できてしまったシミをターンオーバー
ご報告がおそくなりましたが、りくのすけ様からいただいたロゴFAを目次と各話下にセットしております。
オーガニックイメージのロゴでかっこよす!
りくのすけ様、ありがとうございました!!
人々の心に異界の神に対する疑念が生まれ、神のお肌にポツリとシミが生まれた。
「確かに、魔物を生み出し、操ってたよな……」
「ドロンズ様の生み出したホオーク、味方の騎士まで襲ってたな……」
「そういえば、テイムできないはずのオーガも、テイムした……」
不安が、人々の間を波のように伝わる。
確かに、二柱は魔物に親しみ過ぎていた。
まるで、魔物を統べる神のように。
人々の疑念の声は少しずつ集まり、大きくなっていく。
それに比例するように、神の顔にそばかすができていく。
「ドロンズ……。信仰が薄くなっていくよ」
「いつの世も、どの世界も、人の心は移ろうもの。人とは儚いものよ」
二柱が人の集団を眺めている。先ほどまでひたむきに信仰を捧げていた人間達を。だが、今は、恐れと不安を湛えて、同じ神を見上げている。
二柱の声には何の色もない。長年人間を見てきたのだ。
人の心が無常であることは理解している。
周囲につられて盛り上がり、誰かの言動に影響され、潮が引くように一気に引いていく。
信仰を集める神々にとって、安定して多くの信仰を引き付けていられるかどうかが、二流と三流の違いであった。
一流はもちろん、あの神々だ。
パンチやロン毛、名前を呼んではいけないあの神などの、永久欠番メジャー神である。
そしてドロンズ達は、三流以下であった。そもそも多くの信仰が集まるほどの人気はない。
泥団子や、クリスマスプレゼントを入れるソックスは存在するが、神に祈るほどの信仰心を抱くのは極少数。
つまり、底辺神であった。
そんなドロンズ達である。
信仰が薄れても、全然平気だった。
「それにしても、わしらも成り上がったのう。三流神ぞ!河原でキャッチボールしていたド素人から、プロ入りしてすぐ契約解除になったとはいえ、一時は登板したプロ野球選手になれたようなもんじゃ!いやあ、これほど多くの信仰を集めたのは初めてじゃった!」
「わかる。わかるよ、ドロンズよっ。私もずいぶん昔は、大忙しだったんだよ。みんながクリスマス前には靴下に願いを込めたもんさ。でも、今じゃ包装紙にとって代わられて……。それでも昔は私も人気神だったんだ!クリスマス前だけ!」
「それにしても、いつも飲み会で仏先輩がしつこく唱えてくる『諸行無常』がこれか……。毎回ちょっと鬱陶しかったんじゃが、さすが一流神の言葉よの」
「信仰を集めるのは難しくはない。リピーターになってもらう方が何倍も難しい、か。流行り神のカリスマ『ええじゃないか』さんも、ぼやいてたよね。今じゃ、誰も真の『ええじゃないかダンス』を踊れる人はいないって……」
「江戸期で廃れたからのう。それにしても、『ええじゃないか』さん、消えそうで消えぬのう」
「最近、ジャ○ーズの人気グループが歌にしてデビューしたらしくて、熱狂的なファンの信仰が篤いらしいよ。後二百年は存在できるって、嬉しそうにファンクラブに入ってたよ」
「ああ、『ええじゃないか』が忘れられぬよう内部から働きかけようというのか。営業活動が地道じゃのう……」
神々も、信者離れは死活問題らしい。
現在の仏先輩が唱える『諸行無常』は、一体何を意味するのか。
もしかしたら、一流メジャー神も、#信者__フォロワー__#の増減が気になってチェックしているのかもしれない。
そんな神様事情をよそに、フッツメーンはほくそ笑んでいた。
(このまま不信感を煽り、民をこちらに寝返らせ、私を守らせよう)
フッツメーンは高らかに声を上げた。
「皆も薄々はわかっていたのだろう?異界の神と名乗るコレは、まともな神ではない。邪神である、と!!」
民衆はどよめき、そこかしこで悲鳴が上がった。
ルイドートが民衆に呼びかける。
だが、民の不安は周囲と連動して止まらない。その心は疑念から確信に書き換えられようとしている。
フッツメーンは、勝った、と思った。
そして民衆に語りかけた。
「勇気あるシャリアータの民よ!私は邪神と邪神を奉ずる者を倒しに来たのだ。邪神と関わらぬ者を殺すつもりはない!民よ、私と共に、邪神を倒そう!皆で立ち上がり、騙された恨みを今こそ晴らそうではないか!!」
多くの民衆の目が、ドロンズとクリソックスに向く。
その顔には、老人性のシミまでが出現している。
「やれやれ。人は仕方ないのう」
「ゴブリンの信者達は信仰を棄ててないようだし、私達もしばらくは消えることはないでしょ。別の町で信者を募ろうよ、ドロンズ」
二柱が、シャリアータの民を諦めたその時、
「異議あり!!」
フッツメーンに人差し指を突きつけて、宣言した男がいる。
冒険者ギルドのギルマス、ナック・ケラーニその人であった。
「ドロンズ様とクリソックス様が邪神であるなど、あり得ない!」
そう叫ぶナックに、フッツメーンが言う。
「何故そう言い切れる?現にコレらは、魔物を従えておるぞ」
「魔物を従えたからといって、邪神とは限らないだろう。それに、証拠もある!」
「証拠?何を証拠にすると言うのか?邪神である証拠は、奴らのこれまでの行動が証明しているというのに」
フッツメーンはせせら笑った。
ナックは、階段を上がりフッツメーンの前まで来ると、ある書類を見せた。
「これは、冒険者ギルドでドロンズ様とクリソックス様の適正検査をした時の結果だ。くらえっ!!……じゃなくて、この数値を見てみろ!!」
「やだ、個神情報っ」
クリソックスの呟きは無視された。
フッツメーンは、その用紙に目を通し、目を見張った。
「ば、馬鹿な……。魔法もスキルも適正ゼロだと!?」
その声を聞きつけ、民衆がざわめく。
「見よ!この結果を!あの方々には、魔法の適正がないのだ。ここにある体の魔素含有量の項目もゼロだぞ!?この方々には、一切魔素がないのだ!魔素の塊である邪神のはずがない!!」
「個神情報、さらされてるよ!?」
クリソックスの抗議は、またスルーされた。
さらなる事態の転回に、ただ戸惑う。
フッツメーンは、ナックに食ってかかる。
「そんな、魔法もスキルも全くゼロな人間などいるか!!」
「いる。……いや、いたというのが正しいな」
いつの間にかルイドートがカットインしている。
ルイドートは、思い出させるようにフッツメーンに言った。
「我々の祖先である『勇者』だ。異界より来たりし人間であったため、全く魔素を含んでおらず、それ故に一切の魔法攻撃が効かなかったらしい」
フッツメーンがハッとルイドートを見た。
ルイドートは、ニヤリと笑った。
「異界より来たりし者。魔素を含まぬ体。……まるで、『勇者』ではないか!!」
ルイドートの声が、広場に響き渡る。
人々の不安が、また別のものへと切り替わる。
どんな風に気持ちが変わったのか。
ドロンズとクリソックスにできてしまったシミは、ターンオーバーされ、ほとんど顔から一掃されたのである。




