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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
1章 ユージ、教師になる
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シャロン達の希望進路

 演舞会が終わると前期と同様に通常の授業が行われる。俺の場合は、以前よりも仕事量が増えた以外は何も変わらない。


 演舞会の翌日、後期初めての授業に望んだ。アリーとカイルにはよく会っていたが、他の三人は久しぶりだな。


 「みんな、久しぶりやな!」

 「おおっ! スカリーやんか! ほんまに久しぶりやな! 実家ってここやったはずやのに全然見かけへんかったんは何でや?」

 「うちはレサシガムの本邸にずっとおったんや。クレアとシャロンも一緒やったんやで」

 「スカーレット様のご自宅といえば、かのメリッサ・ペイリン様のお屋敷! 魔王討伐隊も宿泊したという由緒あるお屋敷に滞在できたなんて、夢のような日々でしたわ!」


 この三人は集まると実に姦しい。最初の挨拶から全力である。


 それにしてもレサシガムのペイリン本邸か。懐かしいな。シャロンのいうとおり、あそこでしばらく泊まって色々修行していたなぁ。そういえば、メリッサのおじいちゃんって変わってたよな。


 「久しぶりね、アリー」

 「ああ。クレアも元気で何よりだ。ずっとスカリーの屋敷にいたのか?」

 「うん。でも、街に出かけたり、少し遠出をしたり、いろんなところに出かけてもいたわよ。アリーは?」

 「私は、師匠とカイルの三人で修行をしていた」

 「学校で、ずっと?」

 「そうだ。これがなかなか有意義でな、特に師匠との対戦はとても楽しみにしていたのだ。面白かったぞ」


 アリーとカイルは毎日修行をしていたようだ。俺はさすがに毎日というわけには行かなかったが、何かと様子を見に行っていた。


 「先生ぇ、今カイルから聞いたんやけど、ほんまに毎日修行しとったんかぁ?」

 「ほんまやって! 俺すっげぇがんばってたもん! な、先生!」

 「頑張っていたのは確かだぞ。毎日かどうかはアリーが知っている」

 「ねぇ、アリー。本当にカイルは毎日修行していたんですの?」

 「ああ。毎日朝から夕方まで一緒に修行していたぞ。競う相手がいて私も楽しかった」


 俺とアリーの言葉にスカリーは、驚いた表情のままカイルに目を向けた。そんなに信用できなかったのか。


 「あんた何でそんな真面目に修行してたん?」

 「スカリー、酷いじゃないの。カイルの言うことをどうして疑うの?」

 「いや、何でって、この性格で街に繰り出さへんって、どう考えてもおかしいやん」


 ある意味スカリーの疑問は正しい。何しろ金があったら友達と街に繰り出すつもりだったらしいからな。


 「ほら見てみい。俺のゆうとおりやったやろ」

 「金がなくて街に行けなかったからだけどな」

 「ちょっ?! 先生、それゆわんといてぇな!」


 俺の暴露発言を聞いた瞬間、スカリーとシャロンが爆笑する。クレアは頑張って我慢しているが、後一押しで我慢という堤防が決壊しそうだ。事情を知っているアリーは苦笑いしていた。


 「おかしいと思いましたわ。やっぱり裏があったんですの」

 「あはは、まぁ、そんなことやろうとおもたわ。でもそれやったら、冒険者にでもなって小遣い稼ぎでもしたら良かったんとちゃうん?」

 「カイルはまだ十四歳だから、冒険者登録ができなかったんだよ」

 「……あー、そんなことゆうてたなぁ」

 「ご実家の事情でしたよね、確か」


 俺の言葉にカイルの事情を思い出したスカリーが、少し気まずげに顔をしかめた。クレアも表情を曇らせる。


 「小遣いに困ってるんやったら、少しくらい融通すんで?」

 「わたくしもお金には余裕がありますから、いくらかでしたら構いませんわよ」

 「お前ら、笑いもんにしたと思たら、急に哀れむんかいな。けど、そんな心配せんでええって。来年になったら冒険者登録ができるさかいに、それまでの我慢や」


 珍しく遠慮がちに提案してきたスカリーとシャロンに対して、カイルは呆れながらその申し出を断った。きっとそこは譲れない一線なんだろう。何となくわかる。


 「街で遊べなかった分、カイルは修行に打ち込んだから強くなっている。その成果を三人に見せてやろうではないか」

 「お、ええことゆうやん、アリー。よっしゃ、今日の授業は気合い入れてやんで!」


 カイルが強くなったのは事実だ。それほど急激にというわけではなかったが、細かい問題点を解消していったので、戦い方に隙がなくなったのである。この様子だと来年には冒険者として活動しても何とかなるだろう。




 後期最初の授業は、学生の能力確認で終始した。持久力、瞬発力、体力、筋力などの肉体的能力の確認や、前期に使っていた呪文の詠唱がきちんとできるかという魔法の精度と速度の確認、それに簡単な模擬試合をやっていた。


 今回の授業の目的からすると、対象としているのはスカリー、クレア、シャロンの三人といえる。アリーとカイルは休み中ずっと面倒をみていたから知っているしな。


 授業の結果、スカリー、クレア、シャロンの身体能力は多少落ちているものの、呪文の詠唱に関しては問題なしだった。クレアが白状したところによると、遊びに出かけたとき以外はずっと屋敷にいたらしい。


 逆にアリーとカイルは休まず修行していたこともあって、他の三人はその結果に目を見張っていた。肉体的能力が上がっているのはもちろん、模擬試合でアリーに勝てる者はいなかったし、魔法の苦手なカイルでさえも優勢に試合を進めていたくらいだ。


 「うそ、カイルに魔法戦で圧倒できひんってどういうことやのん……」

 「手数は多いし、いろんな魔法を使つこうてくるけど、仕掛け方が単調やからや。スカリーの攻め方って前期のときと全く同じやん」

 「わたしも全然相手にならなかったです。色々と試してはみたんですけど」

 「クレアは戦い方がいくつかあるのはいいことだが、その戦法ひとつずつは教科書通りにしかなぞってないだろう? それではせっかく戦い方を切り替えても、知ってしまえば対処できてしまうぞ」

 「ということは、私の攻撃が全然当たらなかったのも、大きな欠点があるのですわね」

 「せやな。シャロンの場合、攻撃を当てる工夫がないんや。確かに当たったらでかいんやけど、そもそも当たらんからな」


 授業の終了間際、お互いにどうだったかを話し合う時間を設けたが、このようにアリーとカイルがスカリー、クレア、シャロンに対して意見を述べるという形になっていた。


 「夏休みにのんびりするのが悪いとは思わんけど、真面目に修行しとった奴とこんなに差がつくんか。たまらんなぁ」

 「将来は研究職に就くのが希望と言っていたのだから、戦闘で劣っていても良いのではないか? 逆に私やカイルはそちらの方面は逆立ちをしても敵わないぞ」

 「それでもな、魔法の才覚だけみたらうちが一番のはずやのに、限られた魔法であんなにうまいこと躱されたり攻撃されたりしたら、こう、精神的にくるものがあるで、やっぱり」

 「スカリーの屋敷で魔法の練習はしていたんですけれどね。それだけでは全然足りなかったようです。後期からはわたし達ももっと頑張らないといけません」


 お、どうやらアリーとカイルの成長は、スカリーとクレアの闘争心に火を付けたようだ。この二人ならあとは勝手に成長してくれるだろう。


 「ということで、先生、これからはうちらも鍛えてもらうで!」

 「そうですね。お願いします、ユージ先生」

 「え? 自分で何とかするんじゃないの?」

 「何ゆうてはりますの。先月ずっと二人を鍛えてたんは先生なんやろ?」

 「そうです。わたし達も同じように指導してもらわないと不公平です!」

 「はは。先生、こりゃ授業外でも忙しゅうなりそうでんなぁ」


 スカリーとクレアに詰め寄られている俺の姿を見て、カイルは楽しそうに笑う。暢気にこっちを眺めているようだが、お前も師範代として巻き込んでやるからな。


 そうやってしばらくみんなで話し込んでいたが、ふと、いつの間にかシャロンが話の輪から外れて考え事をしていることに気がついた。最初は一緒に話をしていたはずなんだけどな。


 「シャロン、一体どうしたんだ?」

 「あ、ええっと……ちょうどいいですわね。ユージ教諭、お願いがありますの」

 「なに、急に改まって」


 アリーとカイルは何事かとこちらに視線を向けた。何も知らない俺も同じだ。一方、スカリーはにやにやと笑い、クレアはにこにこと笑っている。


 「後期からこの授業へ正式に入れていただきたいんですの」

 「前期に受けていた戦闘訓練の授業は?」

 「教諭も学生の皆さんも良い方なのですが、授業内容はこちらの方がわたくしに合っていますから、お願いしているんですのよ」


 この学校では、後期の最初の一ヵ月である九月は、前期からの通年授業であっても乗り換えができる。これは、やはり自分に合っていなかったときのための措置だ。もちろん、半年だけの授業の場合は、ここで新たに選択することになる。


 「先生、今回の話は、うち関係ないしな」

 「え? そうなんだ。てっきり本心はスカリーと一緒にいたいからと思った」


 何やら自分のやったことが評価されたみたいで嬉しいな。


 「それで、こちらの授業に寄せていただいてもよろしいでしょうか?」

 「ああ、うん。そりゃ構わないよ。拒む理由なんてないしな」

 「よっしゃ、これでシャロンも俺らの正式な仲間になったっちゅーことやな」

 「……カイル、今までは違ったの?」

 「何でクレアが怒るんや。いや待て、今までも仲間やったで?」


 何気ない一言でクレアの怒りを買ったカイルが、俺の横で追い詰められていた。


 「そうなると、授業変更の手続きをしないとな」

 「それはわたくしが申請いたします。後日、ユージ教諭にも連絡が届くはずですわ」


 仲間が増えるのはいいことだ。最初、シャロンは距離を掴むのに困っていたようだが、今ではすっかりこの集団に溶け込んでいる。


 ただ、気になることがひとつだけあるんだよな。俺を嫌っているマルサス先生のことだ。シャロンと初めて会ったのがマルサス先生の部屋だけに、どうしてもそのことが引っかかる。こっちにやましいことなんて何もないけど、やることなすこと全てを邪魔されるのも嫌だしな。その辺りはどうなっているのか気になる。


 「シャロン、確認したいことがあるんだが、いいか?」

 「なんでしょう?」

 「俺と初めて会ったのがマルサス先生の部屋だったけど、三回生になったら専門課程でマルサス先生のところを選ぶのか?」

 「はい?」


 この質問を聞いたシャロンは、どんな意図があるのかわからなかったようで、首をかしげるだけだった。一方、スカリーは何を聞いているのかピンと来たらしく、シャロンに向き直って口を開く。


 「シャロン、マルサス先生は平民嫌いやろ? そやから、平民のユージ先生は嫌われてんねん。もしマルサス先生がシャロンに目をかけとったら、今後色々都合が悪くなるやろうし、それを気にしたはるんや」

 「ああ、そういうことですの」


 スカリーの説明でシャロンはやっと納得したようだ。それはクレア、アリー、カイルの三人も同じだったが、こっちは微妙な表情である。


 「それでしたらご心配なく。わたくしは元々魔法探求のサラ・ペイリン教諭を選ぶつもりですから」

 「あれ、それじゃあのとき、どうしてマルサス先生の部屋にいたんだ?」

 「それは、マルサス教諭に、将来専門課程で自分のところに来ないか誘われたからですわ。あの後、ユージ教諭が退室されてから辞退しましたの」

 「魔法技術だもんな、あの先生」


 密かに全身の力が抜けた。ということは、最悪の事態は避けられたのか。断った時期が俺と初めて出会ったときなら俺は関係ないしな。少なくとも、恨まれる理由はひとつ減った。


 「なんや、シャロンはうちと同じなんか」

 「ええ、どこまでもご一緒ですわ、スカーレット様!」


 シャロンに尻尾があったら思いっきり振ってそうだな。見ていてほほえましい。


 「ちなみに、他の三人はどうするのかもう決めているのか?」

 「俺は軍事教練か護身教練やな! どっちにするかはこれから決めるつもりや」

 「わたしは、魔法技術にするつもりです。やりたいことがありますから」

 「私はたぶん護身教練になるでしょう。魔法技術にも興味はありますが、やはり体を動かす方が性に合っています」


 まだ一年半後の話だから何も決めていないと思っていたら、意外にみんなやりたいことがあるらしい。特にクレアが既に方針を固めているというのを聞いて少し驚いた。


 「なるほどな。今の話を聞いていると、アリーとカイルの修行に付き合ったのは正しかったのか」


 特に意識したわけではなく、流れでそうなったというような感じだが、将来の話を聞く限りは正解のようだ。


 「お、すっかり話し込んでしまったな」


 ふと気づいて周囲を見回すと、訓練場内には俺達しかいなかった。授業中の話からシャロンの授業乗り換えの話、そして専門課程の話と色々話していたせいだ。


 「よし、今日はここまで。さっさと出て昼ご飯にしよう」

 「よっしゃ。今日は何を食おうかなぁ」

 「カイル、お前は出ている料理をどうせ片っ端から食べていくではないか」

 「え、あれ全種類食べんの?! あんたのお腹どうなってんねん」

 「聞いただけで胸焼けします」

 「せめて上品に食べてくださいな」


 俺の終わりの合図と共に五人が訓練場の外へと歩いて行く。

 今日は片付けるものは何もないので、俺もそれに続いて訓練場の外に向かって足を向けた。さて、今日のメニューはなんだろう。

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