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テンプレは商人と共に

《人とゴブリンの子ら……争い、いがみ合うのをやめよ……》


突如、商人達とゴブリン達の頭の中に声が響いた。

『クリスマスプレゼントの靴下』神改めクリソックスが、そこそこの信仰を得ている神に搭載されている『神託』の能力を使ったのである。


「あ、あなたは……」

「ギギ……」

商人達は警戒しながら体を固くし、ゴブリン達は地面に這いつくばった。


ゴブリンのリーダーらしき個体が平伏したままクリソックスに話しかけた。


「ギギ、ギギギ?」

「そうだ。我らは神だ」

「ギギギギ、ギイギギギ」

「なに、気まぐれに助けただけよ」

「ギイギイ、ギギ、ギギギギイッ?」

「ふむ、ならば、お前達にこの靴下をやるから、一年に一度、靴下に何か入れて仲間に贈るように。私は、『贈り物を入れる靴下』の神なのだ。……ねえ、ドロンズも、彼らに信仰心を育てなよ」

「そうじゃの。ならば、わしからはお主らに泥団子の作り方を授けよう」

「「「「「ギギッ!!?」」」」」

「今、お主らに泥団子の知識を授けた。子供らに教えて、遊ばせるように。私は、『泥団子』の神よ」

「ギキイッ!!」

「「「「「ギキイッ!!」」」」」


ゴブリン達は去っていった。

それを見送ったクリソックスは、嬉しそうに言った。

「おお、身の内に彼らの信仰を感じるよ!」

『泥団子』神ドロンズも頷いた。

「うむ、この世界でも我らは存在できそうだ」

神は人の祈りによって生まれる。

そして忘れ去られて久しい神は、存在自体が希薄になり、いつしか世界に溶け込むように消え果てるのだ。

それは自然の摂理であるので、在るがままの二柱に否やはない。

だが、この世に在る限りは、彼らの存在意義と共に、望むままに生きるのがこの二柱という神であった。



一方商人とその従者達は、この怪しげな男達がどんな種類の者か、全く予想もつかなかった。

『我らは神だ』という言葉が聞こえたが、神を自称する人間はたまにいて、そのほとんどが詐欺まがいのろくでもない人種であった。

様々な種類の人間と接し、情報を得られる商人だからこそ、そんな人間を多く知っていたといえる。

先ほど頭の中に聞こえた声も、なんとなくその声に抗えなかった事も、彼らの持つ特殊なスキルだろうと思っていたのだ。

この世界には、魔法や特殊スキルが存在する。

そういった意味で、ここではある意味で、神と人の境界線が紙一重の部分もあった。


とはいえ、自分達を救ってくれた者である。

それも強者だ。

ゴブリンと普通に会話するような、おかしな自称神ではあるが。

特に太った商人の男にとって、彼らは娘を救ってくれた命の恩人だ。

商人の男は、多少怪しかろうと礼を言わねばならぬ、と男達に近づいた。


「あ、あの、娘を、そして我々を助けていただき、ありがとうございます。私はトールノア王国王都トールノアールで商会を営んでおります、シモンズと申します。あなた様達は、一体どういう方々なのでしょうか……?」

商人の言葉に、ドロンズが答えた。

「我らは異界から来た神よ。わしは、『泥団子』の神ドロンズ。こいつは『クリスマスプレゼントの靴下』の神でクリソックスじゃ。お主らは、たまたま近くにおったので助けたまでじゃ」

「神……異界の?」

「そうじゃ」

全く意味がわからない。

『クリスマス』とは何なのか。それに『泥団子』?

商人シモンズは戸惑いながらも、ドロンズという男に尋ねた。

「異界の神様がどうしてこんな所へ?」

「それがよくわからないんだ」

クリソックスが、割り込んで答えた。

「私達が神域に戻ろうとしたら、どうもこちらに繋がってしまったみたいでね。何故だか戻ろうにも戻れないし、とりあえず近くの町まで連れていって欲しいんだよ」

「それは構いませんが……」


クリソックスは喜んでドロンズの肩を叩いた。

「おお!テンプレだよ、ドロンズ!私達、助けた商人一行と近くの町まで行くんだよ!」

「わかっておるわ。……すまんな、シモンズとやら。ついでに道すがら、この世界について教えて欲しい。国の名前や通貨、ドラゴンやゴブリンのような人間以外の生き物など、わしらにはこの世界の常識が無いのだ」

それを聞いて目を輝かせたクリソックスは、ドロンズにサムズアップした。

「やるね、ドロンズ!第一異世界人に、国の名前と通貨の単位を確認する。君、最高にテンプレ踏襲しているよ!」

「黙れ、クリソックス。なんか、腹立つわ!だいいち未知の世界で過ごすなら、情報収集は当たり前じゃろ!」

「つまり、君こそが異世界転移のテンプレ……!いやあ、私は君がさらに大好きになったよ」

「……わしは、お主が嫌いになりそうじゃ……」

「何故!?」



シモンズは、目の前でじゃれ合う神達を胡乱な眼で見た。

正直シモンズには、この二柱、怪しさが極まって、なんだかただの阿呆に見えてきていた。

娘が笑って父に囁いた。

「この人達、面白いわね。悪い人じゃなさそう!」


娘の言葉を聞き、少しだけ警戒を解いたシモンズは、従者達にドラゴンの素材を剥ぎ取るように指示すると、二柱に声をかけた。

「さあ、それでは、作業が終わり次第出発しましょう!次の町まで、後二日はかかります。夜営地点も考えて、時間に余裕があった方がいいですから」

「なるほど。そうだな。人間は脆弱だものな」


納得した神達は、従者の作業が終えるのを待ち、異世界転移のテンプレをこなすべく、商人一行と共に次の町に向けて出発したのである。




彼らはまだ知らなかった。


この時出会ったゴブリン達が、『贈り物を靴下に入れて渡す』、『美しい泥団子を作る』という文化的行動を起こすようになった結果、それがきっかけとなり、後々高度な文化を持つゴブリン王国を築く事となる。

このゴブリン王国に偶然訪れた冒険者は、語った。『ゴブリン達は、二柱の男神を信仰していた』と。

その後、このゴブリン王国に討伐隊が組まれたが、どれだけ探しても、ゴブリン王国は影も形も見えない。

そして、王国があった場所には、大量の靴下と、輝くばかりに美しく光る土玉が数個、忘れられたように残されていたという。



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