Episode.10 退職社畜の騎乗抜刀
最近思ったこと⇒天使の様に可愛い。と聞きますが、天使って本当に可愛いのですか?天使にもキモデブヲタク男がいるかもしれませんよ?
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後ろの幅広座席に立ってモンスターを迎え撃つ。
「シッ!」
「ナイスゥ」
飛んできたトンビの様なモンスターを両断する。
ライダーからお褒めの言葉を貰う。いやー、嬉しいね。
と、思っていると前方から犀型のモンスターが駆け上がって来る。
「ライダー!」
「わあーってる!…ラァ!」
ライダーが一段加速して犀に直接突っ込む。
バイクの先端に付いている装飾と衝突して、そのまま貫通す…え?貫通するの?
「このバイク、ダメージ何に依存?」
「攻撃力と防御力の合計を二で割った数だ。ちなみに俺は攻撃と防御に極振りしている」
「貫通するわけだわ」
「最初は重装歩兵みたいなの目指してたんだけどな。気づいたらこんな感じだ」
「ふーん」
会話しながらもちゃんと飛行系のモンスターを切り刻む。
さっきから納刀できなくて、抜刀はしてないがバイクに乗っているお陰かいつもよりダメージが入っているので倒せている。
ドロップは最終的に全部を山分け、という形に収まったので倒せば倒すほど取り分が増えていくので頑張っている。俺には犀みたいなモンスターの相手は面倒くさいし、HPと防御が高すぎて、抜刀でも倒しきれないかもしれないから、地上のモンスターはライダーに任せているのだ。
「入る前から思ってたけど、終わりが見えないな」
「そりゃ、そうだ。ここは発見されてから一回も攻略されてないところだからな」
「一回も、か」
ダンジョンは初回に攻略すると特典報酬を貰える。特典は本人しか使えない超レアな武器や防具、アイテムを必ず貰えるので、ダンジョンには必須というほどプレイヤーが殺到するはずなんだが、攻略されていないダンジョンはかなり珍しい。
「ここは対地はもちろん対空をした上でサイドにある棘に気を付けて戦う必要がある。棘で動ける範囲を限定されて、出て来るモンスターは地上がHP、防御特化で上空が俊敏、抵抗特化で対策も一苦労。出費もかさむし、来るやつは少ない。ここまで上手くやってるのはオレ様たちのパーティーぐらいだ」
「まさに奇跡の組み合わせ、か」
「そうさ。ここまで相性が噛み合うのは珍しいことだ」
そう言いながらも猪型モンスターを轢き殺すライダー。
坂であるだけにかなりの速度で駆け抜ける。
俺は上空から迫りくる鳥形モンスターを切り捨てる。
「キリがねえなぁ!オイ!」
「キリがない!」
余りにもモンスターが引っ切り無しに押し寄せて来るものだから叫んでしまった。ライダーも同じことを思ったみたいだ。
空中にはトンビや鷹の鳥系モンスターから炎の玉の見た目のウィル・オ・ウィスプや腕が翼になっている人間、ハーピィなどに変化。
地上は、犀型や猪型のモンスターから岩が人型になった、ストーンゴーレムや緑肌の巨人、トロールに変わっている。
ウィル(以下略)は闇属性の武器を持つ大太刀で切り伏せて、ハーピィは翼を落とすと後から迫るモンスターに潰される。一方、ライダーはゴーレムを正面から砕き、トロールを轢くことで対処できているが、脅威度も跳ね上がっている。
「オイオイ!嘘だろ!?グリフォンまで来やがった!」
「待て、前方!オーガ来てるぞ!」
「「何ィ!?」」
百メートル前程に鷲の上半身に獅子の下半身の姿の高レベルモンスターのグリフォンと、赤肌の三メートル越えの鬼、オーガが道を塞いでいる。
どっちも高レベルのモンスター。
「避けられるか?」
「いや無理だ。オーガだけならまだしもグリフォンがいるなら逃げきれねえ!」
逃げるのも無理。後ろからは他のモンスターも迫っている。前方には破城槌を彷彿とさせる棍棒を持った城壁とも言えるオーガと並外れた機動力のグリフォン。
避けるのが無理なら―――
「「突破する(するぞ)!」」
チラリと座席に立ってる俺と目を合わせるライダー。一瞬で目配せをして頷く。出会って間もないが、戦友だ。ある程度考えることはわかる。
オーガは、度外視の重量とダメージ力を持つライダーに任せて、空中で軌道を描くグリフォンを俺が担当する。
飛行系モンスターは討滅したし、歩行モンスターは追いつけない。しばらく、モンスターは来ない。
納刀して深く息を吸う。眼を閉じる。眼を開ける。
距離は迫っている。時間はない。
「頼んだぞ、ライダー」
「応よ!」
柄の浅いところを緩く握り、集中する。
お相手は攻撃力が高く、防御が高い。幸い抵抗力は低めで闇属性で抜ける。
揺れる車上で座席を踏みしめて体を固定。
グリフォンとの距離は十メートル以内。グリフォンは翼を閉じて、頭を前にして鋭い嘴を突き出す形。串刺しにするつもりだ。オーガは五メートル内。グリフォンが付いて来ている形。
バイクの速度が一段と加速する。
黒光りする嘴が迫ると、衝撃が体を襲う。視界内に段差に乗り上げたのかバイクの上体が浮いている。
これは狙いやすい。感謝だな。
考えている間にも、もう目の前。
「Kuryuuuuu!」
甲高く喉を震わせるグリフォンさん。
スローモーションに映る世界で体をスレスレまで倒れさせて、嘴を避ける。
背中に風圧を感じる―――瞬間、スーパーボールの様に跳ねて上を見上げながら抜刀。
―――Critical!
インベントリにアイテムが入ったと通知が来る。
ふとそこで、オーガは?と思ったその時、再度衝撃が体に走る。
俺の強靭な体幹で体勢を整えつつバイク前方を見る。
「オラオラオラオラオラオラ!!払迦楼羅ァ」
オーガの体躯にバイクがめり込んでいる。次いで、バイク自体が白炎に包まれる。
おう!?すげえなコレ。オーガを溶かしてる。なんと、白炎を纏ったバイクはオーガの体を溶かして、貫通した。
あり得ねぇ。
「やったな!相棒!」
「もう、相棒かよ…。ま、やったな」
「ちったあ、喜べよ」
「これ以上ないくらい喜んでるよ。相棒」
一時協力のはずなんだが…悪くはないな。相棒ってか。
俺達は再び、ダンジョンの奥底へと向かう。




