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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
3章 自分の都合、他人の都合
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黒幕と果たし状

 カイルが闇討ちをされたが、幸いにしてこれは撃退できた。しかし、依然として授業妨害の原因はわからない。恐らく闇討ちも授業妨害に関連しているんだと思うけど、確たる証拠が今のところはない。


 わかっていることは、ピック先生とその学生達が補習授業を正当な理由なく妨害してきたこと、全員貴族出身で今まで俺達とは接点がなかったことくらいだ。ああそれと、闇討ちの方は、四人の学生とカイルは知り合いではないが、同じ二回生らしい。なんと四人ともいずれかの授業でカイルと同じだったそうだ。そのため、四人とも貴族出身だということがわかっている。


 これだけ見たら、貴族出身の教師と学生が俺達を狙っているということが浮かび上がってくる。更に、教師までもが堂々と出てくるということは、学生同士の争いじゃない。これは教師の誰かが妨害しにきている。しかも、パック先生本人じゃなければ、他の教師を動かせる誰かだ。


 モーリスと相談して、カイルが闇討ちされた件は黙っておこうということになったが、信頼できる人と相談はしておいた方がいい。


 そこで俺は、闇討ちを受けた夕方にサラ先生の教授室へと向かった。


 「いらっしゃ~い。今日は何かな~」

 「失礼します。今日は昨晩カイルが闇討ちを受けた件について相談しに来たんです」


 前置きなしでいきなり本題に入った俺にサラ先生は驚いたようだが、話の内容を理解すると真剣な顔を返してくる。そこで俺は、闇討ちの件と授業妨害の件について簡単に説明した。あと、そこから浮かび上がってくる状況証拠についてもだ。それが終わる頃には、珍しくサラ先生の顔は渋くなっていた。


 「今更やけど、できれば授業妨害されたときに話をしてほしかったな~」

 「すみません。忘れていました」


 間抜けな話だが、これは本当のことだ。スカリーが話をしているだろうと、どこかで安心していたのかもしれない。補習授業はサラ先生が命じたことなんだから、問題があったら報告するべきだったんだよな。


 「まぁ、済んだことはしょうがないね~。それよりも、今のユージ君の話を聞いてると、貴族出身の先生が裏で糸を引いてそうやね~」

 「ええ。でも、心当たりがさっぱりなくて」

 「赤の他人が逆恨みするって可能性もあるんやで?」

 「え、でもそれは……」


 けどそんなことまで可能性に入れたら、手持ちの材料からだと何も推測できない。

 俺が口籠もると、サラ先生は笑顔のまま口を開く。


 「うちは、心当たりがひとりあるねん」

 「え? 今の話だけでわかるんですか? 誰なんです?」

 「マルサス先生」


 その名前を聞いて俺は固まった。確かにあの人ならやりかねない。いや、何かあったらこういったことを仕掛けてきそうに思える。


 「でも、どうしてマルサス先生なんですか? 俺、恨まれるようなことはしていないですよ?」


 そもそもほぼ接点なんてないし、向こうだって俺を歯牙にもかけていなかったはず。なのにどうして、いきなり授業妨害や闇討ちなんてしてくるんだ?


 「うん、ユージ君は何も悪くないよ。マルサス先生の逆恨みやから」

 「逆恨み? 何に対してですか?」


 さっきから疑問ばっかりだが、これは仕方ない。本当に何も知らないんだから。


 「シャロンちゃんとクレアちゃんをマルサス先生から取り上げた、ってゆうことになってんねん。あの先生の頭の中では」

 「どこをどうやったらそんな結論になるんですか?」

 「二人にマルサス先生の勧誘を断らせてうちの研究室に入れた上に、見下していた平民出身の先生がうちにうまく取り入ってそこの補佐役に就いた、っていうことになってるらしいで?」


 おぅ、突っ込みどころしかないというのはこのことか。いくら俺のことが嫌いだからってもっと事情をよく調べるべきだろうに。


 「サラ先生は、それに対してどう思っているんですか?」

 「シャロンちゃんについては、元々スカーレットに心酔してたからその影響やし、クレアちゃんは、光属性の魔法が使えへんからどうにもならへんやんって説明したよ。あんた、ユージ君と一緒にクレアちゃんの面倒見られるんの? ってゆうたら最後には黙ったけど」


 何が面白いのか、より一層にこにこ笑顔になるサラ先生。何だろう、また何か企んでいるように思える。というか、今、説明したって言ったよな。


 「マルサス先生と話をしたんですか?」

 「そりゃもちろん、以前マルサス先生がうちんところに押しかけてきたからね~。先月のことやったな~」

 「それで、サラ先生はマルサス先生の意見を一蹴したと」

 「そうや。例えユージ君が絡んでのうても、最終的にはこうなってたやろうし、ゆうだけ無駄なんやけどな。自分の見込んだ高貴な学生が、平民ごときにかすめ取られたんが我慢できひんかったみたいやね~」


 その童顔に侮蔑の色が入るとちょっと怖いですね。あれ、もしかしてサラ先生ってマルサス先生を嫌ってる?


 ともかく、サラ先生に主張を受け入れてもらえなかったマルサス先生が、どうも裏で行動を始めたらしいことがわかってきた。授業妨害をすることで暗にサラ先生へと抗議をし、闇討ちで俺への仕返しというわけか。しかも、五人の中で一番面倒にならなさそうなカイルを選ぶところが実にいやらしい。


 「でも、授業妨害と闇討ちを指示したっていう証拠はないんですよね?」

 「そうやねん~。証拠がないんや~」

 「なら、マルサス先生以外でも、俺を恨んでいる先生がやった可能性があるんじゃないですか?」

 「それはないな~。貴族出身の推薦で入った教師に堂々と授業妨害させられる先生なんて、マルサス先生以外やと、残るはうちとおとーちゃんくらいしかおらんもん」


 うゎお。実は俺が思っていた以上にマルサス先生は偉かった模様。早速ペイリン家の後ろ盾が役に立っているぞ。なんてこった。


 ちなみに、この世界でどこかの組織に人を推薦で入れるということは、その人の後ろ盾になるということを意味している。つまり、何かあったら推薦人ともやり合わないといけない。俺みたいに試験で入った奴とは全然違うのだ。


 「まぁ、仮にマルサス先生が黒幕だったとして、俺に仕返しするために動いているとしましょう。でもそれ以外に、サラ先生もマルサス先生と確執があるんですか?」


 さっきからマルサス先生に対する敵対的な発言がちらちらと見え隠れしている。雲の上の争いなんて、巻き込まれてもいいことないしなぁ。


 「うふふ。次期学園長の座を狙うってゆうだけやったら、まだよかったんやけどね~」


 あ、これはこれ以上聞いたらあかん話や。

 続きを話そうとするサラ先生に被せるようにして、俺は口を開く。


 「それじゃ、俺達は今後も当面は狙われるってことですね」

 「まぁな~。できれば、次になんかあったら、証拠や証人を押さえてくれると嬉しいな~。多少の無茶はどうにかしてあげるで?」


 さすがあの娘さんの親御さんだけある。考え方が同じだ。


 「あの、できればこれ以上変なことに巻き込まないでくださいね?」

 「面白いことゆうね? 今回の主役はユージ君なんやで?」


 俺はがっくりとうなだれると、笑顔のサラ先生に見送られながら教授室を退室した。




 あれから数日が過ぎたけど、特に何も起きていない。サラ先生の話が正しいのなら、諦めたのではなくて機会をうかがっているんだろうな。


 そんな全然気が休まらない平穏な日々だったが、ついに動きがあった。今度はアリーだ。


 「師匠、私宛にこのような果たし状が届いたのですが」


 ある日の夕方、教員室で仕事をしているとアリーから呼び出された。何事かと出向いたところ、一通の手紙を差し出される。


 見たところ、封筒には何も書かれていない。中にある手紙を取り出してみると、今日の日没後に決闘をするため、倉庫裏の広場へ来るように指定してあった。来なければ、魔族は揃って臆病者だと認めたと見なす、とある。


 「なんだこれ? 突っ込みどころ満載の文章だな」


 まず、どうしてアリーに決闘を申し込んでくるのかがわからない。公開すると都合の悪い理由で決闘なんて普通はしない。一般的にはアハーン先生とビル先生がやったような手順を踏むそうだから、理由も告げずに決闘を申し込むなんてのがそもそもおかしい。


 次に、相手の名前が書いていない。これでは誰と決闘するのかこちらはわからない。


 更に、決闘するのにどうして日没後なのかという疑問が湧く。魔法の光明ライトを使って明るくする方法はあるが、そんなことをしなくても昼間にすればいいだけの話だ。


 他にも、倉庫裏の広場なんて目立たないところを指定する意味もわからない。訓練場があるんだからそこを使えばいいだろう。


 それでいて、あっちの要求に応じなければ臆病者と見なすというのは理不尽だ。


 つまるところ、これは決闘を装った闇討ちへのご招待というわけだ。誘い出せるならなんでもいいという浅はかな思考が透けて見える。


 「師匠、私としてはこれに応じなければならないのですが、師匠はどう思われますか?」

 「明らかに罠だよな。アリーもそれはわかっていて応じるつもりなのか?」

 「はい。私だけならともかく、魔族全体を臆病者とそしられるのは見過ごせません」


 実家が出てくると面倒だから大丈夫だと思っていたけれど、そうでもないようだな。カイルなら笑い飛ばして無視することでも、アリーは看過できないという性格を突かれた形だ。


 「もうあんまり時間がないな。アリー、他の四人をすぐに集められるか?」

 「カイルはすぐにでも。スカリーはたぶんサラ殿の研究室でしょう。他の二人はわかりません」

 「だったらカイルとスカリーに教員宿舎の裏手に集まるよう連絡してくれ。クレアとシャロンはスカリーが居場所を知っていると思う」

 「承知しました」


 アリーは二人を呼び出すためにこの場から走り去る。

 一方、俺の方はモーリスを教員室前にまで連れ出した。


 「ユージ、どうしたんだい?」

 「アリーに正体不明な奴から果たし状が届いた。たぶんカイルを襲撃した連中と同じだろうから、今回は一網打尽にする」


 俺が一気に概略を説明すると、モーリスはにやりと笑った。


 「やっとか。これで怯えながら補習授業をせずに済むよ」

 「笑顔で言われても説得力がないな」

 「何とでも言うがいいさ。ともかく、そうなるとアハーン先生も来てもらった方がいいよね。呼んでくるよ。ここで待っていればいいんだよね?」


 俺が頷くとモーリスは再び教員室へと向かう。同時に、俺はサラ先生の教授室へと足を向けた。


 重厚な扉を控えめに叩いて来訪を告げ、中に入れてもらう。そして、サラ先生が口を開く前に俺がしゃべった。


 「失礼します。アリー宛に正体不明な奴から果たし状が届きました。日没後、倉庫裏の広場を指定しています」

 「あら~。ついに来たのね」

 「今はこっちで人を集めています。モーリス、アハーン先生、カイル、スカリーが協力してくれる予定です。クレアとシャロンは見つかれば同じように協力してくれるでしょう」

 「随分手際がいいわね~。それで、うちは何をすればええんかな?」

 「襲撃者は恐らく多数です。そのうちの何名かは取り押さえるつもりですから、連中の身柄を引き受けてください」

 「わかった。こっちも準備しておくさかいに、あんじょうきばりや~」


 次第に満面の笑みになっていくサラ先生を見ながら、結局下っ端として動いているよな、って思う。どうにも面白くないけど、サラ先生の協力がないと襲撃後の後始末が厄介なことになる。あーもう困ったなぁ。


 サラ先生から必要な協力を取り付けた後、俺は再び教員室へと戻る。


 「あ、戻ってきたね」

 「話は聞きましたぞ、ユージ先生」

 「ついてきてください」


 モーリスとアハーン先生を見つけるなり、俺は二人を急かすように教員宿舎の裏手へと案内した。予想外のところへ連れて行かれて驚いた様子の二人だったが、そこにアリー以下四人がいて更に驚いた。


 「師匠、そのお二人も参加されるのですか?」

 「どうせなら数は多い方がいいからな。そうだ、例の果たし状を貸してくれないか?」


 アリーが差し出してくれた果たし状を、俺はモーリスに手渡した。何も書かれていない封筒をしげしげと見回した後に手紙を見たモーリスは、呆れたように苦笑いをする。続いて手紙の文面を見たアハーン先生はため息をついた。


 「なんていうのかな。先生に添削してもらった方が良かったんじゃないのかな」

 「全くなっておりませんな。果たし状ひとつまともに書けんとは、情けない」


 果たし状の胡散臭さ以上に、文面そのものに一言ありそうな二人だった。


 それを見た後、日没まであまり時間がない中、俺は目の前の七人に向かって口を開く。


 「みんなも知っての通り、アリーに正体不明な奴から果たし状が届いた。時刻は日没後、場所は倉庫裏の広場だ。たぶんカイルを襲撃した連中と同じだろうから、今回はこいつらを一網打尽にする」


 俺の言葉を聞いた七人の戦意が上がる。


 「今度は本物の果たし状なんやな!」

 「うっ」


 約一名、スカリーの口撃で胸を押さえているがとりあえず無視だ。


 急速に暗くなってゆく中、俺は倉庫裏の広場近辺を捜索サーチで探ってみた。すると、二十人程度が集まっている。どれだけ本気なんだ。


 「相手はこちらを上回る数で襲いかかってくるはずだから、五人は今すぐ宿舎に戻って課外戦闘訓練のときに使った防具を身につけること。こんなことで大怪我をしたらつまらないからな。先生三人は訓練場の倉庫から武器を取ってくる」


 ちょっと予定を変更して、本格的な装備で立ち向かうことにしよう。これだけの人数だと万が一ということがあり得る。武器はさすがに本物を使えないから、学校のものを持ち出そう。


 「集合場所はここだ。それじゃ、一時的に解散!」


 俺がそう宣言すると、五人は学生宿舎に向かって走り去ってゆく。そして、俺もモーリスとアハーン先生を率いて訓練場へと向かった。


 思った以上に大事になりそうだけど、もうここまで事態が進んだ以上、やるしかない。

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