戦慄の泥ゴン
実は、睦月スバル様から教王ペロロビッチ三世のFAをいただきました!(FAを描いてくださるという企画があったので、ペロロビッチ三世をお願いしました)
真面目で厳格そうなこの方からのアインクーガ弁。破壊力抜群!
FA、最&高です!
前話『訛る教王』に貼り付けます。ご興味あれば、ドウゾー!
睦月スバル様、ありがとうございました!!
秒で気絶したペロロビッチ三世を守るように、アインクーガ教国の従者達があたふたしながらも防御魔法を重ね掛けする。
ガンダーラは、特殊スキルで何やら本を召喚したようだ。
ドラゴンを確認しながら、急ぐようにペラペラめくっている。
恐らく、目の前のドラゴンについて調べ拉れるような特殊スキルなのだろう。
そんな大騒ぎに先導として先頭の馬車に乗っていたメイクロード伯か慌ててやって来た。
「皆さん、大丈夫です!あのドラゴンは、ただの乗り物です!我々を襲うようなことはしませんよ」
「の、乗り物お?」
「ドラゴンがペットとかあり得なくない?」
「ヤバいんじゃね?!」
訛りまくりのアインクーガ教国の者達が、口々にメイクロード伯に質問するのに、メイクロード伯は丁寧に説明した。
「あれは、泥ゴンです。よく見てください。土や泥で出来ているでしょう?よくダンジョンなどに発生する泥人形のドラゴン形態だとでも思ってください」
「ド、泥ゴン?私の【辞典】には載っていないぞ!」
ガンダーラが手にしている本をしきりにめくって探している。
それを見て、メイクロード伯は「無駄ですよ」と断じた。
「あれは、新しく造り出された魔物です。確かガンダーラ枢機卿は【辞典】というこの世の全ての本と繋がる特殊スキルをお持ちでしたよね。ですが、本に書かれていないことまでは、その【辞典】に表示されることはない」
「新種?!」
「マジで!それも竜種の新種とか、大発見じゃね?!ヤバい!」
ざわつくアインクーガ教国の人間達を、泥ゴンは泥団子のような艶やかな瞳で睥睨し、飽きたのか、ぷいと視線を逸らしてグルルと寝そべった。
ガンダーラは唖然としながらも、不可解な表情を浮かべて泥ゴンを見て呟く。
「それにしても、何故こんな所に新種が……。しかも貴重な新種を、乗り物になど……。そもそも、竜種のテイム!?」
「ああ、それはですね……」
ハビット公国の上空に広がる薄青に、死んだ目をしたペロロビッチ三世の嘆息が吸い込まれる。
「それにしてもこの泥ゴンという魔物を、邪し……ドロンズという神が造り出したとは……」
「今、『邪神』と言いかけませんでしたか?」
「い、いえ!まっさかーー!」
メイクロード伯の鋭い眼差しに、ペロロビッチ三世は目を泳がせた。
あの泥ゴンとの遭遇から二日経った。
ペロロビッチ三世は、あの後メイクロード伯の屋敷で目覚め、ガンダーラから泥ゴンが乗り物であることを聞いたのだ。
泥ゴンを使えば、一日も経たずに公都シャリアータに着くという。ペロロビッチ三世は、その速さに驚いた。
とはいえ、すぐに出発というわけではない。これは、外交である。
メイクロード伯は、出発を二日後とした。
その間にアインクーガ教国の使節団をもてなし、山越えによる旅疲れを癒そうというのである。
だが、理由はそれだけではない。
使節団が公都でルイドート、ドロンズやクリソックス、はたまたオーガニックに出会う前に、互いの認識の相違について擦り合わせをする時間を設けたのだ。
当然、ペロロビッチ三世達は、邪神と思われる二柱についての情報を集めた。
だが、もたらされたのは、馬鹿にしているのかと思わせる情報ばかり。
ドロンズが泥団子の神というのもふざけているが、クリソックスの司るクリスマスソックスに至っては、全く意味不明である。
そして、二柱は爺と爺で結婚しているという。
ペロロビッチ三世は、デマを吹き込まれていると大いに憤慨して、出発の日を迎えたのである。
いよいよ出立の時を迎えたペロロビッチ三世達は、泥ゴンの背に据え付けられた三十人ほどなら余裕で入れそうな大きな箱の中に入った。
このまま殺されるのではと渋っていたペロロビッチ三世だったが、メイクロード伯も同乗したため、ようやっと乗り込んだのだ。
そうして現在、ハビット公国の上空をアイキャンフライしているのである。
箱に取り付けられている窓から、恐々と眼下を見下ろすペロロビッチ三世の耳元に、ガンダーラが唇を寄せた。
「これ、マジヤバいやつだよお、教王様っ。泥ゴン使えば、空からバンバン攻撃できんじゃん?ヤバタニ剣(その昔、勇者矢羽谷が使ったとされる剣技。転じて恐ろしい威力を示す語として使われている)だよお……ふぇぇ……」
それを聞いたペロロビッチ三世は、泥ゴンがアインクーガ教国に攻め入り、空から魔法攻撃を浴びせかける様を想像し、恐怖で少し漏レタニ剣した。
「と、とりま、死なないように、頑張って生きょ☆アインクーガ様、マジ神だから、守ってくれるょ、メイビー……」
ペロロビッチ三世は、絶望の表情でサムズアップして見せる。
ガンダーラも瞳の中のハイライトが失われている。
窓の外では、ペロロビッチ三世の心を表すように灰色の雲が増えてきた。
いつの間にか、雲に囲まれてしまったようだ。
「まずいな。すぐに降りなければ……」
メイクロード伯の呟く声が聞こえ、ペロロビッチ三世は気になって尋ねた。
「何か問題でも?」
「雨雲の中に入るとまずいのです。なんせ泥で出来ていますからね。泥ゴンの体が崩れて、墜落してしまう」
ペロロビッチ三世は目を剥いた。
「な、なんじゃと!?では、雲の上に出れば!」
「あまり上に行くと、何故か息ができなくなるんですよ。かなり寒くなるので、室温調整の魔石も効かなくなりますし。とにかく降りますね……あ」
窓の外に見えた泥ゴンの翼の表面に、前から吹きつける霧状の雨水に当たり続けたせいか、一部がポロリと欠けて飛んでいった。
全員の顔が蒼白になる。
「う、うわああああ!!降ろしてくれええ!」
「早く!早く地上へ!」
「お、落ちるうう!!」
室内はパニックになった。
メイクロード伯は慌てて泥ゴンに至急の降下を指示し、泥ゴンはその意を受けて急降下を開始。
「「「「「いやあああああ!!!」」」」」
メイクロード伯に加え、ペロロビッチ三世と愉快な使節団達は、『オーベラス』の世界で初めて、無重力状態を経験した人間となった。
その後、なんとか地上に降り立った泥ゴンと中の人達は、泥ゴンが雨に打たれてぬかるんだため、空からではなく地上を行くことになった。
泥ゴンは、元々土から出来ている。泥となっても、魔物として活動できるため、ペロロビッチ三世やメイクロード伯らを乗せたまま、地面の上を滑るように移動する。
その機動力の凄まじさに、アインクーガ教国の者達はまたもや戦慄しつつ、旅は順調に進んでいった。
こうしてアインクーガ教国の使節団は、公都シャリアータに無事たどり着いたのである。




