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恋愛もの

さようなら、今年の夏

作者: たこす
掲載日:2018/08/29

「もうすぐ夏が終わっちゃうね」


 草原に寝そべりながら彼女はそう言った。

 その隣で僕も寝そべりながら「そうだね」とつぶやく。


 手をつないで仰向けに寝転がる僕らの目の前には、満天の星空が広がっている。

 さわさわと頬を撫でる夜風が心地いい。


「秋が来るね」


 まだ肌寒いとは程遠いけれど、涼しい夜風を受けて彼女はぶるると肩を震わせていた。

 僕はその身体をそっと抱き寄せ、指を絡ませる。

 彼女の温かな吐息が胸にかかった。


「ねえ。今年の夏は……どうだった?」


 彼女は僕の身体にもたれかかりながらそう尋ねてきた。


「今年の夏は暑かったよ」

「暑かった? 去年より?」

「うん、去年より」

「ふふふ、ごめんね」


 笑いながら謝る彼女。

 謝りながらもどこか嬉しそうだ。


「あとは?」と聞いてくる彼女に、僕は答えた。


「あとは……幸せだった」

「よかった」

「君は?」

「私も……幸せでした」


 そう言って首筋にキスをしてくる彼女の顔は、どこか寂しげで、儚げで、そして綺麗だった。


「ねえ、来年も会えるかな?」

「もちろん。私が見つけるわ」

「見つけられる?」

「大丈夫よ。だって私、“夏の精霊”だもの」

「そっか。そうだよね。日本のどこにいたって、夏が来れば君に見つけてもらえるもんね」

「正確には、私が来るから夏になるんだけどね」


 “夏の精霊”である彼女。

 やって来るタイミングはその年によってバラバラだけど、彼女が来たら日本は一気に「夏」になる。

 でも、きっと誰にも信じてもらえないだろう。

 そんな“夏の精霊”が僕に恋してるだなんて。



 毎年、嬉しそうに楽しそうにやってくる彼女。

 僕も僕で、そんな彼女が待ち遠しくてたまらない。

 ぶっちゃけ、離れ離れにはなりたくない。一年中「夏」でいてほしいくらいだ。

 けれど、それは自然の法則に反することらしい。


 だから今年も、彼女は夏の間だけ僕の側にいて、秋になると帰ると言っていた。

 そして、それはもうじきやってくる。

 僕にはそれがたまらなく寂しかった。


「また来年、会おうね」

「うん」

「できれば、来年はもう少し気温を下げてくれると嬉しいんだけど」

「ふふふ、それは無理よ。夏の気温は私の体温と連動してるんだもの」

「え、そうなの?」

「もう、気づかなかったの? 年々暑くなっていくのは、私の気持ちの表れだったのに。……バカ」


 顔を赤く染める彼女に合わせるかのように、一気に夜の気温が高くなる。

 そうか。

 いくら部屋のクーラーの温度を下げても暑かったのはそのせいだったのか。


「もしかしたら、僕は日本中の人たちの敵かもね」

「今年の夏は暑かったものね」


 否定することなく嬉しそうに笑う彼女。

 来年はもっと暑いかもしれない。


 そんなことを思いながら、僕ははにかむ彼女の唇に唇を重ねた。



 さようなら、今年の夏──……。


 

お読みいただきありがとうございました。


2018年8月26日の活動報告に掲載させていただいたSSでしたが、多くの励ましのお言葉をいただきまして、短編として投稿させていただきました。

コメントをお寄せくださった皆様に改めて感謝を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 暑い! 熱い! いろんな意味であつすぎる!(*'ω'*) そしてたこす様の甘さが……ぐあぁぁぁ!! もう悶えながら震えてました。 もうダメです……これ以上私に糖分を取れと?!(オイ あ…
[良い点] たこす様の代名詞ともいえる甘さと切なさの相乗効果…! [一言] 投稿ありがとうございました^^ 最近はまた暑いですが、まだ彼女は名残を惜しんで彼のそばにいるんでしょうか。笑。 もうこうなっ…
[良い点] 終わりが近づいているのに甘い会話を楽しむ二人。 甘さと切なさが混ざりあって味わい深いです。 [一言] わーいヽ(^○^)ノ アップしてくれてありがとうございますヽ(^○^)ノ
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