦観)
「気を付けろよ相棒。オレ様や相棒みたいな称号持ちは、強いからすぐに噂になる。そうなるとクランやプロゲーマーチームからの強制的な勧誘もある」
今更だがクランは、プレイヤー同士が運営公認で数人から数百人規模で作るチームのことだ。
「マジか。それじゃライダーは入ってんのか、クランとかチーム」
「入ってる、というより経営してる。が、正しいな」
「え?クランマスターやってんの?」
「やってるっちゃ、やってるのか」
それってどういうことだ?やってるなら、やってるじゃないのか。
そんなことを思っているとライダーは重い声で理由を話す。
「オレ様の運営してるクランはオレ様以外が経営してんのよ」
「どゆこと?」
「もともとソロプレイヤーってのもあって、クランマスターやる気なかったんだが、オレ様を慕ってくれてる後輩プレイヤーからやってくれって頼まれちまってな。今はオーナーみたいな感じだ」
「納得だわ。ライダー、アニキ気質だからな」
「それ、色んなやつから言われる…。そうだ、相棒もオレ様のクランに入るか?幹部ポジみたいなとこまでは行けると思うんだが」
クラン、か。
ライダーがクラマスなのにソロで出来てるのは、自由行動が認められているからだろう。クランに入って縛られないということだ。ソロでやるつもりの俺にはピッタリだけど。
「俺は遠慮しとくわ。悪いな」
「ハハ!気にすんな、相棒。オレ様もそんな気してたわ」
ライダーは笑って前方を見据える。
折角誘ってくれたのにライダーには悪い事したな。
十分後。
「あれは…?」
「そうだな。もしかしたら、もしかするかもしれん」
ついに、このダンジョン。惨酷峠の最後が見えて来た。




