昇格試験官ガンベル
「ここがギルド本部よ。」
『エルメニア王国 冒険者ギルド本部』、それがセーヤのいうギルド本部の正式名称である。
石造りの三階建てで、酒場も併設されているため横幅もかなりある。そして建物の看板には正式名称が記載されていた。
「エルメニア王国」とあるのは他国にもギルドがあり、ギルド本部があるため、分かりやすくする目的がある。
「いや~、もう覚えたけどあれは初見じゃ無理だな。」
「まぁ、慣れれば便利なんだけど・・・って今覚えたっていった?」
「言ったけど?それより早く入ろう。」
「ちょっと!」
このアステールと名乗る青年はとんでもないことを口走った。
ここに来るまでのみちは、城の文官でも一回で覚えることは不可能である。それをこの青年は覚えたといった。
それをなんでもないように(実際アステールには何でもないのだが)いってのけ、足取り軽くギルド本部の建物に入っていった。
それを追ってセーヤも入って行くと、もうアステールはギルドの受付嬢と話をしていた。
「それではこの用紙に必要事項を・・・あら?セーヤちゃんじゃない。どうしたの。」
「この人の案内をしていたの。」
「あらそう・・・。あっ、すいません。もう書き終わりましたか?」
「ああ、これでいいのか?」
「はい、構いません。アステールさんはF級からの開始になりますが試験官との模擬戦で最高D級まであ がれます。ただ、模擬戦には料金をいただきますから、強制ではありません。いかがされますか?」
アステールの受付嬢はセーヤの知り合いであった。少し話しているうちアステールは必要事項を書き終え、受付嬢に渡す。
確認を終えた受付嬢はアステールに模擬戦の試験の説明をする。
それを聞き少し考えた後、受付嬢に答えた。
「受けようかな、料金っていうのはいくら?」
「銀貨2枚です。」
「じゃあ受けるよ。」
「はい。」
「ちょっとアステール大丈夫なの。」
カウンターに銀貨2枚を置いたアステールに、セーヤが問いかける。
三人組に絡まれても何もしていなかったのでセーヤの問いはもっともなのだが、アステールは「大丈夫」
といって受付嬢の後についていったので、しかたなくセーヤもついて行った。
「アステールさん、この方が試験官をされるC級冒険者のガンベルさんです。」
「お前が相手か?ひょろひょろだが冒険者なめてると死ぬぞ?」
模擬戦をするという訓練場についた一行を待っていたのは、ガンベルという熊のような冒険者であった。
C級ということはセーヤと同じ程度の実力であり、セーヤはアステールの心配をするが、セーヤの心配もガンベルの忠告にも「大丈夫だ」と答えた。
「そういや、お前はどうやって戦うんだ?」
「なんでもいける。」
「なんでもだぁ?まあいい、あそこから好きなの選びな。」
そういってガンベルが顎でさした先には、いろいろな木製の武器があった。
ちなみにガンベルは木製の大剣を持っている。木製ではあるが、ガンベルが使えば当たったら痛いでは済まないだろう。
木製の武器のなかからアステールが選んだのは、誰もが最初は手に取るロングソードであった。
「結局ロングソードかよ。なんでも使えるんじゃねぇのかよ。」
「うっせーな。基本が一番だろうが。」
「始めますよ、両者位置についてください。」
軽い口げんかを始めた二人を遮る形で受付嬢が開始の合図をしようとする。
セーヤは、アステールがそこまでいうなら見てみよう、という気持ちになり、観戦することにした。
そして、受付嬢が開始の合図を発した。
「では、模擬戦・・・はじめッ!」
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開始の合図を受けても二人は動かなかった。
ガンベルは、冒険者歴10年以上のベテランといって差し支えなかった。
実力ももう少しでB級になれるというC級であり、模擬戦の試験官を任されていた。
そして、その姿も相まってガンベルの前に立つ新人冒険者は、程度の違いはあるが必ず緊張していた。
しかし、今自分の前に立つ青年はどうであろう。
青年は緊張のかけらも見せず、自然体でいた。しかも、剣すら構えていない。
模擬戦を馬鹿にしているとしか思えないが、ガンベルは攻撃に移ることができないでいた。
それどころか、少しずつ汗すら書き始めた。
ガンベルをしてその体制に隙を見いだせないのだ。
(この異様な空気は・・・!まるであの時のようだ・・・)
ガンベルは昔を思い出した。
ガンベルがD級になり立てのころ。
ガンベルは調子に乗っており、強敵を探していた。
その時、ガンベルのいたギルドに死神の目撃情報が張り出されていた。
死神とは、竜神、魔神にならぶ、魔物でありながら『神』の名をつけられた、『化け物』ある。
ガンベルとて、戦おうという気などなかった。ただその姿が見れたら自慢になるだろうという軽い気持ちで目撃現場に向かった。
――恐怖――
ガンベルが一目みた瞬間感じたのはそれだった。
死神は目撃情報の場所にいた。ガンベルはそれをかなり離れたところから覗いた。
しかし、それだけの距離にいても伝わってくる死の気配。
ガンベルはなぜ彼の魔物が『死神』と呼ばれているかを悟った。
町に逃げ帰ったガンベルは二日、宿に閉じこもった。それほどに恐ろしかったのである。
そして、今目の前に立っている青年からもそれを感じる。
もちろん、あそこまで圧倒的なものではない。
しかし、それを発せられること自体が異常なのだ。観戦している二人に気づいてる様子はない。
おそらく目の前の青年は自分にのみ向けているのだろう。
ガンベルはそう冷静に分析した。
だが、ガンベルが冷静でいられたのはそこまでだった。アステールの空気に耐えられなくなったガンベルは高速で近づき、アステールにむかって大剣を全力で振り下ろした。
「ガンベルさんッ!?」
「ちょっと!?」
二人の方から悲鳴が上がるが、二人の想像したことは起こらなかった。
アステールが片手で受け止めたのだ。
「俺の勝ちだな。」
「・・・・!」
そういうとアステールは大剣を弾き、木製の剣をガンベルの腹に叩き付けた。
それだけでガンベルの巨体が飛び、訓練場の壁にめり込んだ。
ガンベルは防御しようとしたようだが、それより早くアステールの剣がたどりついたようだ。
「「・・・・・!」」
訓練場は、静まりかえっていた。当然である。新人冒険者がC級最上位とも呼べる冒険者を、子供を相手にするように倒したのである。
セーヤと受付嬢は信じられないようで固まっている。
そんな二人を無視してアステールはガンベルに近づく。
その様子を見て、受付嬢の方が先に意識を取り戻した。
「アステールさん!なにを・・・」
「まあ、見とけって。」
これ以上の攻撃をさせないため近づこうとすると、アステールに手で制され言葉を引っ込めてしまう。
それを確認したアステールは受付嬢を制した手をガンベルに向けると、ガンベルの体が少しの間光った。
光が収まると、アステールが受付嬢をみて、それからガンベルの方に顎を向ける。
様子をみてみろ、ということなのだろう。そう思った受付嬢がガンベルを見てまた驚愕する。
「無傷・・・!」
そう、あの攻撃を受けたにも関わらず、外傷もなく、気絶しているガンベルも苦しそうにしていない。
先ほどの光は回復魔術で間違いないだろう。
あの強力な攻撃に、重症を負った人間を一瞬で全快させる回復魔術。
一体この人は何者なのだろうかとアステールと名乗った青年を見上げる。
―――その見上げられた青年は・・・
「これで、D級昇格かな!」
と、至極ふつうに嬉しそうのしていた。




