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泥棒オーガ

いつもご支援いただきありがとうございます!!

そして、不穏はルイドートの妻ノーラと共にやって来た。



「この、泥棒オーガ!!」


突然、泥ソックス神殿に踏み込んできたノーラが、ニックを見るなりそう叫んだ。

その言い様に、泥団子を作るドロンズと、その横でクリスマス柄の靴下を編むクリソックス、そして明日着るためのクリソックス作のニック専用クリスマス柄レオタードを何点か体に当てて、「ガッガウガウガガア」とクリソックスに話しかけていたオーガニックは、目を点にしてノーラを見つめた。



「え、ニック、何か勝手に取ってきちゃったの?ダメだよ、泥棒になっちゃうよ」

「金を払わずに店の肉でも食ったのか?」


二柱の言葉に、オーガニックがぶんぶんと首を横に振る。

「ガアッガガガッ」

ドロンズはそれを聞いて、ノーラに話しかけた。

「ニックは、こう言っておるが……」

「どう言っているのか、さっぱりわかりませんわ!」


そりゃそうである。


クリソックスは尋ねた。

「ノーラよ。一体どうして、ニックが泥棒だということになったのか、教えてくれるかい?」

「ええ、クリソックス様っ。私とミシャで、新たに公国に加わったケラーニ伯領とメイクロード伯領に外交のために赴き、帰ってきたのが先ほどのこと。出迎えた屋敷の者達の態度がおかしかったので聞きましたら、なんとそちらのオーガニックとうちのルイドートが度々執務室で逢瀬を重ねているというではありませんか!」

「え?それはニックに頼み事があるからって聞いているけど」

「頼み事が聞いて呆れますわ。ルイドートはそこのオーガに、デリケートゾーン(頭皮)をなめ回され、夢中になっているそうですわ!」

「「デ、デリケートゾーンを……?」」


ものは言い様であるが、家令はどんな報告の仕方をしたのか。


二柱がオーガニックを振り返る。

ニックは、「ガッ……!……!」と何か訴えようとしているが、声にならぬようだ。

恐らく、執務室での行為に関する情報を話せなくする契約魔法でもかけられているのだろう。

しかし、それが動揺に見えて、さらに皆に不審を抱かせる。


「あの人に聞いても、『誤解だ』だの『詳しいことは言えない』だの、いかにもなことしか言わないし。国王になって気が大きくなったのかしらね、腹の立つこと!すぐに浮気だなんて、やはりあの人も王族の血。偉大な勇者のご子孫だわ」


「やめてください、母上。私にもその血が流れているのです。それを言われると、いたたまれません」

神殿入り口から現れたのは、ルイドートとノーラの息子、ミシャである。

ミシャはノーラの元まで来ると、オーガニックを冷たい目で見据え、提案した。


「ニック殿、父の第二夫人になりませんか?」


ポカンとする二柱と一頭。

ノーラが理解不能という顔でミシャを見た。

「あなた、何を言っているかわかっているの……?」


「わかっていますよ、母上」とミシャは薄く笑んだ。

「母上こそわかっているのですか?父上は王となる道を選んだのです。国が軌道に乗れば、恐らく周辺から側室を望む声が高まるでしょう。」


ノーラは不安な表情を浮かべ、頷いた。

「そう、そうね。確かに、今のように妻が私一人というわけにはいかないわね。でも、私も貴族の女。政略で側室を迎えるのを反対はしないわ。きちんと受け入れます」

そんなノーラにミシャは言った。

「それでも母上は苦しむでしょうし、その女達に我々が脅かされないとも限らない。側室が自分の子を王太子にするために、邪魔な王太子や王妃を謀殺する。王族にはよくある話です」


「だからって、何故ニックを第二夫人にするのじゃ?」

ドロンズが不思議顔で問う。

ミシャは、冷徹な目をニックに向けた。

「父上の女避けです。貴族の女達には耐えられないでしょう?自分がオーガの、それもオスより下の夫人の立場となるなんて。しかも、寵愛はオーガが受けているのです。そんな変態王の側室になど、誰もなりたくないでしょう?それに、オスで人でないなら子どもも出来ないので、私の脅威にはならないでしょう」

「お主、若いのにえげつない策を弄するのう」

「貴族の世界では、子どもだって謀をかけ合いますから」


ミシャは腹黒王子属性を秘めていたようだ。

次代が頼もしい。

ノーラも、ミシャの言い分には納得したようで、オーガニックに向き直った。


「仕方ありません。どうせいずれは、側室を迎えることになるのです。ならば、私達の害にならぬお前を第二夫人に迎えましょう。ですが、正妻は私です。私に従い、分をわきまえなさいな」


「ガガッ!!?」


なんだか、オーガニックの婿入りが決定しそうだ。

ニックは「ガアッ!ガガッガウッガアッ!!」と訴えている。

「なんか、ニックは『違う、そんなこと望んでいない』とか言ってるけど」

クリソックスがナイスフォローをした。


「あら、分をわきまえて日陰の身でいるつもりだったのね?安心なさい。私、あなたを受け入れると決めたからには、きちんとルイドートに責任をとらせますわ!」


クリソックスのフォローは粉砕された!

オーガニックは、絶望的な目をしている。


「魔物でオスだけど、いいのかなあ?」

「良いのですよ、クリソックス様。オーガニックや魔物を操るあなた様方を国神とするのです。人と協調できる魔物の存在を知らしめることは、ハビット公国の新たなスタンスを理解してもらう良い機会となりましょう」


クリソックスの呟きに答えたミシャは、ニックに複雑な眼差しを向けた。

頭の回るミシャとて、まだ青臭さの残る子どもだ。

父親のアバンチュールやその相手について割りきるには気持ちが追いつかないのだろう。

ミシャは、そのあたりのジレンマを貴族の仮面で覆い隠して、言った。


「では、父上にこのことを伝えに行きましょうか。」




ハビット城の執務室。

ルイドートは、妻のノーラが言ったことが、よくわからなかったので、もう一度聞き直した。


「え?オーガニックが、何だって?」

「ですから、ニックを第二夫人にお迎えすることに致しました」


「……はい??」


ルイドートは、ドロンズとクリソックスに目を向けた。

何故か、サムズアップされた。

益々混乱したルイドートは、オーガニックに目を向ける。

「ガウガウッ、ガガガ!!」

「全くわからん!」


そりゃそうだ。


クリソックスが再度フォローを入れた。

「『助けて、ルイドート!』だって。仲良しだねえ」


だが、自らフォローを粉砕した!

オーガニックは頭を抱えている。


ルイドートは、息子のミシャに尋ねた。

「ミシャ、お前は賢い子だから説明できるな?今、お前達に何が起きているんだ?」

ミシャはナチュラルに罵倒した。

「変態の父上が母上のおらぬ間にそこのオーガと浮気したので、責任をとって第二夫人に迎えるのがよいだろうという結論に達したのです。よかったですね、この魔物のオスにまで手を出す節操無し野郎が!」


「はいいいい!!!?」



ルイドートは気づいた。

オーガの発毛効果を秘匿したのが、この事態を招いたのだと。

せめて、家族にだけは情報を開示しておかないと、オーガ(オス)を第二夫人として迎えねばならぬ羽目になってしまう。


観念したルイドートは、以前燃え尽きたアデラネイチャーの代わりに頭に装備していたクリスマスソックスを剥ぎ取り、デリケートゾーン(頭部)をさらけ出して白状した。


オーガの唾液に毛生え効果。

荒唐無稽な話だが、実際にルイドートの頭は、w_w_w くらいには草が生えてきている。

その事実は、ノーラを安堵させ、ミシャに歓喜をもたらした。


「つまり、これで私も『いつかはハゲットの呪い』から解放されるというわけですね!!?」

「なんだ、その呪いは?!!」

「それより父上、オーガの唾液の成分を調べ、毛生え薬を作りましょう!」

「そんな回りくどい事をせずとも、お前もニックに頭をなめてもらえばよいではないか」

「絶対嫌です。それより毛生え薬が出来れば、誰も喜ばないおぞましい光景を回避できますし、何より売れます。我が領、いえ、我が国の特産として、財政が潤うでしょう」

「なるほど……!流石、私の息子だ!早速、魔法薬師達を呼んで研究に当たらせよう」

「サンプルとして唾液を渡しますが、オーガのものである事はこのまま秘匿しましょう。他所に金の成る木を模倣されてはいけませんから」

「道理だな」


似た者親子は、にんまりと笑い合った。



その後、オーガの唾液成分を調べ、研究を重ねた魔法薬師達は、とうとう同じ成分の酵素をコピーすることに成功した。

そして、それを元に『オーガのように強くたくましい髪へ!』をキャッチコピーにしたハビット公国の特産毛生え薬が販売され、世界中で空前の大ヒット商品となる。

この毛生え薬のおかげで、ハビット公国は『薄毛の希望』『救いのハゲット』などと呼ばれ、財政を潤すだけでなく、国としての地位の確立にも成功した。


ちなみに、オーガの唾液に発毛効果があると知ったドロンズは、早速オーガニックに頼んで頭をなめてもらったが、所詮はイメージで出来た体だ。

当然何の改善効果も見られず、神の身を呪ったという。

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