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戦いの火蓋

いつもご愛読ありがとうございます!

鋼鉄のざる作品を読んで下さる皆様への感謝の思いを、少し割烹(活動報告)にしたためました。

『バトンを使って、感謝を!!』というタイトルのやつです。

よかったら、覗いてみて下さい。

元王国騎士団副隊長ラングレイは、戻るなりすぐさまルイドートに面会を求めた。


その時ルイドートは、軍議の場にいた。

公爵家騎士団団長タローウを始め、各兵団の大隊長や冒険者ギルドのギルドマスター、A級以上の冒険者などが集まり、戦争開始の緊張が高まる中、最終調整を行いながら敵陣に赴いたラングレイを待っていたのだ。


皆、戦争が避けられないのは覚悟している。

それでもルイドートはその回避を諦められないでいた。

もし、王国軍と戦争となれば、こちらは逆賊。

この決着は、王国軍にシャリアータが蹂躙され、ハビット公爵家に連なる者は皆処刑されるか、こちらが王国軍を打ち破り王国から独立、周辺貴族を巻き込んでの内紛状態となるかのどちらかだ。

内紛状態となれば、互いが疲弊した所で恐らく他国が攻めこんでくるだろう。

それを避けるには、ルイドートが素早く王位簒奪をして、内紛を速やかに終わらせる必要がある。

ルイドートは、前王の息子であり、今の王の異母弟だ。

血筋としては、王位を継ぐのは問題ないのだが……。


「多くの血が流れる。国内は混乱し、民もいい迷惑だろう」


どう転んでも、ろくなことにはならない。

ルイドートの胃は、キリキリと痛んだ。


ルイドートの亡母は、西に国を二つ挟んだ所にあるコーネルド国の第三王女であった。

少し遠いので助力を頼むのは難しいが、もし亡命したならば、ルイドートとその家族を受け入れてくれるだろう。

だが、ルイドートにその選択肢はない。

家臣や民を捨てて自分達だけ逃げるのは、為政者としての矜持が許さない。


「王国軍、帰ってくれんかな……」


ルイドートは、ストレスを軽減しようと、艶やかに磨いた泥団子を取り出して見つめた。

そこへ、ラングレイが戻ってきたのである。



「戻ったか!で、どうだった?戦争は回避できそうか!?」

立ち上がって問うルイドートに、ラングレイは首を横に振った。

「王太子は、あなたを殺し、このシャリアータを直轄領にする腹積もりです。奴らは確実に攻めてきます」

「そうか……」

落胆したルイドートだったが、ラングレイの次の言葉に目を剥いた。

「私は王国騎士団の職を辞して参りました。公爵家で雇ってください。腕に自信はあります」

「何を!?我らは今から王国軍と、あなたの昔の仲間と戦うのだぞ!昔の仲間を殺す羽目になる。せめて、別の貴族に仕官するか他国にでも……」

「いえ、こちらに仕えたいのです。王太子に殺された仲間の仇を打ちたいのもあります。それに、私はここが気に入ったのです。あなたも良い主だし、土地の人間の人柄も悪くない。皆が一丸となってここを守っている」

「ラングレイ殿……」

「先ほどなどは、向こうでドロンズ様に命を助けられました。なんせ神様が我々を守ってくださるのに、私だけおめおめと逃げるなどできませんよ」


ラングレイの言葉に、死を覚悟して張りつめた皆の表情がゆるむ。

「そうだな。我らには神様がついている」

タローウが力強く言った。

「スタンピードだって、神様方のご加護でほとんど犠牲がなかった。今回も、神様達がお力添えをしてくれる。我々は、やれる!」

A級冒険者の一人が、鼓舞するように言った。

「そうだ。我々には守ってくださる神がいる」

「神に仇なす悪者は、奴らの方だ!」

皆が、希望を得て、頷き合っている。


ルイドートは、腹を決めた。そして、この場に集まった者達を見渡した。

「こうなっては、戦争は避けられない。私は、逆賊として奴らを破り、事と次第によっては、簒奪も辞さぬ覚悟だ。お前達、逆賊になる覚悟はあるか?」

「「「おう!!!」」」

是の声が高らかに揃う。


「よろしい。ならば、戦争だ」


どっかで聞いたようなセリフをどや顔で吐いたルイドートであったが、そんな尻assモードを神は許さなかった。


「ラングレイッ!お主に聞きたい事がある!!」


尻好き疑惑(受)の神ドロンズが、同じく尻好き疑惑(攻)の神であるクリソックスと、軍議の場に乱入したのである。




「……つまり、ナニか?わしとこのクリソックスが、愛し合っておる、と?それも、尻を使って?……わしの尻を、使って??」


頷く一同に、ドロンズは崩れ落ちた。

「何故そういうことになったのじゃ!!意味がわからん!」

「ですが、あの時、確かにクリソックス様は、ドロンズ様の尻に顔を埋めようとしておられましたぞ?なあ、ナック」

「ああ、確かに見ましたよ。ドロンズ様が自ら尻を手で広げ、恥ずかしげもなくクリソックス様に尻を見せつけ……」

「しておらんわあ、そんなこと!!」


叫ぶドロンズに、ルイドートとナックは困ったように顔を見合わせた。

二人は確かに見たのだ。

尻に穴ができていないか、ドロンズがクリソックスに確認してもらったあの時の様子を。

しかし、そんな事情など、ルイドートとナックにわかろうはずもない。


そんな二人に、クリソックスが笑って言った。

「あはは。よくわからないけど、私達はおじさんに見えて、実はおじさんじゃないんだよ」

「おばさんなのですか!?」

「いや、違う。そもそも、性はないのだよー。神によっては、信仰した人々のイメージにより性を持って生まれた者もいるけど、私達は、クリスマスプレゼントの靴下に、泥団子を司る神だから。見た目だけはイメージでこうなったけど、性を持つ必要がなかった。だから、性はないんだ。ついでに言うと、生物じゃないから、排泄の穴もない」

「「「なんと!?」」」


「そうじゃ!論より証拠じゃ!これを見よっ」

ドロンズは、ルイドート達に向かって、尻を突き出した。

ルイドートも他の面々も、戸惑いながら、ドロンズのセクシーポーズを見守る。

「ドロンズよ……。たぶん尻に穴が無いのを見せたいのだろうけど、服の上からじゃわからないよ」

「そ、そうじゃな。ならば、下は履いていない状態にイメージを調整しよう!」

言うや、ドロンズは、上だけ着衣、下は丸出しという、危ないおじさんスタイルになって、尻を突き出した。


(((うわあ……)))


信仰する神様にやって欲しくない格好堂々の第一位となりそうな、破壊力満点の光景に、この面子の信仰度が10下がった。

その影響で、ドロンズの尻に吹き出物が現れた!


しかし気にせず、ドロンズは皆を急かした。

「よう、見よ!穴はないじゃろ?!」

ルイドートは決心して、尻に顔を近づけた。

「……本当に、無い!」


「まさか!」

「嘘だろ!?」

皆がドロンズの尻に群がった。

「ほ、本当に無いぞ……」

「ツルツルだ」

「神って、人智を越えてるな……」

「神、すげえ!!」

何やら、畏怖を覚える者や感動する者まで現れた。



そこへ、物見の兵達と魔法通信士達が駆け込んできた。

「大変です!王国軍が、動き出しました!!」

「王国軍総司令フッツメーン殿下から、『邪神の信徒となった公爵とその地の者を殲滅する』と通信がありました!!」


そして、固まった。


彼らが見たのは、ドロンズのむき出しの尻に群がり、我も我もと顔を寄せて尻を愛でようとする公爵軍上層部のお偉いさん達だ。

さらに、屈強な冒険者までそれに参加している。


「う、うわああああ!!?お邪魔しましたあっ!!」


とんでもない光景を見せつけられた被害者達は、上層部の闇に触れてしまったと、とんで逃げた。

その後、公爵軍上層部達のスキャンダルと共に、『ドロンズは(泥団子と)尻の神』という噂があっという間に広まったのは言うまでもない。


だが逆にこのことが、公爵軍上層部は攻めてくる王国軍など歯牙にもかけておらず余裕であると印象づけ、皆に希望を与えた。

兵士達は、『神の尻』を合言葉にして士気を高めた。


上層部の人間達は、そんなことになっているとは露知らず、すぐに持ち場に戻り迎撃態勢を整えた。




こうして、開戦の火蓋は切って落とされた。

王国軍の魔法士兵団が公爵軍の射程距離内に現れる。


「撃てえええええ!!!」

攻撃魔法が一斉に飛んでくる。


「放てえええええ!!!」

王国軍の魔法を打ち消すように、公爵軍の魔法士兵団も魔法を放って弾幕を作る。


ひとしきり打ち合い一段落ついた所で、魔法士達はサポートにまわる。

魔法戦は、数こそ王国軍に劣るものの、ルイドートの『味方の能力を上昇させる』スキルにより、公爵軍が押し勝った。

その勢いに乗って、いざ剣を交えようと騎士団や兵団が足を進めた時だ。

王国軍の前に、一人の少年が手枷をつけられたまま、騎士団に囲まれて引き出された。

少年は、そのまま騎士団に追いたてられるように進み、公爵軍と王国軍との中間地点にやってきた。


騎士団の中から、一際大きな体の立派な騎士が進み出て、少年の髪の毛を掴むと顔を上げさせ、その首筋に刃を当てた。


そして、大音声でルイドートを呼ばわった。


「邪神の徒にして、大罪人のルイドート・ハビットよ!!息子の命が惜しくば、一人でここまで来い!!一ジアン待ってやる!来なければ、息子を処刑する!!」



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