雑貨屋店員の冒険記
俺たちが平和に暮らすロートスという名の街の近く
に、大きなダンジョンが発生して早五年、街には冒険者達が大幅に増え、さらに他の人々も移住してきて街は大きく発展した。
◇◇
さて話は変わるが、ロートスの街には色々なお店があり、繁盛している店もあれば閑古鳥が鳴いている店などさまざまだ。
そして、その中の一つに俺の店があるのだがあまり繁盛しているとは言えない。
でも、生活は苦しいわけではなく常連さんもそこそこいるのでなんとかなっている。
そういえば自己紹介してなかったな、俺はハルヤ、
十八歳の男性だ。見た目は灰色の髪で中肉中背のどこにでもいそうな青年だ。
仕事は雑貨屋の店員で、一人で店を切り盛りしている。(たまに日雇いを雇うことはある)
休みの日以外、朝早くから品出しして夜まで接客や陳列などなにかと大変な職業である。
だか、やりがいもあり常連の冒険者達が色々商品を買って行ったり、近所の人たちにもよく買い物の時に来店されるのでありがたい。でも、たまに問題を持ってくるのはやめてもらいたい。
そんな俺の雑貨屋生活の一日が始まる。
◇◇
朝日が雑貨屋の二階にある俺の部屋を照らしてきた。
「もう朝か、起きるか」
そう言い、ベットから身支度をして一階に降りて朝ごはんを作り始める。今日の献立であるパンとベーコンエッグをさらに乗せてテーブルの方に移動して椅子に座った。
少しして食べ終わり皿をシンクに持っていき洗ったあと、店を開くため商品売り場を見に行き、ちゃんと陳列されているののを確認して店を開き、外のドアにかけてある準備中になっている札を反対に向け営業中に変える。
「今日も一日頑張りますか」と俺は店の中に入り、そう気合いを入れて仕事に励もうとした時、二人組の冒険者が来店された。
その冒険者は女性二人組のパーティーだ。
「ハルヤおはよう」先に声をかけてきたのはクリーム色の髪のショートカットでスタイルのいい女性だ。
「今日は、何をお買い求めでしょうか」俺はなんとか店員モードで接客を始める。
そうするともう一人の小柄な銀髪ボブカットの少女が口を開く。
「ハルヤ、今日もワタシ達は客としてきてないわよ」
なるほど冷やかしか、それならさっさと帰ってもらおう。
そう思い、出口はあっちですよと指をさそうとした時、クリーム色の髪をした女性、レイナが俺の左手を握ってきた。
「今日こそ私達とダンジョン探索するぞ」そう言い俺を店の外に連れ出そうとするがなんとか振りほどき二人から距離を取る。
「あのさ、俺はこの店を切り盛りしないといけないから無理と何回もそう言っているよな」
「確かに何回も言っているわね、でもワタシ達も貴方を仲間に入れて冒険したいのよ」 銀髪の少女、ソルがそう言ってきた。
「そうだ、お前の回復魔法は貴重でさらに魔力もかなり多いから私達にはとても役に立つからな」 レイナも頷きながらそう言った。
俺は回復魔法は使えるし魔力も多いが、でもそれなら他の人でも同じことが出来る人もいるからその人を誘えばよくねと思う。
そのことに疑問に思った俺は「あのさ、なんで何回も俺を誘ってくるんだ?」
「それはお前が私とソルの幼馴染だからという理由と、能力も優秀で私達に足りないものだからだ」
レイナがそう言い、横にいるソルも同感だという風に頷いていた。
「いやいや、お前らは幼馴染を安全な所からダンジョンという危険な所に連れて行く気か」
ぶっちゃけキレてもいいよねと思う。そんな俺の雰囲気を感じ取った二人は、慌てて弁論を始めた。
「今回はお前を誘ったのにはちゃんと訳があるんだ、だから怒りを抑えてくれ」
「そうよ、ワタシとレイナにキレても何も得はないわよ」
俺は一旦クールダウンして、とりあえず話だけは聞いてやろうと思いキレるのをなんとか抑える。
「なら、その訳を聞かせてもらおうか、あと札を準備中に変えておいてくれ、お前らの話なんとなく長くなりそうだからな」
『おっしゃる通りで』そして、ちゃんと準備中に変えてもらい二人と一緒に一階の住居スペースに移動した。
◇◇
俺はコップにお茶を入れて二人が座っているテーブルに持って行く。
「さて、ここならゆっくり本題に入れるから何があったのかを話してもらうぞ」その問いにレイナが答え話す。
「実は、ダンジョンにイレギュラーな魔物が出現したんだ」と真剣そうにそう言ってきた。
「あのさ、そのイレギュラーな魔物と俺、何が関係あるんだ? 言っちゃあ悪いが有力パーティーが倒しに行けばよくないか」
はっきり言ってそっちの方が無難だと思うが、だがソルが「もちろんギルドは有力パーティーを派遣したわ、しかもこの街のトップクラスの実力者達によ、でも結果は敗北して死者は出なかったけど大怪我がしている人がほとんどよ」そう言い、二人の表情が暗くなった。
「つまり、俺はその冒険者達に回復魔法をかければいいのか?」 二人は首を横にふる。
「違うわ、ハルヤには対イレギュラー魔物チームが組まれるからそこに入って貰えるかしら」そうソルに言われた。
「あのさ、だからなんでダンジョンに入ったことがない俺をチームに入れようとするんだ!?」
はっきり言ってそこがわからん、もし怪我をした冒険者に回復魔法をかけにいくならまだ納得するが、なんで俺をダンジョンに行かせようとするのが理解できない。
「それはこの街の回復魔法使いの中で貴方が腕利きの中に入っているからよ」 それを聞いて俺は頭を抱えたくなる。
「大丈夫だ、私とソルがお前を守るから」 レイナが力こぶを作り言ってきて、ソルも「うん、もちろん」と頷く。
その答えに俺は、「だが断る、はっきりいって俺になんの得があるんだ。今の話だけだとマイナスしかないぞ」その発言にレイナが焦ってソルは固まっている。
「いやいや、そこは行こうぜと言う所だろ!」
「あのな、最初から俺はダンジョンに入りたくないと言っているのに、行こうぜと言うか!」と正論で返す。
「仕方ない、ソル奥の手を使うぞ」「了解」
二人がイスから立ち俺の目の前にくる。
「なんだ、俺を無理矢理連れて行こうとするのか?
そんなことしたら衛兵を呼ぶぞ」
俺がそう言うと二人は顔を合わせたあと俺の方を見て思いっきり頭を下げてきた。
『どうか手を貸してください、この借りは絶対返しますので』とそう本気で言われた。
その光景を見てビックリした俺は少し悩み今回だけは仕方がないと思いその願いを聞くことにする。
「仕方ない、今回だけだからな。二人とも俺をちゃんと守ってくれよ、あと報酬はキチンと貰うからな」
二人は俺のその言葉を聞いて頭を上げハイタッチをした。
「そうと決まれば早速冒険者ギルドに向かうぞ」
「ちょっと待て、俺の装備とか使うアイテムとかどうするんだよ」
「そのことなら大丈夫よ、ちゃんとギルドが用意しているわ」 俺はコイツらに任せて本当に大丈夫かと思った。
そして、レイナとソルが勝手に戸締りをして俺の両腕をガッチリ掴み冒険者ギルドに引っ張っていった。
◇◇
俺の店からそこそこ歩いて冒険者ギルドの中に入る。
すると、色々な人がこっちに振り向いてきた。冒険者達はゴツいオッサンから線の細い女性などさまざまな人が集まっていた。
俺はまた二人に引っ張られながら受付カウンターに連れて行かれて、そこにいる受付の人に「レイナさんとソルさんが言っていた貴重な回復魔法使いの方ですね。装備やアイテムは用意してあるので着替えてください、場所は係の者が案内しますね」と言われ俺は係の職員に案内されて用意された装備に着替える。
そして、魔法使い風の装備に着替えて支給されたアイテムを確認しながら三人で待っていると四十代くらいのゴリマッチョなオッサンが台の上に立ち何かを言い始めた。
「オレはギルド長のドンガスだ。イレギュラー魔物退治に集まってくれてありがとう。今回出た魔物はオーガタイプで前回戦った奴らから話を聞くと通常のタイプのオーガとは比べ物にならないパワーとタフネスさ、あとそこそこの素早さがあると言っていた」
あのオッサンギルド長だったのか。俺がそう思っているとギルド長が話を続けた。
「そのため、ギルドは大金を出してポーションなどを買い集めたり、回復魔法が使える者を召集した。なので諸君には思いっきり戦ってほしい。オレからは以上だ。」
なるほど、だから俺の店にもギルド職員がきて大量にポーションを買っていったのか、そう思い出しているとギルド職員から捕捉が入った。
「ここに集まってもらったのは五十人の腕利きの冒険者と回復魔法使いの五人の方です。今回チーム分けはすでにしてもらっているのでここでは省きます。ですがかなり強力なイレギュラー個体と戦うことになります。いいですね」その声にギルドにいる冒険者達が頷く。
「それでは、どの辺に出現したかを伝えますね。場所は五階層の奥にある扉の大きなドーム状の部屋でイレギュラー名前を赤オーガと名付けますね。赤オーガの大きさは人の倍以上の大きさで武器は大きな剣を装備して、赤い皮膚をしています。今のところにある情報はこれくらいですねそれではよろしくお願いします」と言いギルド職員が下がり、最後にギルド長が出て来て「それでは頼んだぞ」と言い俺達はダンジョンに向かって出発した。
◇◇
ダンジョンに入り多少魔物との戦闘になったが、腕利きの冒険者達によってあっという間に討伐された。
そして問題の五階層に着き、広い場所に着きそこで休憩を取ることになり、俺は水を飲んで座り込んだ。
「ハルト、なんで今回に限ってダンジョンに潜ることにしたんだ? あれだけ嫌っていたのに」とレイナが不思議そうに聞いてきた。
「理由は何個かあるが、一つはお前らがあれだけ本気で頭を下げ頼んできたことだな、今までにそんなことなかったからな、他にはこのことで色々な所に貸しを作れるなと思ったからだ」その答えにソルがやっぱりと言った。
そして冒険者の総リーダーを任された人がそろそろ行くぞと言い休憩が終了。俺達は目的地に向かうため隊列を組み歩き出した。
◇◇
やっとの事で目的地の扉の前に到着し、冒険者の人達が武器の手入れしたり道具が揃っているかを見たりしている。
俺達も手入れしたりして、ダンジョンに入る前に計画された作戦の確認をしていた。
「剣士タイプのレイナとソルは俺の護衛と怪我をした冒険者の介護、俺は怪我をした前衛をメインに回復していけばいいんだよな」
「そうだ、今回の作戦は回復魔法使いは五人しかいないからな」横でレイナがうんうんと頷く。
そして、少ししたら冒険者の総リーダーが「お前ら、準備はできたか」と言い、その声に他の冒険者達から『もちろんだ』と言う声が重なった。
「それじゃあ、突撃!!」大きな扉を思いっきり開け冒険者達が突撃していき、俺達もそれに続き入って行く。
中に入ると確かに人の倍以上の大きさに筋骨隆々な体で赤い皮膚、頭にツノが生えていて手には大きな剣を持っている魔物が仁王立ちしていた。
そして、大きなドーム状のエリアになっており周りを見渡すが他に魔物はいないようだ。
総リーダーは赤オーガを取り囲むように指示を出し冒険者達はその作戦に従って展開していった。
だが、その作戦はうまくいかなかった。
赤オーガが地面に剣を叩きつけて振動を起こし、それに耐えきれず転んだ冒険者を剣を振り吹き飛ばしたのだ。
それを見た俺達回復魔法使い達は、吹き飛ばされた怪我人の近くまで行って回復魔法をかけた。
「流石に、これだけのダメージを回復させるのは骨が折れるな」俺はそう言いながら回復を続けレイナとソルは怪我人の介護をしている。
しかし、今の一撃で戦闘不能になった人が結構出たのでもしかしたら引いた方がいいかもしれないと思ってしまう。
でも冒険者達の心は折れていない。なんとか体制を立て直し果敢に赤オーガに向かって武器や魔法で攻撃している。
だが、どの攻撃も大したダメージにはなってなくて、さらに赤オーガの攻撃で怪我人が増える一方だ。
俺はこの状況をなんとかする方法がないか回復させながら考えていると、一人の荷物持ちの所にレイナが行き何かを受け取り帰ってきた後、ソルにゲンコツを落とされた後荷物持ちから受け取った物を見せてきた。
「おい、それって何かしら魔法が込められた魔水晶じゃないか!? なんでそんな物があるんだ?」
「さっき話していた荷物持ちが奥の手で持っていたみたいだ。でも魔力が足りなくて発動できなくてそれで私に渡された。
「でも、お前そんなに魔力があったか?」と俺がレイナに聞くと「私が使うんじゃないハルヤお前が使うんだ」という衝撃発言をしてくる。
俺は何言っているんだコイツと思いながら「あのな、こんな状況でなんの魔法が入っているかわからないのに使えるか!」と前衛を指差しながら発言した。
そのことにレイナが 「この中には氷魔法のアイスランスが込められていると言ってたぞ」と言ってきた。
そしてソルが「使えばいいわ、ワタシとレイナはいつでもハルヤの味方よ」 俺は色々突っ込みたくなったが使ってみることにする。
「はぁ、わかった使ってみるが文句とか言うなよ」
俺はレイナから魔水晶を受け取り魔力を全力で込めた。そして魔力を込めながら前衛を見ると半分くらいの人が戦えなくなっていて、総リーダーが前に立ちなんとか均衡を保っていた。
少しして、魔水晶が砕け大きな氷の槍が俺の横に浮かんでいて、そしてそれを赤オーガを狙って打ち込んだ。
するとたまたま首にぶっ刺さり赤オーガが倒れそれを見た総リーダー達は総攻撃をかけ、ついに赤オーガが倒され黒い霧みたいな物になって消え、金色の宝箱と大きな魔石が出現した。
総リーダーは座りながら「あの氷の槍を投げたのは誰だ」と言った後、レイナとソルがこの人ですと俺を指差す。
「お前が投げたのか?」と聞かれたので「そうですけど」と答えると手招きをしてきた。俺は総リーダーの方に行くと「コイツに宝箱の中身をやるが文句ないよな」と言い他の冒険者に聞いた後、特に反対がなかったので俺が中身を頂くことになった。
中を開けてみる銀色のリングで青色の宝石がはまっている指輪が出てきた。
俺は、「本当にもらっていいのですか?」と聞いと、総リーダーが「勿論だ、ラッキーパンチかもしれないがお前の一撃がなければ俺達は恐らく負けていたからな」と言い笑う。
そして少しした後、総リーダーは立ち「お前ら撤収するぞ、意識がない奴や歩けない奴は手を貸してやれ」と他の冒険者達に伝え帰る準備を始めた。
その後、ダンジョンから出てギルドの酒場で討伐成功の打ち上げが行われたが俺はパスして自分の店に帰った。
◇◇
次の日、俺の店にはレイナがきていた。
「なあ、ハルヤやっぱり冒険者にならないか、ギルドでもお前のことで大騒ぎだったぞ」とレイナが言ってくる。ちなみにソルは二日酔いで寝込んでいるため一人できたそうだ。
俺は「あんな危険な所よりも雑貨屋をしている方がいいから断る」と言い続けているのだが現実はこのザマだ。
そして俺は雑貨屋の業務をしながらいつもの生活が戻ってくるんだなと思った。
END
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