ふんどしの奇跡、新築祝いの奇跡
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ストックが心もとなくなってますが、せめて週ニ更新頑張ります!
かくして、シャリアータの町に、新たな神が祀られた。
『クリスマスプレゼントの靴下』を司る神クリソックスと、『泥団子』を司る神ドロンズである。
そして、『クリスマスの日』の制定。
当然この世界にも暦はある。
その構成と読み方ははほとんど地球のものと変わらない。
ただ、1月がリリエの花が咲き始める春スタートというのが、地球と違うところだ。
リリエの花は、蘭とスイトピーを掛け合わせたような、気品と可憐さをあわせ持った薄ピンクの花だ。
この花は、創世の女神アインクーガが好んで、おのれの髪に飾っていると言われており、この花の咲く時期が一年の始まりにふさわしいとされている。
本来ならクリスマスといえばイエス・キリストの生誕を祝う12月25日であるが、暦上の時期のズレもある。
そもそも異世界のため、キリストのありがたみも、キリストの存在すら知らないわけで。
結局、クリソックスとドロンズがこの世界にやって来た2月14日を『クリスマス』にすることに決まった。
それを聞いて、ドロンズは嬉しそうにクリソックスに言った。
「おお、ふんどしの日じゃな!」
「何、その記念日?2月14日ならまずは、バレンタインデーじゃないの?」
「知らぬのか?ふ(2)んど(10)し(4)で、2月14日なのじゃ。その日は愛する人にふんどしを贈る日なのじゃぞ?ちなみに3月14日は『ふんどし返し』の日じゃ」
「いや、バレンタイン便乗は無理だよ。『好きです』ってふんどし贈られたら、意味深過ぎて普通は引くよね?え、ふんどしを売りたくて、ふんどし記念日をバレンタインにぶつけたの?」
「違うぞ。たまたまバレンタインと被ったのじゃ。それを日本ふんどし協会では、『ふんどしの奇跡』と呼んでおるのよ」
「ええ……。今からこの日がクリスマスになるわけだから、結局『ふんどしの奇跡』なのか……」
二人がふんどしについて語らっている間に、ちゃっちゃと説明を済ませてしまおう。
オーガニックであるが、神の従者としてドロンズとクリソックスの神殿、略して泥ソックス神殿に所属することになった。
そして、『泥団子』神の教主としてルイドートが、『クリスマスプレゼントの靴下』神の教主としてルイドートの妻であるノーラが収まることになる。
泥団子に魅せられたルイドートはともかく、何故ノーラが『クリスマスプレゼントの靴下』神の教主なのか。
理由は、『おかんアート』である。
ノーラは昔から刺繍やレース編みを趣味としていた。
その没頭ぶりたるや、息子ミシャの衣服を全て、レースや刺繍でデコッてしまうほどであった。
十五歳になるミシャは現在、王都にある学校の寄宿舎に入っているのだが、毎月贈られてくる花柄刺繍とフリフリレースの衣服に、頭を抱えている状況だ。
そのノーラが、『クリスマス柄』に出会ってしまった。
泥ソックス神殿が完成するまで、オーガニックは、クリソックスやドロンズとハビット公爵邸に住まわせてもらっているのだが、ノーラは毎日柄の変わるオーガニックの#服__靴下__#を見て、その柄の可愛さと多様さに衝撃を受けたのである。
ノーラはすぐにクリソックスの信者となり、その叡智(世界中のクリスマス柄)を授けられた。
彼女は、保有スキルの一つ【転写】で、自分のドレスや部屋のインテリアを全てクリスマス柄にした。
そして、夫の服と公爵邸のインテリアをどんどんクリスマス柄に染め上げていった。
結果、ルイドートにめちゃめちゃ怒られ、ノーラの暴走は暴歩くらいに落ち着いた。
また、試行錯誤を重ね、様々なクリスマス柄の編み方、刺繍の作品を生み出したノーラは、周囲のおかんネットワークを駆使して、『クリスマス柄手芸茶会』を開き、口コミでシャリアータのおかん達の間でクリスマス柄熱が急上昇。
ノーラの息子ミシャだけでなく、シャリアータの息子達のシャツをクリスマス柄に染め上げたのであった。
そんなわけで、ノーラはクリソックスの熱心な信者として、『クリスマスプレゼントの靴下』神の教主にふさわしい人物として、そこに収まったのである。
住民達はといえば、『シャリアータのラッキーじじい』が神様で、なおかつ『泥団子』だの『靴下』だのの神ということに戸惑いを覚えたものの、『クリスマスの日』の制定には概ね好意的であった。
なにせ、神殿完成祝いとして、クリスマスプレゼント用の靴下が神のクリソックスから支給されるだけでなく、クリスマス前には消費を促すためにクリスマスセールが行われるというのだ。
また、泥団子は子供達に好評だった。
何せ泥と根気があれば、どこでも作れるのだ。
しかも、クリスマスには、泥団子大会も開催され、優秀作品は一年間神殿に飾られ、賞品も出るという。
これには子供達だけでなく、大人達も俄然やる気を出した。
こうして、シャリアータの町に、『泥団子』と『クリスマスプレゼントの靴下』は、着実に根づいていった。
ドロンズとクリソックスの肌は、人々の祈りでエイジングケアされ、輝くような美しさを解き放った。
ひと月ほど経ち、大工さんのスキルや魔法がいい感じになんやかんやした結果、泥ソックス神殿はとうとう完成した。
神殿の中は、中央に、中身の詰まった大きな『クリスマスプレゼント用の靴下』を担ぐクリソックスの像と、頭部が泥団子になっているドロンズの像が祀られている。
その手前には、祭壇と祈りの場がある。
像の奥の部屋は、二柱とオーガニックの居住スペースとなっている。
そして、入口から向かって左側は『クリスマスプレゼントの靴下』神のスペース、右側は『泥団子』神用のスペースとなっており、クリスマス柄手芸教室や泥団子教室を行える広めの部屋、教主や神官用の部屋などがそれぞれ配置されている。
「まるで、私達、メジャー神に昇格したみたいだ!!」
「まさか、社を持てる日が来ようとはの……!」
「ねえ、ドロンズ。夢じゃないよね?頬っぺたつねってくれる?」
スパンッ!
「つねってって言ったのに、なんで首を落とすかなあ」
「お主が阿呆なことを抜かすからじゃ。首が落ちても平気なのに、頬をつねって痛みなど感じぬじゃろ?そもそも、わしらは寝ないだろうが!」
「雰囲気だよ、雰囲気!やってみたかったんだよ。『痛い……、夢じゃない』って」
「そんな大嘘ついて、何の意味があるんじゃ……」
「ガッガッガッ」
神殿完成の日、シャリアータの町は、喜んだクリソックスとドロンズによって祝福された。
町には大小様々なクリスマス柄の靴下と、偽造石貨が空から降り注ぎ、住民達は大歓声を上げた。
ドロンズは、その後、ルイドートからとても怒られた。




