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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハリワさんとの遭遇

作者: 珈太郎

酷い有様だった。


 さっきまでは何ともなかった道路にはヒビが入り、水道官が破裂したのか水がそこいらで溢れていた。

 見渡す限りの家には火の手が上がって、それを何とか消そうと必死に水をかける人達がいる。

「どけ邪魔だ!」

 昼だと言うのに空は黒い煙で一面覆われて、まるで夜になったみたいに辺りは暗く、砂埃が舞っているのか視界も悪い。

 倒れた信号機。割れたガラスや崩れたブロック塀が至る所に散乱している。

 瓦礫に顔を埋めて泣いている男性。

 車の中に使えそうな物を詰め込む親子。

 コンビニから商品を盗む人。

 マンションが潰れて横倒しになっている。

「誰か!誰か助けて!」

 そこら中に、焦げた臭いと、瓦礫が舞い上げる独特の埃で少し喉が痛む。

 周りは火の海だが水道管が破裂したのか道路には水が流れている。

 これだけ道路に水が溢れているから、ちゃんとした蛇口からは水は出ないだろう。

 水分を取るのにも一苦労しそうだ。

「おかぁさぁぁん!!」

 俺はいつの間にか、無意識に喉の辺りをさすっていた。


 ここは、地獄なんだろうか。


 そう小さく呟いた時、すぐ隣で小さい音がした。

 周りは人の罵声や悲鳴。崩れる建物の音、炎が舐める音の方が遙かに大きいのに、なぜかその小さい物音だけハッキリと耳に届いた。

 見てみると、そこには妹の希が、黒くくすんだ瓦礫の中を素手で漁っていた。

 おそらく、そこには家が建ってたのだろうか。

 今は柱や鉄骨が剥き出しになっているだけで面影はなくなっている。一面黒ずんでいて、小さな煙も何カ所か上がっている。

 ここは火事になってしまったのか…と思った。

 なんで希がこんな所に。危ないだろう。と思っていたが、ふ、と。

 その瓦礫は俺の住んでる家だと分かった。

 俺がぼう、と突っ立ている時も、希は一心不乱に瓦礫の中に手を突っ込んでは、何かを掘り出して汚い鍋の中に入れていた。


 希。何やってる。危ないから早くこっちに来い。


 俺の言葉にずっと動いていた希の手は止まり、俺の方を向いた。


 …お兄ちゃん。


 ぽつり、と希は呟いた。目は虚ろで、顔は炭で真っ黒だった。近くの火事の色が希の姿を赤く映して、一瞬俺の知ってる希じゃないように感じた。

 希はふらつきながら瓦礫から抜け出し、俺の方へやって来た。

 手にはあの、汚い鍋を持って。


 …。


 希は無言のまま、俺の前に来ると、その鍋を差し出した。


 何を探してた?金か?


 聞くが希は何も言わず、ただ俺の方を見つめていた。近くで見ると目元は赤く腫れていて、目の縁が異常に黒く汚れていた。

 俺は鍋の中を覗いた。

 中身、と言うか、さっきまで希が探していたのは、灰色の木材のような物だった。

 俺の腕の長さ位の物や、小さい小指程の欠片が、鍋に入っていた。

 これは何だ?と言うより先に、希がようやく口を開いた。


 お母さんを…。


 お母さんを、見つけてるの。


 鍋の中の、灰色の木片。いや、木片じゃなかった。それは―――。




「―――っ!」

 俺は目を覚ました。

 タオルケットが体に張り付いてかなり不快だ。

「……」

 カーテンが引いてある場所を見ても、まだ外は暗くなっているのが分かった。

「…」

 ここの所、蒸し暑いわ夏バテになるわであまり眠れていない。さっき怖い夢を見たような気がしたけど。

「…」

 よく思い出せない。今はただ『汗が不愉快』しか頭にない。

 それにしても、今何時だ。クーラーは2時間以下しかタイマー設定出来ない。10時前に寝て止まってるって事は、多分12時を越えてるのだけは分かった。

「…」

 俺は仰向けのまま、枕元に置いてるケータイに手を伸ばし―――

「あぃたっ」

 伸ば―――

「…?」

 何か、上の方で声がしたような…?

 気のせいか。と思っていたら。

「んもぅ、なんですの」

「…は!!?」

 やっぱり枕元でハッキリ声が聞こえて、俺は飛び起きた。

「わてはもぐらたたきとちゃいますぇ。ぃやぃやぃや、こんな時間にえろぉすんまへんなぁ」

「へ……?」

 そこに居たのは、奇妙な動物だった。

 大きさは、俺の肩に乗せられる程小さくて、全身毛で覆われていた。

 パンダみたいに座った格好で、両手足の爪は長い。

 目がつり上がっていて、頭の上には申し訳程度の耳が。

 そして一番の特徴は、長い鼻。まるで象みたいだ。

 いや、全体的に言ったらこれは象じゃないな。何というか…。そう、あれあれ。…あー。

「えー…。あ、アリクイだ」

 アリクイがどんなのか全然知らないけど、雰囲気みたいな、俺のアリクイカテゴリーにピタリと一致した。

 そう言えばアリクイって、喋るっけ…?と言うか、何で俺の部屋にアリクイなんか居るんだ。

「ちゃいますよお客さぁん。もぉし遅れましたなぁ。わて、こない言いますねん」

 あんじょぉよろしゅうたのんます。と何やら黒い四角い紙を俺に寄越した。

「え…あ。ど、どうも…」

 名刺位の大きさの黒い紙に、汚い白い字で「ハリワ」とだけ書いてあった。

「…え、と…。ハ、ハリワ、さん…?」

 恐る恐る聞くと、ハリワと言うアリクイは「ちゃいますよ」と首を振った。

「わて、バク言いますねん。えろぉよろしゅう」

 バク?バクって、あの『バク』?

「え~…と。その、バクさんが、何で俺の所に…?」

「一言でいぃますと、仕事で寄らせてもらったんですわ。いやぁ毎日毎日、こぉ多かったら残業代もっと多して欲しいもんですなぁ」

 ぬはは、とバクさんは笑った。笑った、のか?

「あの、その…仕事?」

 さっき貰った名刺をぎゅ~と握りしめて、俺は聞いた。

 何かまだ夢の中に居るみたいだ。でも、流れてくる汗の感触が妙に現実っぽくて、俺をここに引き留める。

 こんなに汗が出てるのは暑いからか?

「お客さん、今怖い夢見たんとちゃいますか?」


 バクさんは俺を見ながら腕を組んだ、様に見えた。腕が短いから添えてるだけかもしれないが。

「その悪夢っちゅうのは、お客さん始め生きてるモノ全て、毎日見てるもんなんですわ。その中でも人間様、お客さんの種族がこれまたやっかいでな。あいや、お客さんは別に悪ぅあらへんで。しゃぁないからなこれは。まぁその話しはええわ。その人間様の夢っちゅうのは、かなり力のあるモンでな。そのままほっとくと現実になってまう時がありますねん。そりゃぁもうかなりの高確率で。そんなんなってまうとこの星はめちゃくちゃになってまうさかい、それをさせない為に、わてらバク一族が寝てる人間様の夢を喰うてる訳ですわ。朝起きた時、あぁ自分怖い夢見たわぁ、でもよく思い出せんわぁって言う時、ありますやろ?かなりの大部分を喰うてしもぉたら夢の力は無くなりますしね。担当地区の者は人の夢を喰うんですわ」

「…は、はぁ…」

「でも時々、正夢になる人とかいるでっしゃろ?単なる喰いこぼしもありますけど。喰いこぼし言いますけどねぇ、殆どが胸焼けとストレスが理由でですわ。わてらもね、頑張ってはいるんでっせ?最近では昼とか朝とかに寝る人間様も増えてきて、夢のバリエーションもこれまた多くなってきて。見てみぃ、このハゲ。絶対ストレスですわ」

「す、すいません…」

「ここの担当も、今切れ痔と神経衰弱で静養してますわ。今日からわてがここの担当ですわ。まぁ、臨時なんですがねぇ」

 神経衰弱はともかく、切れ痔は俺達のせいじゃないような…。

「さぁて、一通り説明しましたし、そろそろおいとましますわ。仕事もまだ残ってますさかい」

「そ、そうですか」

「いやぁ、久々の現場だったもんでねぇ。姿見られた時はどないしょ思いましたけど、お客さんがえぇ人で良かったですわ」

「そ、それはどうも…」

「礼みたいなモンですがねぇ、早よ寝れるおまじないをかけされてもらいますわ」

「え…」

「お客さん、最近寝れてないみたいですからねぇ」

 そう言うと、バクさんはよちよちと俺の所に来た。

「か、可愛い…」

「なんか言いました?」

「い、いえ別になにも」

 小さく呟いたのに、聞こえてたんだろうか。

「すんませんなぁ。ちょっと屈んでもらえないですかねぇ」

「こ、こう、ですか?」

 俺は不自然な格好のまま、首を前に少し倒した。

「もうちょい、もうちょいですわ…はい、ここで結構です。ちょっと失礼」

 俺の視界は今ベッドのシーツしか映ってないから、なんだか不安だ。それになにか得体のしれない可愛い物体が横でゴソゴソしてるから、なおさら不安だ。

 何をやってるんだろ、と思っていた直後、急に眠気が襲いかかってきた。

「よぉ眠て、しっかり食べなぁあきまへんえ。明日も暑いさかい」

 そんな声を最後に、俺の意識は吹っ飛ぶように消えていった。




「お……ん!」

「…んぅ…」

「お兄…っ!」

「…ぐぅ」

「お兄ちゃんったら!」

「ぐはっ!?」

 いきなりわき腹に衝撃を食らって、俺はベッドの中で悶絶した。

「お兄ちゃんったら!いつまで寝てるの!もうお昼過ぎちゃうよ。お母さん怒ってるからね!」

 いや、怒ってるのは母さんじゃなくてお前じゃないのか。

「お、おま…もちょっとましなおこしかたあんだろ…つか、勝手に部屋に入ってぐへっ!」

 痛さで丸まってると、今度は背中を蹴られた。

「なによ。わざわざ起こしてあげたのに。それに何!?この部屋すっごい暑い!」

 そう言われてみれば暑いような。

「とにかく、私は起こしたからね。二度寝しないでよ。あ~暑い」

 手をウチワ代わりに扇ぎながら、希は部屋を出ていった。

 こんな暑かったら二度寝なんか出来るか。

 俺は痛めた背骨を伸ばしつつ、ベッドを抜けた。

 枕元に置いてあったケータイを見ると、11時47分と映し出されていた。

「…しゃーねー」

 起きるか。

 欠伸をかみ殺して、ケツをかく。

 昨日は変な夢見たな~。

 ついでに頭もかく。

 変な衝動物が出てきて、わてはバクです、なんて。どこのファンタジーだよ。

 よれよれのTシャツを脱ごうと、して。

「ん?」

 手に何か持ってる。

 しわしわになってるけど、なんか紙みたいなのが、俺の手の中にあった。

 何だ?



「……あーーー!!?」

この話もかなり前に違うサイトで投稿したものです。そのサイトは既に閉鎖されています。


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