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プロローグ 二柱の転移前夜

ドッキドキのハイファン初進出です。

群雄割拠なジャンルに、そっと紛れ込ませときますね。

優しくして下さい。

日本には八百万の神がいる。

とはいっても、誰かが数えたわけじゃない。

それほど多くの神が存在している、という意味だ。


神様なんてのは、人がその存在を認識する事で生まれるものだ。

例えば、ほら、そこら辺に転がっている石をみつけ、その石を本気で神だと思って祈る。

そうすればその石は神格化し、新たな神様の出来上がり、というわけだ。

よく電車で腹が痛くなり、『神様!』なんて祈ったりするだろう?

その神なら、けっこう古参の神なんだ。

『急な腹痛』神さ。

彼は、多くの人々の信仰を得ているメジャー神だ。


今、『急な腹痛』神を゛彼゛と呼んだが、別に神に性別があるわけではない。

性別を持とうと思えば持てるが、基本神は単一の自己完結的存在なんだ。

だけど性別のある人が神を生み出すのだから、人のイメージで神の形は決まる。

男、女、老人、子ども、髪型や体型まで勝手に決められて生み出される。

だから、生まれた時から爺神ってのはざらにいるんだ。



「私のようにな」


そう一人ごちて、白髪白髭の男はため息を吐いた。

年の頃は老年期に差し掛かろうとしているあたりか。

背は高くがっちりめの体型に、彫りの深い顔立ち。

長い白髪をきっちりと後ろで結び、白髭も短めにしてダンディーな外国人、といった印象だ。


この男、人ではない。

人々の信仰によって生まれた神である。

さて、どんな信仰で生まれた神なのか。



「おー!『クリスマスプレゼントの靴下』神!もう来てたのか?けっこう待った?」

不意に声をかけられ、駅ビルの前に佇んでいた白髪白髭の男は、振り向いた。

そこには、ニット帽を被った中肉中背の色黒おじさんが立っていた。

おじさんの癖にその肌は艶やかで、黒光りしている。

「遅いよ、『泥団子』神~。なんか、一人でとりとめの無い事を考えて、落ち込んじゃったよ」

「何を考えておったんじゃ?」

「なんで、生まれた時から爺なんだろうな……って」

「ああ、……ハゲしく同意」

『泥団子』神と呼ばれた男は、ニット帽の下に隠されたコンプレックスを思い、『クリスマスプレゼントの靴下』神の肩を慰めるように叩いた。




この二柱の神は、親友である。

その昔、出雲で神々の会議があると聞いてやって来たものの、そうそうたるメジャー神達に気圧され、場違い感に居場所を求めて出雲大社内をさ迷っていた『クリスマスプレゼントの靴下』神が、同じようにいたたまれず隅でちびちび酒を飲んでいた『泥団子』神と意気投合したのが、この二柱の馴れ初めだ。


そもそも、縁結びの会議に、クリスマスプレゼント用の靴下や泥団子が何を寄与するというのか。

そこに気付いた二柱は、それ以降出雲の会議に出席するのは止めた。

ただ、二柱の友情は続き、こうしてちょくちょく会っては、いっしょに飲むようになったのである。



話を駅前に戻す。

待ち合わせた二柱は、行きつけの居酒屋『喜んで』に慣れた様子で入っていった。

そして、いつものように、生ビールとカシスオレンジが運ばれてきた。


「「乾杯~!」」


カシスオレンジをグビッと飲んだ『泥団子』神は、枝豆に手をのばしながら話しかけた。

「最近ご無沙汰だったのう。何しておったんじゃ?」

『クリスマスプレゼントの靴下』神は、生ビールを一気に煽った後、髭についた泡をおしぼりで拭きながら答えた。

「マン喫にこもってた」

「お主は本当に、人の営みが好きじゃのう……」

『泥団子』神の呆れた眼差しを受けて、『クリスマスプレゼントの靴下』神は手で顔を覆った。

「だって、クリスマス時期まで暇なんだよお~!」

「そりゃ、悠々自適で羨ましい」

『泥団子』神は、店内に設置されたタッチパネルで、次の注文を何にしようか物色している。

『クリスマスプレゼントの靴下』神は、そんな『泥団子』神をジト目で睨んだ。


「そっちはいいよなあ。子ども達は年中泥団子を作ってるし、今は大人だって、泥団子大会できれいな泥団子作りを競ってるんだから。『美しく強い泥団子を』って信仰がめちゃ捗るよな!」

「お主とて、クリスマスの時期になれば、『この靴下に望みのプレゼントが入りますように』なんて子どもの強い信仰を集めるではないか」

「クリスマスの時期だけな!それに、今時は靴下にプレゼントなんて入れないんだ。私は最早、実用性に乏しいただのシンボルさ。引退を望まれる名誉職なんだ!」

『泥団子』神は、ワアッと机に突っ伏した友神ゆうじんを見て、慰めるように言った。

「プレゼントの中身は玩具だけではない。あの時期、あらゆるスーパーで菓子の入った靴下が売られておるではないか。やはりお主は、望まれておるのさ」

「『泥団子』神……!」

「さあ、飲め飲め。そら、靴下を出せ。わしがきれいに光る泥団子を入れてやろう」

「ありがとう~!」



二柱の神は、いつもの通り楽しく飲んだ。

別に食べ飲みせずとも、信仰さえあれば生きていけるが、なんだかんだいって人間から生まれた存在だ。人間のような思考で人間のように生活をするのは、彼らに共通した趣味だ。


居酒屋を出た後はダーツバーでダーツを楽しみ、夜暗い中を人気の無い方へ向かって歩いた。

この世には無い自らの神域に戻るためだ。

先日はうっかり街中で戻ってしまい、目の前ですうっと消えた外国人を見た通行人によって、幽霊が出たと大騒ぎになってしまったのだ。

家に帰るのにも気を遣う二柱である。


しばらく歩き、人のいない公園をみつけた。

二柱してトイレの中に入る。

『クリスマスプレゼントの靴下』神が、じいっと『泥団子』神を見つめて言った。


「や・ら・な・い・か?」

「何をじゃ?」

「いや、知らない。トイレで男が二人になったら、これを言わないといけないらしい。この前インターネッツで教えてもらった」

「ふうむ、何をすればいいんじゃろうなあ?」


艶々の顎を撫でながら『泥団子』神は首をかしげる。

「まあ、よいわ。帰ろう。では、またの」

「ああ、また……」


二柱がこの世をすり抜けようとしたその時であった。

二柱は急に穴に落ちたような感覚を覚えた。

『クリスマスプレゼントの靴下』神は、『泥団子』神の腕に思わずすがり付いた。




そのまま二柱は、どこまでも落ちていった。

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