勇者一行の二次会。異世界はつらいよ。
勇者一行の凱旋。それは国を、世界を挙げてのイベントだ。
世界中から集まった王族貴族が勇者一行を歓待し、賛辞を送り続けるそれはさぞかし有意義な時間となるであろう。……お偉い様にとっては。
では、当事者である勇者一行はというと……
日を跨いでの凱旋祭がようやく落ち着き、今は国王に無理を言って仲間内だけでの二次会へとやってきていた。
「どいつもこいつも、あからさまに媚びてきやがって」
「な」
個室に入るやこの一行。どうも祖国に不満がある様子。そこへ一員である魔道士の女性が遅れて合流した。
席に着いた彼女は勇者の酒をひったくると、早くも愚痴を零す。
「さっきトイレから出たところを女の子たちに見られちゃって。そしたら『尊敬してたお姉様がトイレに行くなんて幻滅』って言われたの。……あたしだってトイレくらい行くっつ~の!」
勇者一行の一員ともなれば、市井から神聖視されても仕方ないだろう。
しかし、幻想を抱くのは自由だが、それを押し付けられても困りもの。
「勇者様だって明日には国王の娘と結婚するんでしょう。……10才の」
「『させられる』だ。誰が好き好んで……。それに比べて、子息様は選び放題か」
最後の夜くらいは現実から目を背けたいと、仲間である侯爵の子息へと視線を向ける。
「冗談を。考えてもみろ。英雄の血筋に連なろうと、世界中の貴族がオレの血を求めてるんだ。……表では両手に花に見えるかもしれないが、裏では有力な令嬢を狙った暗殺が横行するだろう。まさに『血塗られた婚約』さ」
それは勘弁だと背筋を冷たくする勇者。ならば、残る回復役の少女にも……?
「なんで泣いてるんだよ。どうかしたのか?」
涙で顔を濡らす少女に困惑の男二人。魔道士の女性は訳知り顔だ。
「だって。だって、無事に帰ったら結婚しようって、勇者様が言ってくれたのに……」
「あちゃ。……国王の命令なんだから、しょうがないだろ。『かけおち』も考えたけど、世界中の監視は抜け出せないんだ。……分かってくれ」
どうやら魔王討伐を終えた一行には、問題が待ち構えているらしい。これなら魔王討伐の方が楽だと思ってしまうのも、仕方のないことだった。
「……勇者様と結婚できないなら、魔王になっちゃおうかな。……悪くないかも」
この世界に平和が訪れるのも、まだまだ先かもしれない。