城壁の外で
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町をぐるりと取り囲む城壁の外側。
そこには既に、多くの冒険者や騎士、兵士が集まっていた。
ルイドート・ハビット公爵とクリソックス、ドロンズは、避難で大騒動のシャリアータの町を馬車で、それ以外は騎馬で駆け抜け、城壁の門をくぐった。
馬車からクリソックスとドロンズが姿を現すと、
『神だ』
『爺神、戦えんのか?』
『E級冒険者だったよね?』
『E級神が、召集対象外なのに、来てんじゃねーよ!怪我すんぞ?!ヒャッハッハー!』
と、ざわめきが起きる。
最後の奴は、恐らくいつも冒険者ギルドに常駐している声援部隊員で間違いないだろう。
そして、二柱に続きルイドートが姿を現すと、どよめきがさらに大きくなった。何故か悲鳴も混じっている。
ルイドートは、そんな周囲を気にはしない。
いつだって、自分の為すべき事をするだけである。
「馬車で来るとは、お前、戦う気はないのか?臆病風に吹かれたか?!」
などと阿呆殿下が五月蝿いが、シャリアータの最高権力者であるルイドートは総大将であり、そのスキルは支援特化型だ。
まあ、騎馬戦闘は確かに不得手ではあるが、城壁の上で常に全体を見て指揮を執る以上、騎馬である必要はない。
「私が前に出ては皆に迷惑をかけますからな。直接戦闘は、得意な者がするのが効率がよいのですよ」
ルイドートはそう言ってさっさとナックを探しに行く。
フッツメーンは歯牙にもかけられていないことに気づかず、自信ありげに笑った。
「なるほど、弱者は引っ込んでおる方が邪魔にならん。己れの持ち得ぬ強者の力を、私が見せてやろう!」
「ハーッハッハッ」と笑いながら、フッツメーンは最前線へと向かった。
護衛騎士達が「危のうございます!」と止めるが、「私は魔物などに遅れをとらん!侮るか!」と逆に怒鳴られている。
ルイドートは、ちらと振り返り、
「『君子危うきに近寄らず』の意味もわからぬか……」
とため息を吐いて、公爵家の騎士を二十ほどフッツメーンにつけるよう、指示を出した。
阿呆でも、一応王太子だ。
シャリアータで死なれたら、こちらも責任を取らされてしまう。
「あ、あそこ、ナックがいるよ!」
クリソックスが声を上げた。
「おお、確かに」
ナックはヨミナと共に冒険者パーティーのリーダーと高位のソロ冒険者を集めて指示を出していた。
「おーい、ナックー!」
クリソックスの呼びかけに、ナックが顔を上げてこちらを見た。
そして、叫んだ。
「全裸の変態だああああああ!!!」
その後は大変だった。
最初は、「何!?変態!どこだ!!」とキョロキョロしていたルイドートは、ドロンズの、
「全裸?そんな者はおらんぞ?ルイドートとて、ちゃんと靴下だけは被っておるしな」
という言葉で、はたと自分の体を見やった。
うん。裸靴下だ。
「確かに全裸ではない。靴下だけは身につけ……」
そこまで呟いて、さあっと青ざめた後に、真っ赤になった。
「イ、イヤアアアアアア!!!服っ、服をプリーズッ!!」
何故か内股で胸を隠すルイドートに、「うん。信者よ。その強き願い、叶えよう!」とクリソックスが『靴下召喚』、『靴下ラッピング』を行う。
「はあうっ!全身が優しさに包まれるう!」
ルイドートは、オーガニックと同じように靴下をまとい、可愛いトナカイ柄の靴下レオタード姿となった。
(((((これはこれで、変態的……!)))))
周囲の感想は完全に一致した。
「こ、公爵……、一体何があったんですか!?」
顔をひきつらせるナックに、公爵は憮然とした表情で問い返した。
「それはこちらのセリフだ。一体、何があった?魔物が溢れたとは、どういうことだ?」
ナックは、(有事、有事だからな!)と個人的感情は後回しにして、説明を始めた。
「北の森の奥深くにある遺跡ダンジョンについて、『魔物の数が多く、強くなっている』という報告は受けていました。そこで、十日前に、調査隊を送ったのです」
「で、結果は?」
「帰ってきませんでした。……B級のベテラン冒険者パーティーだったんですよ。潜っているにしたって、帰りが遅すぎる。そこで、何かあったと判断して、王都のギルドに要請し、A級冒険者パーティーをこちらに呼んでもらい、今日向かわせました」
「その冒険者達は?」
「五人グループのうち、一人が死亡、一人が重傷です。魔物が多すぎて最新部までは行けなかったようですが、ダンジョンコアに魔素が溜まり、歪んでいるのではないか、と」
「なるほど。ダンジョンコアを破壊するしかないか。糞っ!」
ルイドートが表情を歪ませる。
無理もない。
ダンジョンは金の成る木だ。
魔物が出て命の危険はあるが、神からの賜物である宝箱、魔物の素材など、多くの冒険者達を集めてくれる。
人が集まれば、経済効果も生まれる。
彼らの消費は、シャリアータを富ませるのだ。
だが、ダンジョンコアを破壊すれば、ダンジョンは失われる。
ダンジョン目当ての冒険者達は、別の地域のダンジョンに行ってしまうだろう。
幸いにもシャリアータ近郊には、後二つ、ダンジョンが存在する。
しかし、遺跡ダンジョンが活動を停止すれば、やはりシャリアータを去る者もいるはずだ。
ルイドートはため息を吐いた。
だが、多くの民の命には変えられない。
「伝説の勇者がいれば、アインクーガ様からいただいた『魔素吸収分解』の特殊スキルで、コアを壊さずに対処できるものを……!」
嘆くルイドートにナックが言った。
「ルイドート様らしくもない。そんな伝説のスキル、本当にあったかどうかもわからないですよ。それより、まずは、溢れた魔物を駆除しましょう」
ルイドートは渋面で頷いた。
そんな二人に、緊張感のない声がかけられた。
「ところで、私達は何をすればいいの?」
「社を建ててもらったからの。泥に関する願いを、何でも叶えてやるぞ」
クリソックスとドロンズである。
その言葉に、ルイドートとナックは、
「「……」」
しばらく考えてから、答えた。
「とにかく、魔物を殺しまくってください」
「「その願い、叶えよう!!」」
二柱は、元気に聞き届けた。




