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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
5章 過去の影
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一体、お前はどんな奴なんだ?

 休息がてらの情報収集のために丸一日を費やした翌日、俺達はクロスタウンの北門の外へと向かった。その北門近辺には、これから北へと向かう隊商がいくつも待機しているためだ。毎日北へ向かったり北からやって来たりするので、数多くの隊商がたむろしている。


 ただし、その装いは思ったよりも物々しい。正確には、隊商の規模の割に護衛の数が多い。原因は街道上に出没する盗賊のせいだ。商売人としてはできるだけ護衛の数を減らしたいんだろうけど、街道上の危険がそれを許さない。


 そんな中、俺は大規模な隊商に対して同行させてもらえないか交渉した。ところが、意外とこの交渉に手間取ってしまう。断られる理由は様々だ。


 「何でそんな若い女の子四人も連れとるんや? なんか訳ありなんとちゃうの?」

 「そんなどこかのええとこ出みたいな女四人と一緒に旅して、もしなんかあったらどうするんや? とばっちりで処刑なんて勘弁してや」


 さすが商人、見た目と雰囲気から正解をずばり当ててくる。金と危険の臭いをかぎつける能力は一流だな。けど、断られた理由は他にもある。


 「男所帯の中にそんな上玉四人を放り込んだら、どうなるかわかるやろ? そうゆうんは街だけで済まさんとな」

 「今は儂らも余裕がのうてな。他人の女を守ってやる余裕がないんや。戦力になるんならまだしも、当てにできるんが五人中一人やとなぁ」


 などと、風紀上の問題や戦力的な問題から断られたこともある。本当は戦力になるんだけど、それを披露する機会がないしな。そうなると見た目で判断されるのは仕方ない。


 「う~ん、意外とうまくいかないなぁ」


 そういえば、ライナスとバリーがハーティアへ上京するときにも、似たようなことがあったな。あのときは荷馬車に乗せてもらう交渉だったっけ。王都へ直接向かう荷馬車がなかったから、途中で乗り継いだんだよな。


 懐かしい思い出を引っ張り出しつつも、次にどの隊商へ声をかけようか考える。こうしている間にも、隊商は次々と出発しているからのんびりとしていられない。


 「師匠、冒険者ギルドで隊商護衛の依頼を引き受けてはどうでしょう? このままでは埒が明かないのではないですか?」

 「俺もそうしたいんだけどね。たぶん結果は変わらないよ。女四人じゃ戦力として不安があるってね」


 アリーの提案は俺も一番最初に考えた。何しろ報酬をもらって同行することができるからな。でも、隊商の商人か護衛指揮官のどちらかに不採用とされる可能性が高い。それに不採用となる度に冒険者ギルドで再手続きするというのも面倒だ。


 「もう、わたし達だけで出発するしかないのかしら」

 「それは最後の手段にしたいなぁ」


 自分達だけだと不安があるからこうして商人と交渉している。もちろんクレアの案も考えておかないといけないが、四人に何かあったときのことを考えると、どうしても避けたい。


 「あ、師匠、今度はあの隊商と交渉してみませんか?」


 首を捻って考えていると、アリーがとある隊商を指さして俺に勧めてきた。そちらへと視線を向けると荷馬車二台と護衛の馬車一台の小さな隊商みたいだ。ところが、そこにいるのは漆黒の髪に病的なまでに白い肌をした者達ばかり。魔族の隊商だ。


 「そういえば、魔界とも交易しているんだから、ここに魔族の隊商がいてもおかしくないのか」

 「あの者達ならば、同胞の私を見て同行を許してくれるかもしれません」


 うん、その可能性はあるな。よし、交渉してみよう。

 俺は四人を引き連れて、魔族の商人と話をしようと近づく。


 「あの、この隊商の隊長はどなたでしょうか?」

 「俺だが? あんたは?」

 「俺はユージといいます。この四人のとりまとめ役をしています。ノースフォートまで行きたいんですけど、同行させてもらえないですか?」


 この隊商の隊長は、何とも言えない表情を浮かべて俺達を見回す。そしてその視線はアリーのところで止まった。


 「そこのお嬢ちゃんも魔族のようだな。あんたみたいな上品そうなのが、ひとりで人間の中に混じっているのはどうしてなんだ?」

 「私は、アレクサンドラ・ベック・ライオンズだ。先日までペイリン魔法学園に留学していた。今はその帰りなんだ。私もここにいる皆と一旦ノースフォートまで向かうが、そこでの用を済ませたら魔界に戻る予定だ」


 アリーの話を聞いた隊長は目を見開いたまま言葉を失う。


 「なんでそんないいとこ出のお嬢ちゃんが護衛なしで旅してんだよ?!」

 「うん、やっぱりそう思うよな。俺もおかしいと思う」

 「思うじゃねぇ! てめぇがこの四人をまとめてんだろうが。詳しく話せよ!」


 ということで、俺は自分が学校の教師で四人中三人を故郷に帰さないといけないこと、そのためにノースフォートと魔界に行く予定であること、そしてこの先の盗賊対策としてどこかの隊商に同行したいことを説明した。


 「はぁ、俺も商売柄無茶することはあるけどよ、それとは違った意味で無茶苦茶なことさせられてんな、あんた」

 「拒否権なかったもんな」

 「うわ、やりたくねぇな、そんな仕事」


 隊長は心底嫌そうに首を横に振ってくる。話を少し変えて、担任として学生を実家に送り届けることになったということにしたが、別に嘘じゃないんだよなぁ。


 「それで、どうだろう。同行させてもらえるか?」

 「そうだなぁ。まぁ、そういう話だったらいいか。同胞のお嬢ちゃんを見捨てるわけにもいかねぇし」


 黒髪をがしがしと掻きながら仕方なさそうに、隊長は同行の許可をだしてくれた。やった、これで出発できる!


 「ただ、俺達はノースタウン経由でロッサまで行く予定だから、途中までしか同行できねぇぞ」

 「それでいいよ。ここからノースフォート行きの隊商なんてそんなにないだろうしね」


 話しているうちにすっかりと口調の戻ってしまった俺だったけど、相手は特に気にした様子はない。


 「よし、なら決まりだ! 俺達は明日の朝に出発するから、そのときにここへ来てくれ」

 「わかった。ありがとう。えっと」


 俺は隊長と握手を交わしながら、そういえば名前を聞いていなかったことに初めて気づいた。そんな俺の様子を見た隊長は、自分がまだ名乗っていないことに気づいたんだろう、左手で頭を掻きながら名乗ってくる。


 「俺はレスターってんだ。これからしばらくの間よろしくな」


 こうしてようやく、北へと向かう同行者を得ることができた。




 レスターの隊商は荷馬車二台に護衛の馬車一台から成り、全員魔族だ。荷馬車には一台につき二人が乗っている。レスターと使用人の三人だ。護衛の馬車には御者台の御者を含めて六人いる。


 積んでいる荷物は、ウェストフォート近辺で採取された動植物とロックホールで製作された工芸品が中心だ。素人目で見たところ、どうも単価の高い商品を扱うことで規模の小ささを補っているらしい。


 同行の交渉が成立すると、俺達はレスターの仲間と面通しをすることになった。さすがに同行するのに顔も名前も知らないというのはまずいもんな。


 休憩中だったのか、隊商の面々はすぐに集まった。そして、レスターがひとりずつ紹介していく。それに対して、こちらは俺をはじめ、ひとりずつ紹介した。やはり一番反応があったのはアリーだ。


 「ま、こんなところだな。みんな、何か聞きたいことでもあるか?」

 「レスター、このユージってのがどの程度の実力なのか試してみたい」

 「お前は本当にそういうのが好きだな、マイルズ」


 紹介が終わったところでレスターが質問の有無を尋ねてみると、隊商護衛のパーティリーダーであるマイルズという魔族の男が声を上げた。レサシガムの冒険者ギルドでの騒動といい、ここ最近は定番イベントがよく起きる。珍しく俺がハーレムパーティっぽい中にいるからか?


 レスターが呆れて視線を向けているのを気にもせず、マイルズは俺を無表情で見る。え、朝っぱらからこんな目立つところでやるの?


 「済まねぇが、マイルズの相手をしてやってくれねぇか? ああなるともうこっちの話を聞きゃしねぇんだよ」

 「安心しろ。寸止めにする。別に殺したいわけじゃないからな」


 うわぁ。至ってまじめな顔で一言入れてくるマイルズの顔を見た後、俺は思わずアリーにちらりと視線を向けた。そういえば、かつて誰かさんとも似たようなやり取りをしたなぁ。あのときは学校に木剣があったけど、今回は真剣か。


 アリーはさも当然のように今の話を聞いているのに対して、他の三人は動揺したり緊張したりしている。確か魔族って筋肉的思考をするんだっけ。そうなると、ここは勝負して負けるよりも逃げた方が後々やりにくいだろうな。


 「わかった。ただし、魔法はなしで武器のみとしよう。流れ魔法でけが人を出すわけにはいかないからな」

 「いいだろう。なら、あっちに人気のない場所がある。そこでやろう」


 俺はその提案に頷いた。


 マイルズはレスターに許可を取ると、仲間のうち二人を伴って歩き始める。それに対してこちらは俺達全員だ。


 街を囲む防壁に沿って二十分ほど歩く。十五分ほど隊商の集まる中を歩き、それを抜けて邪魔が入らないところまで移動した。


 「ここでいいだろう。勝負はさっきお前が言った通り、魔法はなしだ。決着の方法は降参の意思を示すか、動けなくなるかのどちらかでいいな。それと治療のための薬師をひとり連れてきている。怪我に関しては余程のことがない限りは完治させられる」

 「治療に関してはこっちにも僧侶がいるから大丈夫だ。他も問題ない」


 俺の返事にマイルズはひとつ頷いた。そして長剣ロングソードを抜く。それに呼応して俺も右手に鎚矛メイスを収めた。


 マイルズの装備はアリーと同様に黒を基調としたものだが、アリーのものよりも色が薄い。鎧の材質はよくわからないけど革の鎧なんだろう。剣に関しては市販されているものとみていい。こちらで買ったのか、それとも魔界でも同じ物が売られているのかは知らないが。


 彼我の距離は二アーテム。魔法戦と違って、武器を使った近接戦闘ならこんなものだ。見届け人というか見物人は俺達二人から十アーテム離れている。


 「それでは始めようか」

 「ああいいぞ」


 俺が答えた瞬間、マイルズはいきなり片手で持った剣で突いてきた! 思わず鎚矛メイスで弾きながら下がる。


 「さすがに真正面からだと不意打ちにはならんか」


 突きをかわされたことに驚くこともなく、マイルズは独りごちる。


 一方の俺はその突きの重さに驚いていた。いつもの調子で弾こうとしたけど上手くいかなかったから、上半身を大きくのけぞらせて下がるしかなかった。


 しかし、じっくりと考えている暇はない。すぐにマイルズが踏み込んで剣を振ってきたからだ。再度突きから始まって、剣を振り上げてから顔に向けての打ち込み、下段からの切り上げと連続で繰り出してくる。こっちはそれを躱し、受け流し、そして再度躱すわけだが、鎚矛メイスで受け流す度にその剣の重さに顔をしかめる。


 あんまり攻撃されっぱなしだと詰んでしまうから、たまに反撃するが牽制以上の意味を持たない。


 「反撃してこないとやられっぱなしだぞ?」


 最初から右手一本で剣を扱い続けるマイルズが、推し量るような目を向けてくる。そりゃろくに反撃してこなけりゃ不思議に思うよな。俺もできれば反撃したいんですけどね!


 そのとき、視界の一端にアリーの姿が入った。真剣な表情でこちらを見つめている。そういえば、アリーと学校で決闘まがいのことをしたときも、最初はこんな感じだったか。


 そこまで考えたとき、俺は人間と魔族では身体能力に大きな差があることを思い出した。だからあのとき魔法で身体を強化したんだったよな。どうして忘れていたんだろう。


 目の前のマイルズも魔族なんだから、素の状態の俺が真正面からやり合っても勝てるはずがない。どうして魔法の使用を禁止したんだ、俺の馬鹿!


 仕方がないので戦い方を変える。これからは体術も使って対応することにした。


 「なに?」


 明らかに今までの戦い方と変わった俺に対して、マイルズは戸惑いを見せる。長剣ロングソード鎚矛メイスを使った戦いから、拳や脚が飛び出してくるようになったからな。


 さすがに一旦仕切り直すために距離を置いたマイルズは、剣を構えたままこちらを見据える。それに対して俺も鎚矛メイスを構えたが、肩で息をしていた。


 「自己紹介のときに魔法戦士と名乗っていたが、腰にぶら下げていたのが鎚矛メイスで不思議に思っていた。しかし、今の戦い方を見て納得できた。ユージ、お前は魔法が使える戦士ではなく、戦士として戦える魔法使いなんだな」

 「そうだよ。一応前衛も務められるけどな」


 マイルズの言葉に俺は頷いた。それを見たマイルズは、ため息をひとつつくと剣を収めた。どうも試験は終わりらしい。


 「もういいのか?」

 「ああ。どんな奴なのかを知りたかっただけだからな。それにしても、体術まで使えるというのには驚いた。器用な奴だな。しかしそんなことをするくらいなら、魔法を極めればいいものを」


 何とも中途半端な存在に見えるけど、立ち回り方によっては万能になるんですよ? それにある意味、魔法はもう極めているといえるくらい使えるし。


 「俺にも事情があるんだよ」

 「だろうな。まぁそれはいい。これから短い間だが、共に旅をしよう」


 そう言うと、マイルズは右手を差し出してきた。俺も鎚矛メイスを左手に持ち替えて右手を出して握手する。


 これでレスターだけでなく、護衛隊長のマイルズにも認めてもらえた。少なくとも一緒にいる間は安心して旅ができるだろう。

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