神様、冒険者になる
テンプレの極み回ですぞ!
『冒険者ギルド』。
異世界もの小説では、欠かすことのできないパワープレイスの一つである。
ここでは、『冒険者』と呼ばれる派遣労働者達が、派遣登録したり、仕事を探したり、給与を受け取りに来たりと、毎日賑わっているらしい。
クリソックス達は、大きな石造りの建物の前に立ち、冒険者ギルドについて知っている知識を確認し合った。
「大体、異世界に来た主人公は、冒険者ギルドに登録しに来たら絡まれるんだよ。ワクワクするなあ!」
「それは、その主人公が若くて弱そうに見えるからじゃろ?わしらは年を食っておるから、絡まれはせんだろう」
「うう……確かに!テンプレを体験できると思ったのにぃ!」
「絡まれたいのか?被虐趣味は良いが、わしに苛めて欲しいなどと言い出すなよ」
「ないよ、そんな趣味!!」
ずっとこうして建物の前で話しているわけにもいかない。
二柱は意を決して、冒険者ギルドの扉をくぐった。
冒険者ギルドの中は、いかにもな造りだった。
向かって左手の壁には、求人票が所狭しと貼られており、仕事が決まっただろう部分は所々穴になっている。
正面には大きなカウンターがあり、銀行のように目的によって区切られている。
右手は椅子が並べられている。
カウンターの順番を待つ人用だろう。
しかし、多くの人は立って待っている。
座っているのは、ベテラン勢と思わしき者達だ。
なんとなく、そんなルールができたのだろう。
特に二柱の目を引いたのは、椅子に座っているヒャッハーしそうな柄の悪い冒険者達だ。
ゲラゲラ笑いながら、こちらを見ている。
「おいおい!見かけねえジジイどもだなあ。あれも冒険者か?」
「依頼人じゃねえ?」
「依頼人受付は、入口が別だろうが!にしてもあんな丸腰の冒険者、見たことねえぞ!?」
明らかに、彼らはクリソックス達の事を話している。
クリソックスは感動にうち震えた。
「ド、ドロンズ、私達、悪そうな冒険者に絡まれちゃってるよお!」
「何故嬉しそうなんじゃ、クリソックス。それに、あやつら、柄が悪そうに普通の感想を述べているだけじゃぞ?」
ドロンズは、歓喜のあまりハアハアと悶えるクリソックスを引っ張って、カウンターまで歩いていった。
案内板を見つけたドロンズ達は、冒険者登録用の受付に向かう。
そこは、他のカウンターと違って、人はいなかった。
受付のお姉さんに話しかける。
「あのう、私達、冒険者に登録したいんですが……」
お姉さんは驚いた顔をしたが、そこはプロである。
普通に接客を始めた。
「お二人は、他国で冒険者の経験はありますか?」
「いえ、ないです」
「初めてですね。では、説明致します。冒険者ギルドに登録すると、ギルドにある依頼票の依頼を受ける事ができます」
「ふむ……」
「冒険者は階級があり、一定数の依頼達成ごとに昇格の試験を受ける事ができます。受験資格があるのに昇格試験を受けない方もいらっしゃいます。それは御本人様の判断に委ねています」
クリソックスが尋ねた。
「何か、理由があるの?」
「その理由は様々ですが、階級が上がると下の階級の仕事が受けられなくなります。多くの方は、自身の力量を鑑みて、受験しないという判断をされているようです」
「なるほどねえ。逆に階級が低い者がレベルの高い依頼を受けられるの?」
「依頼票には、推奨階級が表示されています。二階級以上の差がある依頼だと、ギルド職員が面接し、許可が下りれば受けられます。また、モンスター討伐などにたまにあるのですが、たまたま推奨階級が上のモンスターを倒してしまった時も、依頼達成で報酬が支払われます」
ドロンズが聞いた。
「他の地域や国で依頼を達成したら、報酬はここに戻って受けとるのか?」
「いいえ。依頼人様によっては、直接渡す方もいらっしゃいますし、各国の冒険者ギルドの母体は同じですので、どこのギルドからでも報酬は受け取れます」
「ほう。そりゃ便利じゃの」
お姉さんは説明を続けた。
「階級は、初心者のF級からS級までの7段階です。冒険者ギルドでは、依頼を受けるだけでなく、素材の買い取りや換金、預金も行えます」
「銀行みたいなな事もやってるんだねえ」
クリソックスが呟いた。
お姉さんの説明は続く。
「こちらの腕輪が冒険者の証となります。この腕輪に、取られた依頼票のコードを読み取っていただくと依頼が受理されますが、先ほど説明した階級差のある依頼の場合、受理されませんので、ギルド職員に申し出てください。この腕輪は身分証でもあり、預金や引き出し、階級、達成数など、あらゆる情報を表示できます。再発行はできますが、失うと悪用される事になりますので、ご注意ください」
「はい」
「うむ」
「また、依頼によっては、失敗すると違約金が発生しますし、犯罪、迷惑行為、法令違反、度重なる依頼失敗の場合は、冒険者の資格を失う事があります。冒険者登録、致しますか?」
「お願いします」
「するぞ」
お姉さんの言葉に、二柱は頷いた。
「では、登録致します。まずはお名前を……」
冒険者ギルドを出る。
二柱は、無事に冒険者となった。
あのヒャッハー冒険者達は、相変わらずゲラゲラ笑いながら、
「ジジイが初めての冒険者登録かよ!大丈夫かあ!?」
「無理すんなよなあ!ヒャッハッハッ」
と、ヤジに聞こえるが、内容は普通に心配の声を飛ばしてきた。
多分彼らは、ちょっと悪そうな格好をした、ただの気の良い陽キャ達なのだろう。
クリソックスとドロンズは、町を歩きながら話している。
「初依頼は明日にして、今日は宿屋を探そう!」
「そうだの。人間の冒険者は、宿屋で飯を食らい寝るものだからの」
「人間は寝ないといけないからねえ」
彼らは人間らしい生活を満喫するつもりのようだ。
二柱は宿屋の集中する区域に向かって、歩き始めたのだった。